アダルトチルドレンの相談を受けていると、多くの人が「生きづらい」と言います。
現代は、ただでさえ生きづらい世の中ですが、アダルトチルドレンは特にそう感じやすいのです。
その大きな理由として、脳の柔軟性がないために、感情コントロールに必要な「認知的再評価」が、できないことにあります。
後述しますが、認知的再評価とは、瞬間的にマイナスに捉えてしまった物事を、すぐに正しく捉え直す脳の働きです。
この働きが弱いために、職場でも学校でも、人間関係でも、生きづらさを感じてしまうのです。
そこで、今回は、アダルトチルドレンの生きづらさの原因と、他人の顔色をうかがいながら、自分を後回しにする生き方を変えるための方法を解説します。
アダルトチルドレンの脳に影響を与える「家族機能」とは
アダルトチルドレンの脳が、物事をマイナスに捉えっぱなしになってしまう原因は「家族機能」にあります。
家族機能とは、家庭内での人間関係の質や、そこでどのように問題を解決するかという、メカニズムです。
子供が成長した後に、上手に感情を制御できるかどうかに重大な影響を与えるものです。
家族機能の重要な要素として「親密性」「対立」「養育スタイル」の3つが挙げらます。
それぞれについて、簡単に説明します。
1. 親密性
家族同士の関係がどれだけ温かく、信頼に満ちているかを示します。親密性のある家庭では親が子供の話をしっかり聞き、気持ちを尊重することで、子供は安心感を得ることができます。
2. 対立
家族間でのケンカや、意見の対立がどの程度あるかを示します。争いが多い家庭では、子供はストレスを感じやすくなります。しかし、適切に問題を解決できる家庭では、対立があっても子供の成長につながることがあります。
3. 養育スタイル
親がどのように子供を育てるかを表します。一般的に「民主的」「権威的」「放任的」などのタイプがありますが、民主的な養育スタイルが、社会的適応力にプラスの影響を与えるとされています。
家族機能が感情のコントロール能力に与える影響
家族機能が感情のコントロールに、どんな影響を与えるのかを明らかにするために、600名以上の男女からデータを取得した、心理学者サミーラ・シャフィクらの研究があります。
この研究によると、家族機能が良い家庭出身の人ほど、感情をコントロールする能力が高いことが分かっています。
中でも「認知的再評価」の能力が、高い傾向にありました。
認知的再評価とは、物事の捉え方を変えることで、感情をコントロールする方法です。
例えば「怒られる=自分がダメだから」ではなく「相手は自分の成長を願っているから注意してくれている」と考え直すことが、これに当たります。
研究によると、認知的再評価をうまく使える人は、困難な状況でも不安やストレスを上手く処理できることが分かっています。
逆に、認知的再評価が苦手な人は、怒りや悲しみなどの感情をそのまま受け止めてしまい、気持ちの切り替えが難しくなることがあります。
脳の物理的な変化が柔軟性を失わせる
さきほどの家族機能は、脳を物理的に変化させることも分かっています。
アダルトチルドレンのように、家族機能の悪い過酷な環境にいた人の脳は、そこを生き抜くために、他の子供よりも早く成熟しているのです。
あなたも「精神的に早く大人になった」という感覚を持っているかもしれませんが、これは脳の成長が早かったからです。
オランダのラドバウド大学が、子供のストレスと脳の関係について、長期に渡り継続している研究があります。
この研究は、1998年に1歳児とその親について開始されたものです。その中で親や友人との相互作用について調べられています。
この結果について、2018年に論文が発表されています。それによると、幼児期(0歳から5歳)に、家庭内で強いストレス体験をした子供の脳をMRIでスキャンしたところ、前頭前野、扁桃体、海馬の成熟が早いことが分かっています。
これらの領域は、感情や判断、社会性に影響を与える部分です。
環境に適応するためにアダルトチルドレンの脳は早く成熟した
なぜ、悪い家族機能が脳の成長を早めるのかというと、進化生物学の観点から説明ができます。
ストレスの多い環境では早く成長したほうが適応しやすく、生存に有利なのです。いつまでも未熟なままでは、生き延びることができないからです。
そのため、子供時代にストレスを受けると、他の子供に比べて早く脳内の社会性や、感情に影響する部位が成熟するのです。
柔軟性のない脳がアダルトチルドレンの生きづらさにつながる
脳の成熟が早いことは、一見すると良いことのようにも思えます。しかし、これには大きなデメリットがあります。
それは、早く成熟した脳は柔軟性が失われる、ということです。なぜなら、幼少期や児童期といった、脳が変化しながら成長する時期に、完成して固定化されてしまうからです。
脳の柔軟性が失われると、前述した「認知的再評価」ができなくなるのです。
たとえば「私は何をやってもダメな人間」という考えに固執して「他の考え方はできないだろうか?」とならないのも、脳に柔軟性がないことの表れです。
このように、成人後の環境にうまく適応できないことが、アダルトチルドレンの生きづらさを生み出す一つの要因といえます。
アダルトチルドレンの生きづらさと「社会的適応力」
認知的再評価がうまくできる人は「社会的適応力」も高いことが分かっています。社会的適応力とは、人間が社会の中で円滑に生きていくための能力のことです。
具体的には、他者と適切に関わる力や、自分の感情を制御する力、環境の変化に柔軟に対応する力などが含まれます。
社会的適応力が高い人は、他人と良好な関係を築くことができ、コミュニケーション能力や共感力が高い傾向があります。
また、困難な状況に直面しても、冷静に対処し、適切な判断を下すことができます。
意見の違う人と話すときに感情的にならず、相手の考えを尊重しながら自分の意見を伝えることができる人は社会的適応力が高いといえます。
一方で、社会的適応力が低い場合、対人関係のトラブルが増えたり、環境の変化に対応できずにストレスを感じやすくなったりします。
例えば、新しいクラスや職場にうまくなじめない、些細なことで怒りっぽくなる、他人の意見を受け入れられないといった傾向が見られることがあります。
アダルトチルドレンが「生きづらさ」を感じるのは、この社会的適応力が低いことも一因です。
アダルトチルドレンの生き方を変える
認知的再評価がうまくできないアダルトチルドレンは、出来事を別の視点から捉え直せず、最初に浮かんだ不安や自己否定をそのまま、事実のように受け取りやすいです。
そのため、相手の表情や言葉を過剰に気にし「自分が悪い」「嫌われたかもしれない」と解釈し、自分を抑えて相手に合わせる生き方になりがちです。
このような生き方を変えて、幸せな人生を送るにはどうすれば良いのでしょうか?
研究の結果を踏まえ、具体的なポイントを以下にまとめます。
1. 家族機能の影響を理解する
アダルトチルドレンは幼少期に親密性が低く、対立の多い家庭環境で育っているため、他人との信頼関係を築くのが難しくなってます。
この影響を克服するためには「自分の育った家庭の特徴」を客観的に理解することが重要です。
自分の家庭環境を振り返り、どのような家族関係だったかを整理し、それが自身の考え方や行動にどのような影響を与えているのかを考えてみましょう。
たとえば「親に気持ちを聞いてもらえなかった」という経験が「他人にも本音を話せない」という習慣につながっていることに気づくことができます。
この時の注意点として、他の家庭と比較して「普通ならこうだったのに」と過去を責めてはいけません。これからどのように生きるかに、意識を向けることが大切です。
2. 認知的再評価のスキルを身につける
研究結果からも明らかなように、アダルトチルドレンが生きづらさを感じる理由の一つに、認知的再評価がうまく出来ないことがあります。
ですから、トレーニングによってそのスキルを身に着けることが重要です。
たとえば「他人に頼るのは迷惑だから、全部自分でやらないといけない」と感じるときは「助けを求めることは悪いことではない。自分が手伝いを頼まれたとき、迷惑だと感じることは少ないはず」と捉えなおすことで、思い込みを和らげることができます。
認知的再評価を実践するためには、ネガティブな感情が強くなったときに「なぜそう感じるのか?」を紙に書き出し、出来事を違う視点で見直す練習をすることが有効です。
また「本当にそうなのか?」と自問する習慣も身につけましょう。
「自分はダメな人間っだ」と思ったときにも「100%そうなのか?反証不可能な証拠は本当にあるのか?」と考えると、極端な思考を抑えることができます。
3. 感情を抑え込まない練習をする
研究によると、感情を抑え込むことは社会的適応力の向上にはつながらず、むしろストレスを増加させることが分かっています。
特に「怒り」や「悲しみ」を抑圧することで、心の負担が大きくなり、長期的には対人関係や自己評価に悪影響を及ぼします。
そのため、感情を適切に表現する練習が必要です。
まず、信頼できる人に自分の気持ちを伝える習慣をつけましょう。「悲しい」「つらい」「嬉しい」といったシンプルな感情から言葉にすることで、自分の気持ちを整理しやすくなります。
また、いきなり大きな感情を表現するのが難しい場合は「今日は少し疲れた」「○○が楽しかった」といった小さなことから始めてください。
自分の感情を否定せずに受け止めることも重要です。
アダルトチルドレンは幼少期の家族機能の影響で「怒ってはいけない」「泣いてはいけない」と思い込みがちですが、怒りや悲しみは人間にとって自然な感情です。
それらを抑え込むのではなく「今、自分はこう感じているんだな」と認めることで、感情を無理なく受け入れることができるようになります。
脳を変えれば、生き方は変えられる
私はアダルトチルドレンのカウンセリングを始めたときから、何年も口癖のように言っているのですが「脳には可塑性」があるのです。
可塑性とは、力を加ええられて変化した際に、その力を取り除いても変形がそのまま残る性質のことです。
つまり、意図的に普段と異なる考え方をして脳細胞に刺激を与えつづけると、やがてその考え方を生み出しやすいネットワークに脳細胞が変わるということです。
これは、いくつもの研究で証明されていることです。
変わろうと思えば、変われるのです。(変わろうとしなくても変わりますが、それは悪い方への変化である可能性もあります)
逆に脳が変わらなかったとしたら、それこそ脳科学上の大発見になります。
アダルトチルドレンのあなたが今は生きづらいと思っていても、それは今だけの話なのです。心配しなくても生き方は変えられるのです。
- Shafiq, H., Hanif, R., & Shafiq, S. (2023).Family functioning and social competence in adolescents: Mediating role of emotional regulation.
- Tyborowska, A., Volman, I., et al. (2018).Early-life and pubertal stress differentially modulate grey matter development in human adolescents.


