夫婦間の「言葉の暴力」は見過ごされがちな問題です。
物理的な暴力とは異なり、目に見えないため周囲から気づかれにくく、被害者自身もそれが暴力であると認識しづらいからです。
しかし、繰り返される暴言や人格否定は自己肯定感を奪い、心に深い傷を残します。
特に、旦那からの言葉の暴力を受けても、それを「仕方がないこと」として受け入れてしまう妻は少なくありません。
なぜ旦那の暴言に耐え続けてしまうのでしょうか?
それには心理的な要因や社会的な背景が深く関係しています。
言葉の暴力の具体例
言葉の暴力とは相手を傷つけるような言葉を使い、精神的なダメージを与える行為のことです。具体的には以下のような言葉が該当します。
- 侮辱や罵倒:「お前は何の役にも立たない」「バカじゃないのか」
- 人格否定:「そんなこともできないのか」「お前なんて誰も相手にしない」
- 脅迫や威圧:「俺に逆らったらどうなるか分かってるのか」「言うことを聞かないなら出ていけ」
- 無視や無関心:「もうお前とは話したくない」「何を言っても無駄」
このような言葉が繰り返されると、精神的に追い詰められ自己評価が低下してしまいます。そして、次第にこうした言葉の暴力を「仕方がないこと」と受け入れるようになってしまうのです。
言葉の暴力に関する研究
パデュー大学の研究者であるニコール・カペッツァとシメナ・アリアガは、言葉の暴力がどのように認識され受け入れられるのかを調査しました。研究の目的は以下の2点です。
- 言葉の暴力の種類によって女性側の受け入れ度合いは変わるのか
- 個人の信念や経験が受容度に影響を与えるのか
この研究では189人の女性を対象に、夫婦間の架空の紛争シナリオを読んでもらい、その後の認識を測定しました。
参加者は旦那の行動がどの程度受け入れ難いか、暴力的か、そして今後の関係にどのような影響を及ぼすと考えるかを評価しました。
精神的攻撃はどのように認識されたのか?
この研究では、言葉の暴力を「精神的攻撃」と「言語的攻撃」の2つに分類しました。
- 精神的攻撃:人格を否定する、脅迫する、経済的な支配権を匂わせる
- 言語的攻撃:精神的攻撃ほどでないが口論よりは悪質な攻撃。怒鳴る、悪口をいう、口論の末に部屋か出ていく
これらは、同じ言葉の攻撃ですが、その悪影響は明確に異なるものです。「精神的攻撃」のほうが心に大きな傷を負わせます。
これらの攻撃の受容度を比較した結果、驚くべきことに「精神的攻撃」は「言語的攻撃」とほとんど同じレベルで受け入れられていました。
つまり、言葉の暴力を受けると、どこからがより深刻なものなのか判断できなくなるのです。
また、旦那が物理的な暴力を加えた場合、精神的攻撃の影響はさらに小さく評価されました。物理的攻撃があると、精神的攻撃の深刻さは相対的に軽視される傾向があるのです。
言葉の暴力を受け入れてしまう妻の特徴
今回の研究から、言葉の暴力を受け入れやすい女性には次の特徴があることが分かりました。
1. 伝統的なジェンダー(性別役割)を強く信じている
伝統的なジェンダーとは「男性は家庭を支える存在であり、女性は男性に従うべきである」という考え方です。こうした価値観を持つ女性は旦那の言葉の暴力を「男性の権利」として捉え、耐えるべきものだと考えてしまうことがあります。
特に幼少期から「女性は我慢するもの」「女は男を支えるべき」と教育されてきた場合、この傾向が強くなります。そのため、旦那の暴言に対して「私が至らないから怒られるのだ」と思い込み、問題を自分のせいにしてしまうのです。
2. 自己肯定感が低い
自己肯定感が低い女性は「自分は価値のない人間だ」という思い込みを持っていることが多いです。そのため、旦那からの言葉の暴力を受けたときに「やっぱり私はダメな人間なんだ」と納得してしまい、抵抗することなく受け入れてしまいます。
また、自己肯定感が低い人は「旦那に見捨てられたら生きていけない」と感じることがあります。そのため「暴言を受けても一緒にいる方がマシ」と考え、関係を続けようとするのです。
3. 幼少期に心理的虐待を受けた経験がある
子供時代に親から厳しい言葉を浴びせられたり、否定されたりして育った人は大人になってからも同じような関係を無意識に求めてしまうことがあります。
たとえば、「お前は何をやってもダメだ」と言われ続けた子供は「自分は価値がない」と思い込むようになります。そして、結婚後に旦那から同じような言葉を浴びせられたとき「これが普通のことなのだ」と受け入れてしまうのです。
4. 旦那の行動を「愛情の一環」と誤解している
言葉の暴力を受け入れる妻の中には「旦那は私のことを思って叱っている」と考える人もいます。たとえば、旦那が「もっとしっかりしろ」「そんなこともできないのか」と言ったとき、それを「私を成長させるためのアドバイス」と受け取ってしまうのです。
しかし、実際にはこうした言葉は相手を傷つけ支配するためのものであり、決して愛情の表現ではありません。にもかかわらず、妻が旦那の暴言を愛情と誤解することで、言葉の暴力が続いてしまうのです。
5. 経済的に旦那に依存している
旦那に経済的に依存している女性は、たとえ言葉の暴力を受けても離れることができません。「仕事をしていないから、ここで耐えるしかない」「この家を出たら生活できない」という不安があるため、旦那の暴言を受け入れてしまうのです。
特に、結婚後に専業主婦になった場合、経済的な自立が難しくなることがあります。その結果、「どんなにひどいことを言われても、旦那と一緒にいるしかない」と考えてしまうのです。
精神的DVを容認し続けた人は身体的暴力も受け入れるようになる
言葉の暴力を受け入れ続けることは、心身の健康に深刻な影響を与えます。心理的なダメージが蓄積すると、うつ病や不安障害、自己否定感の増大につながり、最終的には正常な判断力を失ってしまうこともあります。
また、家庭内での精神的暴力が子供に与える影響も無視できません。親が言葉の暴力を受け入れる姿勢を見せると、子供はそれを「普通のこと」と認識し、自身の人間関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。自分が同じようなことしたり、同じようなことをする相手と恋愛関係を結びがちになるのです。
さらに、言葉の暴力はエスカレートして物理的な暴力へと発展するリスクも高まります。精神的DVを受け続けた人は最終的に身体的な暴力も容認しがちなことは、多くの研究から分かっていることです。
そのため、「まだ殴られているわけではないから大丈夫」と考えるのは危険です。むしろ、言葉の暴力の段階でしっかりと対処することが、深刻な事態を防ぐために重要なのです。
もし「おかしい」と少しでも感じたなら、その直感を大切にしましょう。
- Capezza, N. M., & Arriaga, X. B. (2008).Factors Associated With Acceptance of Psychological Aggression Against Women.


