アダルトチルドレンのロストワンは、存在を消すことで過酷な環境を生き延びてきたため、「自分を出さないことが正しいこと」という認識を持っています。
それがさらに飛躍し自分の存在を迷惑なものと思い込んだり、常に疎外感を覚えるようになります。
この状態を放置すると、「この世から消えたい」という考えが浮かんでしまう危険性があります。
ロストワンを克服するには、「負担感の知覚」と「所属感の欠如」という2つの感覚を捨てる必要があります。
そのために有効な施策は、「認知バイアスの修正」と「逆方向の行動」です。それぞれについて、分かりやすく解説します。
「存在を消すことは正しいこと」という認識の形成
ロストワンは子供時代に、家族のなかで目立たないように振舞ってきました。
親の精神が不安定だったり、家庭内に問題が多かったため、そこで自分が何かすると余計に混乱させてしまうと判断していたからです。
このように自分の存在を消すことが自分の身を守ることや、家庭内の安定につながりました。成功体験を積んだといえます。
この成功体験により、自分の感情を隠すことや、存在を消すことは正しいことなのだと思うようになります。
それがさらに進み、感情を出してはいけない、自分はいてもいなくても同じ存在という感覚を持ったまま、大人になります。
大人になったロストワンが持つ2つの感覚
このような経験をしてきたロストワンは、大人になってから、「自分の存在は相手の負担」「仲間内に所属できていない」という2つの感覚を持ちます。
これらの感覚はそれぞれ「負担感の知覚」「所属感の欠如」とよばれます。
1. 負担感の知覚(perceived burdensomeness)
自分の存在や、行動が周囲の人の負担になっているという感覚です。実際に相手がどう思っているかに関係なく、「自分は人の役に立つよりも迷惑になっている」という感覚が強いです。
そのため、助けを求めることに罪悪感を抱いたり、自分の気持ちを伝えることをためらったりします。こうした感覚は、「自分には価値がない」という思い込みにもつながります。
2. 所属感の欠如(thwarted belongingness)
安心して関われる相手や、居場所がないと感じる状態です。会社や学校に所属していて、それなりにコミュニケーションがあっても、周囲とつながれている実感を持ちにくいのが特徴です。
疎外感を覚えたり、集団の中で自分だけが馴染めていないような感覚を持ちます。
「負担感の知覚」と「所属感の欠如」のチェックリスト
あなたがロストワンタイプのアダルトチルドレンだった場合に、「負担感の知覚」と「所属感の欠如」をどれくらい持っているか知りたいと思うかもしれません。
そうであれば、『Interpersonal Needs Questionnaire(対人関係欲求尺度質問票)』を使うと良いです。この2つの感覚を調べるための尺度です。
質問項目を日本語にすると、次のようになります。1~6が「負担感の知覚」を確認するもので、7~15が「所属感の欠如」を確認するものです。
何点以上なら該当するという基準点はありませんが、自分自身の傾向を知るためにも、確認してみると良いと思います。全て、「最近の」感覚に当てはまるかという視点で見てください。
(※文末に[R]がついているものは、逆転項目ですから「はい」なら該当しないということです。)
- 周りの人たちは、私がいなくなったほうが良いと思っている。
- 周りの人たちは、私がいないほうが幸せだと思っている。
- 私は自分が社会の負担になっていると思う。
- 私が死ねば、周りの人たちはほっとすると思う。
- 周りの人たちは、私から解放されたいと思っているように感じる。
- 私は周りの人たちの物事を悪くしていると思う。
- 他の人たちは私のことを気にかけてくれている。[R]
- 自分に居場所があると感じる。[R]
- 自分を気にかけてくれる人たちとほとんど関わっていない。
- 私には思いやりがあり、支えてくれる友人がたくさんいて恵まれている。[R]
- 私は他の人たちから切り離されているように感じる。
- 社交の場で、自分がよそ者のように感じることが多い。
- 困ったときに頼れる人がいると感じる。[R]
- 他の人たちと親しい関係にある。[R]
- 毎日少なくとも一度は満足できる交流をしている。[R]
「この世から消えてしまいたい」という感覚が生まれる
負担感の知覚が強い人は、「自分がいることで周りに迷惑をかけている」「自分はいないほうがいいのではないか」と感じやすくなります。
また、所属感の欠如が強い人は、「自分は誰からも必要とされていない」「どこにも居場所がない」と感じやすくなります。
このような気持ちが強くなると、つらさを一人で抱え込みやすくなり、誰かに助けを求めることも難しくなります。
その結果、気分の落ち込みが強まり、悪化すると自ら命を絶ってしまうことを考えるリスクが高まることが研究から分かっています。
ロストワンのあなたが、このような気持ちになっているのなら、それは「負担感の知覚」と「所属感の欠如」の悪影響なのです。
そして、ロストワンを克服するために、これらを捨てなければならないのです。
特に対処すべきは「負担感の知覚」です。なぜなら、これがあるから他者と親密になれずに、所属感も欠如するからです。
「負担感の知覚」を弱めるために必要なこと
ロストワンが、「負担感の知覚」を弱め、自分の価値を認めて気持ちを表現できるようになるには、どうすれば良いのでしょうか?
それは、「認知バイアス」を修正することと、「逆方向の行動」を増やすことです。
オハイオ州立大学の実験
オハイオ州立大学のニコラス・アラン博士らが、さきほどの『対人関係欲求尺度質問票』で平均以上のスコアを出した人たちを対象に行った実験があります。
この実験では、参加者に、「自分の気持ちを話すと相手の迷惑になる」などの誤った認知バイアスを捉えなおすトレーニングをさせました。
また、こういった認知と逆方向の行動も実践させました。具体的には、誰かに連絡する、信頼できる人に気持ちを話す、ボランティアをするなどです。
「負担感の知覚」が低下
これらの心理的な介入が終わった後で、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後にフォローアップ調査をしたところ、「負担感の知覚」が低下していることが分かりました。
「所属感の欠如」には大きな変化は見られませんでした。これは、所属感は実際の人間関係に左右されやすいものだからと考えられます。
まずは、「負担感の知覚」を低下させ、他者と健全な関係を築くことで「所属感の欠如」は低下するものですが、それには時間が掛かるのです。
自分でロストワンを克服する方法
「負担感の知覚」を弱めるためには、「認知バイアス」と「逆方向の行動」が効果的ということが分かりましたが、これらは自分でもでできることです。普段の意識を少し変えれば良いのです。
1. 認知バイアスを修正する
認知バイアスを修正するには、否定的な解釈が自動的に出てきたときに、別の解釈を選ぶ練習をします。目的は、無理にポジティブになることではなく、負担感に偏った見方を少しゆるめることです。
まず、負担感が出やすい場面を一つ選び紙に書きます。たとえば「友人に相談したいけどできない」などです。
その場面で最初に浮かぶ考えを書きます。「相談したら迷惑だ」「自分は面倒な存在だ」などいくつか出てくると思います。
次に、その考えを事実と解釈に分けます。「返信がまだ来ていない」は事実です。「迷惑がられている」は解釈です。
「相手は忙しいかもしれない」「返事を考えているのかもしれない」も解釈です。
ここで大事なことは、あなたが持つ「ある癖」に気づくことです。
何かというと、「負担感が強いと複数ある解釈の中から『最も自分を責めるもの』を選びやすい」という癖です。
そのうえで、もっと現実的でやさしい考えをつくります。「頼ることはすべてを背負わせることではない」「相手に都合を聞きながら、少しだけ話すのは悪いことではない」という形です。
ポイントは、自分を責める言葉を、状況を説明する言葉に変えることです。
この練習を続けると、「自分は迷惑に違いない」という考えが出ても、それをそのまま信じるのではなく、「これは負担感が強いときの見方かもしれない」と受け止め直せるようになります。
2. 逆方向の行動
逆方向の行動とは、マイナスの考えがでたときに、無理のない範囲でプラスの行動を取ることです。
たとえば皆で話しているとき、「自分の話はつまらないから黙っていたほうがいい」と思ったら、一言だけコメントしてみるなどです。相手の反応を得ることで、ネガティブな思い込みを弱める小さな証拠になります。
また、ボランティアに参加することも有効です。自分の行動が誰かの助けになる経験を得ることで、「自分は迷惑をかけるだけの存在ではない」と感じやすくなります。
さらに、同じ目的を持つ人たちと一緒に活動することで、人とのつながりも生まれます。
ロストワンにとっての、逆方向の行動をまとめると、以下の通りです。
- 避けたくなったときに小さく近づく
- 隠したくなったときに少しだけ表現する
- 無価値観を持ったときに小さく役立つ経験を作る
こうした経験を積み重ねることで、「負担感の知覚」と「所属感の欠如」が減り、ロストワンを克服することができるのです。
- Van Orden, K. A., Cukrowicz, K. C., et al. (2012).Thwarted belongingness and perceived burdensomeness: Construct validity and psychometric properties of the Interpersonal Needs Questionnaire.
- Allan, N. P., Boffa, J. W., (2018).Intervention related reductions in perceived burdensomeness mediates incidence of suicidal thoughts.


