機能不全家族で育ったとき、一人っ子かどうかによって何か違いがあるのでしょうか?
相談に来ている人からもよく聞かれる質問です。
答えを先にいうと、一人っ子は、機能不全家族での経験が自尊心の低さと結びつきやすく、さらに自尊心の低さが自傷行為とも強く関連する傾向があります。
その理由として、自己評価が低下したときの固定化と、感情をコントロールする力の違いが考えられます。
なぜ兄弟姉妹の存在が自尊心の低下を防ぐのか
機能不全家族というのは、たいてい親が子供を傷つけます。それによって子供は「自分はダメな人間」などの価値観を植え付けられます。
そして自尊心が低下し、大人になった後も、落ち込みやすくなったり、未来に希望が持てなくなったりするのです。
しかし、親に傷つけられても、兄弟姉妹の存在によって自尊心を低下させずに済むケースがあります。
それは、低い自己評価の固定化が防げた場合と、感情をコントロールする力を獲得する機会を得られた場合です。
低い自己評価の固定化を防ぐ
たとえば親から「お前はダメな子」というメッセージを受け取ったとします。
この状態を放置しておけば、そのメッセージは脳内で反復され、やがて自己評価として固定化します。そして大人になった後もその自己評価は残り続けます。
しかし、兄弟姉妹が慰めてくれたり、悩みを聞いてくれたりすれば、親から言われたことが必ずしも正しいわけではないと気づくきっかけになります。
また、自分の気持ちを理解し、受け入れてくれる存在がいることで、「自分にも価値がある」と感じられるようになります。
その結果、親から受けた否定的なメッセージをそのまま自分の評価として受け入れずに済み、低い自己評価が固定化するのを防ぐことができます。
感情をコントロールする力を獲得する機会が多い
兄弟姉妹との関わりは、感情をコントロールする力を身につける機会にもなります。
たとえば、けんかをして怒りを感じたり、仲直りをして気持ちを落ち着かせたりする経験を重ねることで、嫌なことがあっても感情に振り回されず、冷静に対処する方法を学べます。
こうした力が身につくと、親から否定的な言葉をかけられても、それをそのまま自分の価値として受け止めずに済み、自尊心の低下を防ぐことができます。
一人っ子の場合、家庭内でこのような機会がないため、自尊心が低くなりやすいのです。
機能不全家族で育った一人っ子は不利になりやすい
機能不全家族で育った一人っ子が、不利になりやすいことは、研究からも分かっています。
中国の安徽医科大学のチームが約1万人を対象に行った調査があります。
この調査では、以下の項目についての聞き取りを行いました。
- 児童期の虐待経験
- 兄弟姉妹の有無
- 自尊心
- 自傷行為
ここでいう自傷行為とは、自分で自分を叩いたり、壁に頭を打ちつけたり、髪を抜いたりといった行為のことです。
取得されたデータを分析したところ、児童期に虐待を受けた人は、自尊心が低い傾向にあり、自尊心が低い人は自傷行為をする傾向にあることが分かりました。
さらに、この媒介効果は、きょうだいがいる子供では11.0%だったのに対し、一人っ子では31.5%と高いことが示されました。
なぜ一人っ子かどうかで差が出たのでしょうか?
それは、先ほど説明した通り、一人っ子の場合は、親から攻撃されることで低下した自己評価が固定しやすいこと、そして感情をコントロールする力を身につける機会が少ないことが原因と考えられます。
一人っ子は「父親の拒絶」と「母親の過保護」の悪影響を受けやすい
機能不全家族で育った一人っ子は、特にどのような環境から悪影響を受けやすいのでしょうか?
それを調べた、上海交通大学の研究があります。
この研究では約4,500人の男女を対象に、親がどのように接していたか、一人っ子かどうか、悲しみや気分の落ち込みの程度を観測しました。
その結果、機能不全家族の一人っ子では、以下のパターンが見られました。
- 父親の拒絶が抑うつ傾向につながりやすい
- 母親の過保護が抑うつ傾向につながりやすい
なぜこのような傾向が見られるのでしょうか?
父親からの悪評価は基準になりやすい
この研究は中国のものですが、日本も含めアジアの国では、伝統的に家庭内で権威を担うのは父親であることが多いです。
つまり、父親からの評価は自分自身の価値を判断する重要な基準になりやすく、父親から拒絶されることで「自分は認められていない」「自分には価値がない」と感じ、自尊心が低下し、抑うつ傾向につながりやすいのです。
特に一人っ子の場合、親の期待や関心が自分一人に集中しやすいため、父親からの否定的な評価をより重く受け止めることが考えられます。
母親の過保護は自己効力感を奪う
母親は子供の日常生活や情緒的なケアを担うことが多く、一人っ子の場合は、その関心が集中しやすいです。
母親が子供を失敗や危険から守ろうとして行動や意思決定に過度に干渉すると、子供は自分で判断する機会を失い、自律性や自己効力感が育ちにくくなります。
その結果、心理的負担や抑うつ症状につながる可能性が高まるのです。
兄弟姉妹がいても一人っ子
私のもとには、機能不全家族で育った人が多く相談に訪れます。当然ですが一人っ子も、兄弟姉妹がいる人も来ます。
ここまで説明してきて、こんなことを言うのも何ですが、そこまでの差は感じません。
一人っ子のほうが悩みが深いとか、メンタルを病んでいる確率が高いということはないのです。
それに、兄弟姉妹のいる人から、その話が出ることは少ないです。こちらから「その時、お兄さんは何て言ったのですか?」などと質問して、ようやく話すくらいです。
機能不全家族では、自分のことで精いっぱいで、他の兄弟姉妹を気にする余裕はなかったりするのです。
また、「毒親が兄弟差別をするのは支配のため」という記事でも説明しましたが、連帯して親に反撃することを防ぐために、わざと分断させる親も珍しくありません。
そのため、兄弟姉妹の存在を感じないとか、エピソードがほとんど記憶にないという人もいます。それぞれ独立した一人っ子同士が同じ家庭にいただけという感覚なのです。
機能不全家族で育った一人っ子の人は、「きょうだいがいれば少しは楽だったのかな」と思う人もいます。しかし、いたらいたで別の悩みやトラブルが生じます。
相続で揉めたり、毒親の介護を押し付けあって揉めたりしているのです。そもそも仲が悪すぎて絶縁しているという人も少なくありません。
一人っ子だと愛着の問題やアダルトチルドレン、恋愛依存症などを克服しにくいということもありませんから、気にしなくて大丈夫です。
- Wang S, Xu H, et al. (2020).Mediating effects of self-esteem in the relationship between childhood maltreatment and non-suicidal self-injury among adolescents: The roles of sex and only-child status.
- Zhong Y, Huang X, et al. (2023).The role of only-child status in the effect of childhood trauma and parental rearing style on depressive symptoms in Shanghai adolescents.

