HSPの相談に来る看護師の方から「この仕事が向いていないのかと考えてしまって辛い」と言われることがあります。
しかし、これは、しっかりと患者に向き合おうとする姿勢を持った人だからこそ、辛さが増している可能性が高いです。
HSPの看護師は非HSPの看護師と比べてストレスを感じやすく、バーンアウト(燃え尽き症候群)のリスクも高いことが分かっています。
だからといってHSPが看護師に向いていないということはありません。職場環境によっては、HSPの特性がストレスの知覚を低減することに役立つこともあるのです。
病院で働く看護師252名の調査
アンジェロ州立大学の研究員ロバート・レッドファーンが、看護師のHSPとストレス、燃え尽き症候群についての調査を行っています。
この調査では病院に勤務し患者と接する業務に就いている252名(女217名・男35名)の看護師にHSP、看護ストレス、バーンアウトのスケール(質問票)に回答してもらいました。
その結果、HSPの看護師はストレスの尺度、燃え尽き症候群の尺度の両方で非HSPの看護師よりも高いスコアが出ました。
さらに詳しく説明すると以下の通りです。
HSPの看護師が感じやすいストレスの内容
HSPの看護師は、具体的にどんなストレスを感じやすいのでしょうか?
今回の調査では看護師のストレス要因を測定するための「看護ストレス尺度(NSS)」が使用されました。以下の7つの主要なストレス要因を測定するものです。
- 作業負荷
- プレパレーションの不足
- スタッフのサポート不足
- 治療に関する不確実性
- 医師との対立
- 他の看護師との対立
- 死への直面
この中で「他の看護師との対立」と「死への直面」以外の5つは、HSPの看護師が有意に高いスコアとなっています。(この2つを感じないということではなく、非HSPの看護師と同程度に感じているということです)
特に高かったのが、プレパレーション(※1)の不足です。
HSPの看護師は、患者本人や家族の不安・質問・感情的な訴えに、十分な時間や余裕をもって応えられないことにストレスを感じることが多いのです。
相手の感情や雰囲気を敏感に受け取りやすいため、忙しさや業務量の多さで丁寧に関われないと、「もっと支えたいのにできない」「十分に役に立てていない」 という感覚が芽生え、ストレスを感じてしまうのです。
ちなみに、HSPではない看護師が最もストレスを感じているのは業務量の多さでした。これは、HSPの看護師では2番目のストレス源でした。
※1 プレパレーションというと小児看護の現場での子供に対するケアを意味することが多いですが、この調査では成人患者に対する説明や心的ケアも含む広い意味で使われています。
HSPの看護師のバーンアウト
バーンアウトの測定には、医療従事者用のバーンアウト尺度(MBI-HSS)が使用されました。以下の3つの特徴によって定義されています。
情緒的消耗感 (力を出し尽くし消耗した状態)
脱人格化(患者に対する非人間的な対応)
個人的達成感の低下(目標や効力感の喪失)
HSPの看護師は、情緒的消耗感と脱人格化のスコアが有意に高いスコアとなっています。
情緒的消耗
特に強い関連があったのは情緒的消耗です。これは、バーンアウトの基本的な要素で、仕事を通じて感情的・心理的なエネルギーが枯渇した状態を指します。
HSPの看護師の場合、患者への対応、家族への説明や配慮、医師や同僚とのやり取り、緊張感の高い医療場面が続くことで、余計に「気持ちの余裕がない」「仕事に向かうだけで疲れる」といった状態になりやすくなるのです。
脱人格化
次に相関があったのは脱人格化でした。これは、仕事で関わる相手に対して冷淡・否定的・機械的な態度をとるようになる状態です。
疲弊が続くことで「距離を置く」「感情を切り離す」「相手を一人の人として見にくくなる」といった反応が出ることがあります。
ただし、回帰分析では有意差は消えましたので、性格傾向など他の要素によって媒介されている可能性はあります。(たとえばHSPかつ神経症傾向が強いと脱人格化しやすいなど)
やはり、中心的な問題は共感しすぎることによる、情緒的消耗といえそうです。
P-Eフィット理論による職場選びで共感疲労を減らす
職場が合うかどうかは負担と支援のバランスで決まるということを「HSPの仕事が続かない理由は「JD-Rモデル」で会社選びしないから」の記事で説明しています。
これと似たもので「P-Eフィット理論(Person–Environment Fit theory:個人-環境適合理論)」というものがあります。
これは個人と職場環境がどれだけ適合しているかによって、ストレス、満足度、行動、成果が変わることを説明する理論です。
たとえば、本人の能力・価値観・性格・感受性が、職場の要求・支援・人間関係・業務量と合っていれば適応しやすく、満足度も高まります。
逆に合っていなければ、ストレス、疲労、不満、離職意向などが高まります。
P-Eフィット理論と看護師の共感疲労
看護師の共感疲労も、P-Eフィット理論で説明することができます。
温州医科大学附属第一医院の研究チームが、ICUで働く看護師を対象に行った調査があります。
この調査では看護師のHSP傾向と、共感疲労を調べています。
ここでいう共感疲労とは、患者の苦痛・死などに繰り返し向き合い、共感的なケアを続けることで生じるストレスです。
具体的には、心身の疲労、感情のすり減り、無力感、患者への共感の低下、バーンアウト、二次的外傷性ストレスなどです。
HSPだから共感疲労するわけではなかった
これらのデータを分析したところ、HSPの看護師ほど共感疲労が高い傾向にあることが分かりました。
しかし、HSPであることが直接的に共感疲労を予測するわけではありませんでした。
知覚されたストレスと、知覚された社会的支援のバランスが媒介していたのです。
つまり、ストレスを感じても、それを上回る同僚や家族からのサポートを感じていれば、共感疲労を抑えられるということです。
HSPがフィットする職場
ここで出てくるのが先述のP-Eフィット理論です。
HSPの看護師は、ストレスを強く感じやすく、その結果として共感疲労が高まりやすいです。しかし、 HSPはポジティブな刺激も強く受け取れるため、周囲からの支援にも敏感です。
感受性の高い個人(P)は、支援の多い職場(E)であればフィットするので、共感疲労が軽減される可能性があるということです。
つまり、HSPの看護師はその仕事に向いているかどうかという視点ではなく、その職場が向いているかどうかという視点が大切なのです。
HSPの看護師がストレスを減らすには?
そんなこと言っても、入ってみなければその職場が合っているかどうかは分からないものです。
ですから、どこに行ってもストレスを減らせるための対策は持っていたほうが良いです。
HSPの看護師がストレスを減らすためには、自分がどのタイプの患者や同僚と接するときにエネルギーの消費が激しいのかを知ることです。
「人と接すると疲れる」というのはHSPの特徴としてよく挙げられますが、その疲れ具合は相手によって変わることもあります。
エネルギーを激しく消耗する相手と接するときはどれくらいの時間、どのように接するかをできる範囲でコントロールすると効果的です。
また、HSPだからといって、すべてのストレスを受けやすいわけでないことも忘れないでください。
今回の研究でも「他の看護師との対立」と「死への直面」についてはHSPは無関係という結果が出ています。
もしかすると、親しくない他人からの負の感情をうまく回避する能力が高いHSPもいるのかもしれません。
カリフォルニア大学のfMRIを用いた実験では、HSPは親しい人の悲しい顔には反応するが、他人の悲しい顔には反応しないという結果もあります。
HSPとしての優位性を意識しながら、仕事を進めることも大切です。
カウンセリングに来る看護師の割合は高い
これは余談ですがHSPのことに限らず、その他の悩み相談やカウンセリングにいらっしゃる方の中でも看護師は多いです。
日本で就業している看護師は約130万人ですから成人の1%強しかいない計算になりますが、カウンセリングにいらっしゃる方の割合はそれよりもかなり高いです。
カウンセリングを身近に感じやすい職業だから、ということだけでは説明できない数字です。
やはり、ストレスやプレッシャー、責任を感じやすい職業ということが大きいのだと思います。
- Redfearn, R. A. (2019).Sensory processing sensitivity: Is being highly sensitive associated with stress and burnout in nursing?
- Shi, J., Cao, X., et al. (2024).Sensory processing sensitivity and compassion fatigue in intensive care unit nurses: A chain mediation model.
- Acevedo, B. P., Aron, E. N., Aron, A., et al. (2014).The highly sensitive brain: An fMRI study of sensory processing sensitivity and response to others’ emotions.


