家族でシェアすべき大皿のおかずを全て食べてしまう。「子供のお弁当用」「お客様用」と事前に説明しておいた食材にまで手を出す。
外食先では自分の料理を食べ終えたあと、相手の皿をじっと見て「食べないならちょうだい」と言う。
こうした「食い尽くし系」の行動は、食い意地や育ちの悪さとして片づけられがちです。兄弟姉妹の多い家庭で育ったから、食べ物を取られまいとする癖がついたのだ、と説明されることもあります。
しかし、本当にそれだけで、他人の分だと分かっている食べ物まで平気で食べてしまうのでしょうか。
もちろん家庭環境が人の性格や行動に影響することはあります。だからといって、食べてはいけないと分かっているものまで口にしてしまうほどの強い衝動を、子供時代の「お菓子の取り合い」だけで説明するのは飛躍しすぎです。
食い尽くし系の本質は、過去の家庭環境よりも、目の前の食べ物に対する脳と身体の反応の強さにあるのです。
その理解の鍵となるのが「食物手がかり反応性」です。
家庭環境の影響は考えにくい
食い尽くし系の原因として、発達障害や摂食障害が挙げられることが多いです。もちろん、これらが原因となることもあるでしょうが、これらの障害があるからといって必ず食い尽くし系になるわけではありません。
これら以外の食い尽くし系の原因としては、育った家庭環境の影響がよく挙がります。
たとえば兄弟姉妹の多い家庭で育って、お菓子や、おかずの取り合いが多かったため、「食べられるときに食べないと取られてしまう」という恐怖感や焦燥感を持っているというものです。
確かに、子供時代の家庭環境は成人後の性格や対人関係に影響します。しかし、食い尽くし系になるほどの影響を受けるには、そこに「生存の危機」がない限りはあり得ないように思います。
虐待を受けた人が成人後も他者を恐れるのは、子供時代に「死ぬかもしれない」という恐怖を感じたことで、「他人は自分の生存を脅かす危険な存在」という無意識の学習がなされたことが原因です。
これくらいの過酷な体験でない限りは、「夜中に甘いものが我慢できないんだよ」くらいの影響は出ても、食い尽くしまでにはならないはずです。
貧困国で育って、きょうだい間の食料の奪い合いに敗れると数日間は食事にありつけないという経験や、おやつを巡って重症を負うほどの殴り合いをした経験でもない限りは家庭環境が食い尽くし行動にはつながらないでしょう。
反対に、甘やかされて、何でも自分のものにしてもらえた経験が食い尽くし系の原因になることもないと思います。
ワガママな性格になることはあっても、「子供のお弁当のオカズだから食べてはいけない」と言われたものまで食べてしまうほどの異常行動になっているのだとしたら、それは愛着障害など他の問題を抱えている可能性が高いです。
食い尽くし系になるのには他の理由があるのです。
食い尽くし系の「食物手がかり反応性」
オレゴン研究所のソンヤ・ヨクム博士らが、被験者に様々なCMを見せる実験を行っています。
このときfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で脳内の報酬系領域の反応を確認したところ、食品CMを見たときに強く反応した被験者ほど、1年後にBMIが増加している傾向にあることが分かりました。
つまり、食品を見たときに脳が喜びを感じる人ほど、太りやすかったということです。
食事や遊びなどから得られる喜びをどれくらい感じるかを「報酬感受性(reward sensitivity)」といいます。
報酬感受性には個人差があり、何にどれくらい反応するかは人によって違います。
実験のような食品に対する報酬感受性のことを「食物手がかり反応性(Food cue reactivity)」といいます。
食い尽くし系は、食物手がかり反応性が高いのです。
食物手がかり反応性が高い人の特徴
食物手がかり反応性とは、食べ物そのもの、匂い、広告、包装、レストランの看板など、食べ物を連想させる刺激に対する、心身の反応のしやすさです。
食物手がかり反応性の高い人は、食品に関する刺激に対し、次のような反応がでることがさまざまな研究から分かっています。
- 主観的反応:食べたい、欲しい、我慢できないという感情が高まる
- 生理反応:唾液分泌、心拍変化、皮膚電気反応
- 認知反応:食べ物に注意が固定され、他のことに集中しにくくなる
- 行動反応:食べ物に近づく、手を伸ばす、実際に食べる量が増える
- 神経反応:報酬系や注意関連領域の脳活動が高まる
通常、人間は体内のエネルギー不足によって空腹感が生まれ、何かを食べたいと思います。
もちろん、満腹のときでも美味しそうなデザートを見れば、食べたくなってしまうこともありますが、我慢しようと思えばできます。
しかし、食物手がかり反応性が高い人の場合、目の前に食べ物があると、満腹感に対する認識が鈍感になり、食べずにはいられなくなってしまうのです。
食い尽くし系が他人の注文した料理までほしがる理由
食い尽くし系のパートナーとレストランに行ったとき、自分の注文した料理をゆっくり食べていると「食べないなら頂戴」と言われるのがイライラしてしょうがない、という話をよく聞きます。
こうした行動は、食物手がかり反応性が高い食い尽くし系の典型的な特徴といえます。
他人の食べ物であろうと一度その刺激に反応すると、注意がそこに固定され執着してしまうのです。そして、それを手に入れない限りはこの執着は消失せず、欲求不満になりますから行動に移してしまうということです。
このとき、他のことに注意を向ける余裕もなくなりますから、周囲からどう思われるかは気にしにくくなります。特に相手が身近な存在であればなおさらです。
職場の上司などであれば、まだ「さすがにまずい」という感覚は強いですから、そちらに多少の注意が残り、何とか行動を抑えられるのです。
とはいえ、職場で貰ったお土産を全部食べてしまうような食い尽くし系もいます。所有者がハッキリしていないため、監視を感じにくいことが要因と考えられます。
食物手がかり反応性が高まる原因
食物手がかり反応性は、空腹時やストレスが高まっているとき、ダイエット中などに高まりやすくなります。
しかし、もともと高い人がなぜ高いのかという原因はハッキリしていません。
食物に関する刺激への反応には、ドーパミン系、扁桃体、線条体、前頭前野などが関与します。これらは様々な要因によって動きが変わりますし、生まれつきの特性も大きいものです。
つまり、生まれつきそういうタイプもいるということです。
食い尽くし系の欲求は性欲と同じ
食い尽くし系に対して、食い意地が張っているとか、育ちが悪いと思う人もいるでしょうが、これは仕方のないことなのです。
なぜなら、そういったこととは無関係に脳が反応してしまうからです。
ダートマス・カレッジのキャスリン・E・デモス博士らが先ほど紹介したのと同じような実験を行っています。こちらは被験者に様々な画像を見せているのですが、その中には食品画像と性的画像が含まれていました。
こちらの実験でも脳の反応を測定していますが、以下のことが分かっています。
- 食品画像を見たとき報酬系が活性化した人は、体重が増えやすい
- 性的画像を見たとき報酬系が活性化した人は、性欲が強く性的活動が多い
つまり、食べ物を前にした食い尽くし系に「食べるのを我慢しろ」というのは、性欲が最大限に高まった状態のとき性交の寸前で「やめろ」というのと同じことなのです。
※食い尽くし系というと男性のイメージが強いかもしれませんが、女性でも当然います。ちなみにこの実験の対象となったのは女性のみです。
食事以外でも話が通じなければダークトライアド
食べ物に関することだけ制御が効かなかったり、話が通じないのであれば、ここまで説明した「食物手がかり反応性」が異常なほど高いことが、食い尽くしの原因といえます。
しかし、その他の部分でもおかしな反応をしたり、罪悪感を持っていないのであれば、他の原因が考えられます。
可能性の高いものとしては「ダークトライアド」が考えられます。ダークトライアドとは心理学で用いられる以下の3つの邪悪な性格傾向の総称です。
- ナルシシズム:自分は特別、優先されて当然と思いやすい
- マキャベリアニズム:目的のためなら人を利用・操作してもよいと考えやすい
- サイコパシー:共感や罪悪感が薄く、衝動的・冷淡になりやすい
これらの性格傾向は次のような形で、食い尽くし行動に出ます。
- ナルシシズム:自分が多く食べて当然、自分の欲求が優先、家族の分がなくなるとどうなるかという思考が浮かばない
- マキャベリアニズム:独占できるチャンスを逃すのを損と考える。「知らなかった」「残ってると思った」などと言い訳し、責任回避する
- サイコパシー:食事がなくなり相手が困ることに興奮する。罪悪感が薄く相手が怒っても響かない
これらのダークトライアドの特性を持つ人は、罪悪感や共感に関連する脳の領域の反応が通常と異なることが分かっています。そして、それらは後天的なものではなく、生得的なものである可能性が高いとされているため、変わる可能性は低いです。
婚活の現場などで「食い尽くし系はモラハラ気質の表れなので逃げろ」と言われることがありますが、こういった理由によるものです。
研究では、サイコパシー傾向の高い人は、食べ物を口に運ぶ前にじっくりと見る傾向にあること、食や性といった人間の根源的欲求に関する会話が多い傾向にあることなどが分かっています。食に対する執着が強いのかもしれません。
食い尽くし系にどう対応するか?
ここまで説明したように、食い尽くし系の原因は「食物手がかり反応性」の高さにあります。
ですから、それを止めさせるには「手がかり」を与えないことです。つまり目につく場所に食べ物を置かないことです。
とはいえ、隠しても見つけ出されることもありますし、そもそも冷蔵保存しなければならないものは冷蔵庫以外にはおけません。効果的な対応方法はないのです。
ストレスや認知のゆがみ等によって、食い尽くし系になっているのであれば改善の方法もあるかと思いますが、生まれ持った脳の反応である場合には、申し訳ないのですが私はその克服方法を知りません。
また、注意されるたびに逆ギレする、嘘をつく、相手の困りごとを軽く見る、食事以外でも自分の欲求を優先するなどの傾向があるなら、食い尽くしはその人の支配性や共感性の低さの表れですから、別れるしかないのかもしれません。
- Yokum, S., Gearhardt, A. N., Harris, J. L., Brownell, K. D., & Stice, E. (2014).Individual differences in striatum activity to food commercials predict weight gain in adolescents. Obesity, 22(12), 2544–2551.
- Demos, K. E., Heatherton, T. F., & Kelley, W. M. (2012).Individual differences in nucleus accumbens activity to food and sexual images predict weight gain and sexual behavior. J Neurosci. 2012 Apr 18;32(16):5549-52.

