HSPは新しい環境や作業手順に慣れるまでに時間がかかることがあります。
他の人が数日で慣れることでも、自分だけがいつまでもできないということが続くと、「自分は能力が低いのではないか」「仕事ができないのではないか」と考えてしまうかもしれません。
しかし、HSPが慣れるまでに時間がかかるのは、能力不足や努力不足のせいではありません。
これには、感覚への反応が弱まっていく仕組み「感覚馴化」が関係しているのです。
感覚馴化がゆっくり起こる人は、同じ音、光、匂い、肌触りに対しても注意が残りやすくなります。
そのため、目の前の作業に集中するまでに時間がかかり、新しい手順を覚える負担も大きくなりやすいのです。
感覚馴化とは
感覚馴化(sensory habituation)とは、同じ刺激を受け続けたときに、脳や体の反応がだんだんと弱まっていく仕組みです。
たとえば次のような現象が感覚馴化です。
- 最初はうるさく感じたエアコンの音が、しばらくすると気にならなくなる
- 部屋に入った直後に感じた匂いが、時間が経つにつれ感じにくくなる
- 服のタグや腕時計の感触を、着けた直後は感じるがそのうち感じにくくなる
このような現象は、耳や鼻や皮膚が疲れて発生するわけではありません。感覚器そのものの疲労ではなく、繰り返し刺激に対する適応です。
つまり、脳がその刺激を「今すぐ対応すべき新しい情報ではない」と判断し、注意を向ける優先度を下げていく働きです。
感覚馴化の仕組みがあるおかげで、私たちは環境の中のすべての音、光、匂い、肌触りにずっと反応し続けずに済みます。
もし感覚馴化がうまく働かなければ、エアコンの音、人の話し声、照明のちらつきなどにいつまでも注意が向き続け、疲れやすくなったり、集中しにくくなったりするのです。
HSPが仕事や物事の手順に慣れるまでに時間がかかるのも、この感覚馴化が影響しています。
HSPは慣れに関連する能力を発揮しにくい
感覚馴化がうまく起こらなければ、目の前の作業に集中することができませんから、パフォーマンスは落ちますし、初めての作業であれば慣れるまでに時間がかかります。
このことは、パレルモ大学の研究チームによる実験からも分かっています。
この実験では、ナボンタスクというテストが行われました。これは視覚情報をどう認知するか計測するためのテストで、小さな文字の集合で作られた大きな文字を見て、質問に答えるものです。

たとえば「S」で作られた「H」という文字が表示されたとき、「この図の中にHはあるか?」という質問にどれだけ早く回答できるかを調べます。
このテストでは単に文字を読む力ではなく、必要な情報を選び注目し、不要な情報からの影響を抑える力が測られています。これは新たな作業を覚えるのに使われる能力と重なる部分が多いものです。
今回の実験ではHSP傾向と先述の感覚馴化も調べています。その結果、HSP傾向の高い人と、感覚馴化の遅い人は、このテストのスコアが低いことが分かりました。
つまり、HSPと感覚馴化の困難さは密接に関連し、作業への慣れと関連する能力を発揮しにくい傾向にあるということです。
いつもの職場でも慣れない原因
HSPは感覚馴化に時間がかかることで、作業に慣れるまでにも時間がかかることが分かったかと思います。
とはいえ、いつも通っている学校や職場であれば、さすがにその環境からの刺激には慣れるのでは?と思うかもしれません。確かに時間の経過とともに慣れます。
しかし、慣れても翌日には再び気になり始めることがあるのです。
なぜなら、人によっては感覚馴化がリセットされるからです。
雑音に20分さらされ続けると無音と同じパフォーマンスになる
レディング大学のサイモン・バンベリー博士らが、記憶テストの実験を行っています。
この実験の結果では、無音の条件の方が、話し声や複合機の音が聞こえる雑音条件よりもスコアが良くなることが分かっています。
しかし、雑音条件でも20分間その音にさらされ続けた後では、無音条件とスコアが変わらないことが分かっています。
なぜなら、感覚馴化によって、雑音への注意が減少し、目の前の課題に集中できるようになったからです。
感覚馴化はリセットされる
この実験では、20分間の雑音にさらされた後に、5分間の無音で休息を挟み、再び雑音条件でテストを受けるというパターンも行っています。
その結果は、雑音にさらされた直後にテストを受けたときよりも、スコアが下がるというものでした。
なぜ、このようなことが起こったかというと、無音状態を体験したことで、感覚馴化がリセットされてしまったからです。
HSPの中には、何年も同じ職場にいるのに、毎朝、職場の匂いや換気扇の音が気になるという人もいますが、これはこのような感覚馴化のリセットが起こっていることが原因なのです。
それによって、毎回、初めての場所で仕事を覚えるような条件になりますから、新しい仕事に慣れるのにも時間がかかるのです。
HSPの方が得意なタスク
ここまで説明したように、HSPは仕事に慣れるまで時間がかかることがあります。しかし、常にそうとは限りません。
HSPは悪い影響を受けやすい反面、良い影響も受けやすいのです。「HSPの仕事が続かない理由は「JD-Rモデル」で会社選びしないから」で説明した通り、条件が揃ったときはパフォーマンスが向上しやすいのです。
また、職務によっては普通の人よりも早く適応できることもあります。
さきほどのナボンタスクの実験においても、問われた文字が存在しない場合の回答速度は、感覚馴化が遅い人のほうが速いことも分かっています。
つまり、ターゲット文字が存在しないかどうかを素早く見分けるような、知覚的な探索には強みがあるということです。これはHSPの特性である「細部に焦点を当てた知覚処理」の優位性と関連するものです。
仕事に慣れる時間を早くするための施策
HSPが慣れるまでの時間を短縮するにはどうすれば良いのでしょうか?
ポイントは2つです。集中できる時間帯を見極めることと、注意の向け先を絞ることです。
1. 集中できる時間帯(朝か夕かは個人差あり)
たとえば仕事においては、出社してから退社するまでの間で、集中できる時間帯は人によって異なります。特にHSPはこの差が顕著です。
ここまで説明してきた感覚馴化の影響が大きい人の場合には、朝よりも夕方のほうが集中できるでしょう。
一方で、ストレスの影響を受けやすいHSPであれば、疲れていない朝のほうが集中できるかもしれません。
両方のバランスを考えると昼頃が最も集中できるという人もいるでしょう。
つまり、自分の集中力の高まる時間帯を特定し、新しい仕事はその時間で行うようにすると効率的ということです。
2. 注意の向け先を絞る
人間が一度に向けられる注意の先には限度があります。というより1つのことにしか集中できないという科学者もいます。
同時並行でやっているようで実は超短時間で脳を切り替えているだけなのです。実はこうしたマルチタスクは脳のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことが分かっています。
新しい作業を目の前にしたとき、私たちは無意識に様々なタスクを同時に行おうとします。そのせいで余計に慣れるまでに時間がかかるのです。エアコンの音などの外部刺激にも注意を払うHSPではさらに負担が大きくなります。
こうした悪影響を抑えるためには、新しいことを始める前に数分だけでも戦略を練る時間を取ることが必要です。
ポイントは何か、最初に覚えるべきことは何か、集中すべきことは何かを特定する時間を取るだけで、集中すべき先が分散してしまうのを改善できます。
- Tarantino, V., Santostefano, A., et al. (2026).Exploring the link between sensory habituation in everyday life and attentional control abilities.
- Banbury, S., & Berry, D. C. (1997).Habituation and dishabituation to speech and office noise.


