あなたが、機能不全家族で育った場合、その連鎖を断ち切るためには、どうすればいいのでしょうか?
機能不全家族は、祖父母、親、子へと3世代に渡って連鎖することが、調査から判明しています。
しかし、全員が連鎖させるわけではありません。近年の研究では、連鎖を断ち切る人には共通点があることも示されています。
それは、自分が受けた傷や親子関係のパターンを振り返り、子供の気持ちを想像しながら関わろうとする「内省機能」と呼ばれる力です。
実は、この能力は後からでも身につけることが可能なのです。その方法について解説します。
機能不全家族の連鎖のメカニズム
まず、機能不全家族が、どのように世代を超えて連鎖していくのかを見ていきましょう。
最も大きな影響を及ぼすのが「社会学習」です。社会学習とは、他者の観察と模倣を通じて自らの行動を形成することです。
特に、家庭という閉鎖的な環境の中では、親の行動が子供に強い影響を及ぼします。
親は最も身近なロールモデル
子供は、親を最も身近な「ロールモデル」として捉え、日々の生活の中で無意識に親の言動を観察し、それを模倣することで行動様式を学んでいきます。
たとえば、親が日常的に怒鳴ったり、物に当たったり、暴力的な態度で物事を解決しようとする姿を見た子供は、「問題を解決するためには怒りや攻撃性を使うことが正しい方法だ」と学んでしまいます。
これを、社会学習における「観察学習」と呼びます。
親が怒りの感情を表現するたびに周囲が反応したり、相手が従ったりする場面を目の当たりにすると、子供は「怒りは強力な交渉手段である」と、誤った認識を観察学習してしまのです。
感情表現や問題解決の能力が育たない
親から、直接的に怒りや攻撃性を向けられた場合、その影響はより深刻です。
体罰や感情的な暴言を受けた子供は、「自分は大切にされていない」と感じ、自己肯定感が低下します。
これにより、社会的なつながりを避けるようになります。
その結果、適切な感情表現や問題解決能力が育たず、自分が親になったとき、親から学んだ「怒りや攻撃」を用いた育児スタイルを再現してしまうのです。
感情調節の問題とその影響
機能不全家族の連鎖において、もう一つ重要な要素が感情調節の問題です。
感情調節とは自分の気持ちを意識し、それを適切にコントロールし、状況に応じた行動を取る能力を指します。
子供は幼少期に親からの適切な関わりを通じて、この感情調節の方法を学びます。
感情調節の方法を教えられない親
しかし、機能不全家族では親自身が感情のコントロールを苦手としていることが多く、子供に適切な感情調節を教えることができません。
たとえば、親がストレスや怒りに対して暴力的な反応を示した場合、子供も同様の反応を学びます。
怒りを感じたときに冷静になる方法や、言葉で自分の気持ちを伝えるスキルを学ばないまま成長すると、子供自身もストレスやフラストレーションに対して暴力的に反応するようになります。
これにより、友人関係や学校生活でも問題を起こしやすくなり、社会的孤立や自己肯定感の低下を引き起こします。
親の精神的問題
また、機能不全家族で育った子供は「自分の感情を感じてはいけない」といった、歪んだ信念を持つことがあります。
これにより、自分の感情を抑圧し続け、怒りや不安といった負の感情が蓄積され、最終的に爆発的な怒りや攻撃性として現れることがあります。
この状態を「感情調節不全」と呼び、将来的にはうつ病や不安障害、反社会的行動などの心理的問題を引き起こすリスクが高まります。
こうした、親の精神的な問題も、子供の愛着に悪影響を与える可能性があります。
3世代にわたる親子関係の追跡調査
機能不全家族が、どのように世代を超えて連鎖するのかを明らかにするために、3世代にわたる親子関係を追跡調査した、カリフォルニア大学のランド・コンガー教授らの研究があります。
この研究では、75組の親子を対象とし、祖父母(G1)、親(G2)、子供(G3)の関係を長期的に観察しました。(Gは世代を表すGenerationのこと。たとえばG1は第一世代)
G2が青年期だった時の行動や、G2が親となった後の育児スタイル、さらにG3の幼児期の行動について詳しく分析しました。
研究では、親子のやり取りをビデオ録画し、親の怒りや攻撃的な態度、子供の問題行動を評価するということも行っています。
「祖父母→親→子」という連鎖
その結果、G1の怒りや攻撃的な育児スタイルが、G2に強い影響を与えていることが明らかになりました。
つまり、G1が子供を怒りや威圧的な態度で育てていた場合、G2も親になった際に不適切な育児スタイルを取る可能性が高くなることが分かったのです。
さらに、G2の怒りや攻撃的な育児スタイルは、G3の問題行動を促進する要因になっていることも示されました。
G2の親としての関わり方が、G3の幼少期の行動や感情表現に大きく影響を及ぼしていたのです。
遺伝ではなく育児スタイルの問題
しかし、G2が青年期に示した攻撃的な行動と、G3の問題行動の間には直接的な関連は認められませんでした。
つまり、親の怒りや攻撃性といった性格的特徴が、そのまま遺伝するのではないということです。
親がどのような育児スタイルを取るかによって、機能不全家族の連鎖される内容が変化するのです。
機能不全家族を連鎖させた人と、断ち切った人の違い
機能不全家族で育ったからといって、全員がそれを連鎖させるわけではありません。自分のところで断ち切る人もいます。
この違いは、どこにあるのでしょうか?
それを調べた、ミネソタ大学のバイロン・イーグランド教授らの調査があります。
機能不全家族を連鎖させた母親は40%
この調査では、第一子を出産した267名の母親に、子供が48ヵ月または54ヵ月の時点でインタビューを行い、母親が育った家庭環境と、現在の子育てスタイルについて聞き取りました。
その結果、機能不全家族で育った母親のうち、約60%は連鎖させており、約40%は断ち切っていることが分かりました。
連鎖を断ち切った母親の特徴
自分自身が機能不全家族で育っても、それを自分の子供に連鎖させなかった母親には、次のような特徴がありました。
1. パートナーとの関係が安定している
大人になってから安心できる関係を築いていた人は、連鎖を断ち切っていました。具体的には、夫や恋人との関係がころころ変わらず、同じ相手と安定して付き合っていたということです。
また、パートナーが話を聞いてくれたり、困ったときに助けてくれたりすることも良い影響を与えました。さらに、相手から暴力を受けることも少なかったです。
つまり、機能不全家族で育っても、大切にしてくれる人と出会えると、「人は信頼できる」「自分は助けてもらっていい」と感じやすく、その安心感が、子供に対する態度にも出やすいということです。
2. 生活ストレスが少ない
日常生活のストレスも影響していました。ここでいうストレスとは、家族内の揉め事、友人との対立、家計の不安定さなどです。
連鎖させてしまった母親は、家族や友人との言い争いや喧嘩が多く、育児以外の負担も重なっていました。
これに対し、連鎖を断ち切った母親は、周囲との関係や生活が比較的落ち着いていたため、子供に対して、冷静に関わる余裕を持ちやすい傾向にありました。
3. 不安・抑うつ傾向が低い
この調査では、日頃の心理的苦痛も影響していることが判明しています。機能不全家族を断ち切った母親は、緊張や気分の落ち込み、無力感が少なかったのです。
心理的苦痛が少ないと、子供の泣き声や反抗、失敗などに、感情的に反応せず、落ち着いて対応できます。
4. 幼少期に支援的な大人がいた
幼少期に、自分を気にかけてくれる別の大人がいたことも重要でした。困ったときに話を聞いてくれたり、自分の味方になって感情的に支えてくれた存在です。
虐待を受けた人は、自分が受けた扱いを無意識のうちに、子供に繰り返しがちです。
しかし、幼少期に一人でも支えてくれる大人がいた場合、心の中に「子供にはこう接することもできる」という別のモデルが残り、それを子育てに適用できるのです。
5. 長期的なカウンセリングを受けていた
機能不全家族の連鎖を断ち切った母親の約3分の1は、1年以上の長期的なカウンセリングを受けた警官を持っていました。これに対し、連鎖させてしまった母親でカウンセリングを受けていた人はゼロでした。
長期的なカウンセリングが良い影響をもたらしたのは、単に気持ちが楽になっただけではなく、自分の幼少期の経験を整理し、それが現在の子育てにどう影響しうるかを理解したことで、適切な子育てにつながったことが要因と考えられます。
機能不全家族で育ったらどうすればいい?
ここまでの説明から、機能不全家族で育ったらどうすればいいの?ということについては、このサイトの他の記事でも説明しています。愛着の問題を改善したり、脳のつながりを変えることが大事なのです。
前述の断ち切った人の特徴を参考に、安定した相手と恋愛をしたり、日常のストレスを減らすことも有効です。
連鎖をさせないために、するべきこととしては、養育者としての「内省機能(reflective functioning)」を高めることです。
内省機能とは
内省機能とは、自分や相手の行動の背後にある「心の状態」を想像し、理解しようとする力のことです。
ウェイン州立大学のアン・スタック博士らの研究によれば、内製機能が高い親は、子供のサインに気づき、その意味をくみ取り、タイミングよく応答できる傾向にありました。
そして、そのような親に育てられた子供は、安定した愛着スタイルを持ちやすいことも分かりました。
機能不全家族で育った母親は、子供が泣いているときに「私を困らせるために泣いている」と受け取ってしまうことがあります。これは内省機能が低い状態です。
内省機能を高めることで、「疲れているのかもしれない」「自分に助けを求めているのかもしれない」と、捉えなおしができるようになるのです。
内省機能を高めるにはどうすればいい?
養育者としての内省機能を高めるには、子供の行動をすぐに「わがまま」「困った子」と決めつけず、「何を感じているのかな」「何を伝えたいのかな」と考える習慣をつけることが大切です。
同時に、自分がイライラした時も「なぜこんなに反応したのかな」と少し振り返ります。
大事なのは、正解を当てることでははありません。
「眠いのかも」「不安なのかも」「自分も焦っていたのかも」と、心の中にある理由を想像してみることです。
こうした思考の習慣を続けると、子供に反射的に怒るのではなく、気持ちに合った声かけや対応がしやすくなります。
- Conger, R. D., Neppl, T., et al. (2003).Angry and aggressive behavior across three generations: a prospective, longitudinal study of parents and children.
- Egeland, B., Jacobvitz, D., & Sroufe, L. A. (1988).Breaking the cycle of abuse.
- Stacks, A. M., Muzik, M., et al. (2014).Maternal reflective functioning among mothers with childhood maltreatment histories: Links to sensitive parenting and infant attachment security.

