HSPのことに限らず、心の悩みや愛着の問題など相談内容はさまざまですが、当カウンセリングルームは経営者も多く来ています。
当サイトの記事がハッキリと言い切っている内容のものが多いので、「明確な答えをくれそう」と思うそうです。それと、私がマーケティングやコンサルティングの仕事もしていることも影響しているようです。
つまり、私は経営者と会う機会が多い立場にいます。その立場での個人的な感覚ですが、経営者はHSPが多いように見えます。
細やかな配慮をする人や、常にストレスを感じている人が多いので、そう見えているのかもしれませんが、一般の割合(約2~3割)より多い気がします。
そして、HSPの経営者の中には、その特性のせいで「自分は経営に向いていない」と感じている人もいます。
たしかにHSPの特性が不利に働くことがあるのは事実です。
しかし、成功パターンの再現性は低く、失敗パターンの再現性は高いという、経営の一つの側面を考えるとHSPは有利といえます。
なぜなら、HSPは社会的推論能力(後述)が高いことが分かっているからです。
HSPの経営者が困っていること
HSPの経営者は、感受性の高さや物事を深く考える力を発揮する一方で、日々の経営判断や人間関係において大きな負担を感じています。具体的には次のような問題を抱えがちです。
- 「会社が潰れるのでは?」という強い不安を常に抱えている
- 失敗のリスクや関係者への影響を考えすぎて決断が遅れる
- 注意・叱責・契約終了など相手が傷つく可能性のある話が苦手
- 任せるより自分で細かく確認したくなり、仕事を抱え込む
- 強い口調の交渉相手や圧のある営業場面で疲弊しやすい
- 複数案件が同時に動くと頭がいっぱいになる
- 休んでいても仕事のことを考え続け回復しにくい
- 会社の利益と社会的意義・社員の幸せのバランスに悩みやすい
このように、経営者は社員、顧客、取引先など多くの人と関わりながら、重要な判断を続けているため、従業員以上に心身のエネルギーを消耗しやすいのです。
そして、「これくらいで弱気になってしまう自分は経営者に向いていないのではないか」と考えてしまうこともあります。
HSPが持つ「社会的推論能力」とは
しかし、HSPの経営者にはこうしたデメリットを上回る大きな能力があります。
それは「Social inference ability(社会的推論能力)」です。
これは、限られた手がかりから、他者の気持ちや意図、立場、状況などを推測する力のことです。
相手の表情や声の調子、言葉の選び方、場の雰囲気などから、「この人は不安を感じている」「自分を騙そうとしている」「能力が高い」と判断する力です。
社会的能力と経営
社会的推論能力が高い経営者は、社員や顧客の考えや利害、期待を読み取り、経営判断に生かすことができます。
たとえば、社員が口では「大丈夫です」と言っていても、本当は悩みを抱えていたり、トラブルが起こっていたりすることはありますが、こうした事態に気づきやすくなります。
また、顧客や市場に対しても、社会的推論能力は役立ちます。顧客がなぜ不満を感じているのか、どのような価値に共感するのかを考えることで、商品開発やサービス改善、ブランドづくりに生かすことができるからです。
HSPは社会的推論能力が高いという実験結果
ロンドン大学のジェニ・カコネン博士らが、HSPの社会的推論能力を検証した実験があります。
この実験では他者の目元だけの写真を見て、その人物がどのような感情や心的状態にあるかを推測するテストを行いました。
これは心理学実験でよく用いられる「Reading the mind in the eyes test」と呼ばれるものです。
実験参加者の回答を分析したところ、HSP傾向の高い人ほど、このテストのスコアが高かったのです。つまり、目から感情を読む能力が高いということです。
経営者としての経験で養われただけではない
私が仕事で出会う人を見ていても、HSPの経営者は表情から感情を読む能力を含め、社会的推論能力が高いです。
というと、「経営者として色々な修羅場をくぐったおかげで、人を見る目が養われただけでは」と思うかもしれません。
確かに、経営者としての経験によってもこうした能力は磨かれていきます。
しかし、HSPの場合は元からこの能力が備わっているといえます。なぜならこの実験に参加したのは7~9歳の子供だったからです。
もちろん、幼少期から他者の感情に敏感だったおかげで、こうした能力が高まった可能性はありますが…。
ちなみにfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて脳の反応を見る実験でも、HSPは他者の感情を読み取る際に必要な領域が活性化されやすいことが分かっています。
社会的推論能力が高い経営者が成功する理由
さきほども少し説明しましたが、社会的推論能力が高いHSPの経営者は、相手の求めているものを理解しやすいのでビジネスを有利に進められます。
英語の諺に「相手の靴を履く(Put yourself in someone’s shoes)」というものがあります。
「相手の視点に立って考えろ」という意味ですが、経営の場でもよく使われる諺です。社会的推論能力が高いHSPの経営者は相手の靴を履くことができます。
マーケティングの方法に出る大きな差
私の仕事に関連する事例ばかりで恐縮ですが、たとえばマーケティング方法でもその違いが分かります。
たとえば、社会的推論能力が低い経営者は、カメラに詳しくないお年寄りに「〇〇万画素のCMOSセンサーを搭載しています」とPRしてしまいます。
これに対し、社会的推論能力が高いHSPの経営者は「お孫さんの運動会を撮るのに便利です」とPRできます。
ここまで酷いパターンは滅多にありませんが、社会的推論能力の違いは、あらゆる経営の場面で結果に差を生みます。
社員のモチベーションを高められる
また、産業・組織心理学の視点からもHSPの経営者は有利です。社員の感情に気づきやすいからです。
たとえば、会議で社員が反対意見を言わなくても、本当に納得しているとは限りません。それを放置しているとストレスや不満の増加につながります。
逆に、表情や発言の少なさや雰囲気から不安や抵抗を感じ取り、必要に応じて意見を聞く場を設けたりできれば、モチベーションを高めることが可能です。
基本的に企業の利益は社員のモチベーションによるところが大きいですから、こうした対応方法が黒字と赤字の分岐点にさえなります。
騙されにくいので再現性の高い経営の失敗をしない
もちろん、上記のセンスがあるからといって成功するわけではありません。経営において成功パターンに再現性が出るのは製品ライフサイクルが成長期にあるときくらいです。
しかし、失敗には再現性があります。他社で失敗した方法は、自社でも失敗する可能性が高いのです。
社会的推論能力が高い経営者は、こうした失敗をしにくいです。特に「騙されにくい」という強味が発揮されます。
業者への支払いが10倍違う
私の顧客は中小企業の経営者が多いのですが、専門外のことに関しては業者に良いように騙されている人が多いです。
たとえばホームページを作ってもらうのに相場の10倍以上の料金を支払っていたりします。しかも、その後も保守メンテナンス費として毎月定額で無駄なお金を払わされたりもしています。
最近ではAI導入支援などでもよく騙されています。「プロンプトエンジニアリング講習」のような生成AIにどんな命令を出せば、良い回答が出るかを教えてもらうことに大金を支払っている会社もありました。それこそ生成AIに聞けよ!という話ですが。
このように、本来であれば無料もしくは数万円で済む仕事に数百万円支払っているせいでコストがかさみ、経営を圧迫している企業は多いです。そして経営者がそのことに気づけていなかったりします。
このような状況のなか、社会的推論能力の高いHSPの経営者で、このような騙され方をしている人は少ないです。
なぜなら、胡散臭い人間を直感的に見抜くことができるからです。
採用でも失敗しにくい
HSPの経営者は、採用においても失敗しにくいです。採用面接で怪しい人間を見抜くことができますから、モンスター社員や能力の低い社員を雇って組織が崩壊するリスクを避けられます。
このように、再現性の高い失敗をするリスクが低いというのは、自分では気づきにくいですが経営者として非常に大きなメリットです。
自分でも気づかないうちに、リスク回避していたことも多いと思います。
HSPが経営者に向かないと思っているなら、それは自分の能力を過小評価しすぎです。
- Kahkonen, J. E., Lionetti, F., & Pluess, M. (2025).Environmental sensitivity in children is associated with emotion recognition.

