機能不全家族の親子逆転がプラスに働く場合がある

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機能不全家族においては、親子の立場が逆転していることが多いです。

子供が、母親や父親の役割を果たしているのです。

このような環境で育つと、将来に悪影響が出ることがよく知られています。

しかし、場合によってはプラスの影響が出ることもあります。

ペアレンティフィケーション、見えない児童虐待

機能不全家族で親子逆転が起こることは、珍しいことではありません。

相談に来ている人からも「私が母親で、母親が娘のような関係だった」という話をよく聞きます。

こうした現象は、海外でも「ペアレンティフィケーション(親役割化)」と呼ばれ、子供の健全な成長を阻害する「見えない児童虐待」とされています。

親子の立場が逆転している機能不全家族では、子供が次のような精神面、実務面での負担を背負っています。

  • 親の愚痴や悩みを聞き続ける、相談相手になる
  • 両親が喧嘩したときの仲裁役、慰め役になる
  • きょうだいの世話をする
  • 料理、洗濯、掃除といった家事を行う
  • お金の心配を大人のように背負う
  • 「自分がしっかりしないと家が回らない」と感じる

これらは、ただの「お手伝い」とは違います。

お手伝いであれば、子供が自分の遊びや勉強の時間、甘えたい気持ちをを削ってまで、優先することはありません。

しかし、親子逆転によるペアレンティフィケーションでは、子供が自分を犠牲にしてまで、大人の責任を引き受けているのです。

機能不全家族で親子逆転が起こる原因と影響

なぜ親子逆転が起こるかといえば、家庭内で大人の役割を担う人が不足したり、親が本来の養育機能を十分に果たせなくなったりするからです。

マレーシアプトラ大学のルジアナ・マシラン博士らが、親子逆転の要因について調べた研究があります。

それによると、次のような条件がある家庭では、親子逆転が起こりやすいことが分かりました。

親子逆転が起こりやすい5つの要因

1. ひとり親家庭・両親の喧嘩

親の離婚や、夫婦間の不和がある家庭では、子供が片方の親の相談相手や、精神的支えになりやすいです。

たとえば、母親が離婚後の不安や怒りを子供に話し続けると、子供は本来、受け止めきれない大人の感情問題を抱えることになります。

2. 親のアルコール依存・病気

親がアルコール依存、精神疾患、慢性疾患を抱えている場合、家計の管理や、子供の世話が難しくなることがあります。

その結果、子供が家事をしたり、親の世話をしたり、家庭内のトラブルを調整する役割を担うことになります。親が不安定だと、子供は「自分がしっかりしなければ」と感じ、年齢以上の責任を背負いやすくなるのです。

3. 家庭内暴力

家庭内暴力や、激しい夫婦喧嘩がある場合、子供は安全を保つために周囲の感情や雰囲気を過度に読むようになります。

そして、危機管理の役割を引き受けます。下のきょうだいを別の部屋に連れていったり、親の機嫌を取ったりして、家の中の緊張を和らげる努力をするのです。

4. 貧困家庭

貧困家庭では、親が長時間働かなければならなかったり、外部の支援が乏しかったりするため、子供が家事や、きょうだいの世話を担いやすくなります。

また、経済不安は親の心理的ストレスも高め、精神的な疲弊をもたらします。そのような状況では、子供が親を励ます、親の愚痴を聞く、家庭内の雰囲気を保とうとする、といった情緒的な役割まで担うことがあります。

5. アジア圏の文化

日本を含むアジア圏の集団主義的文化では、子供が家族を助けること、年長の子供が年少のきょうだいを世話することが「望ましいこと」と見なされやすいです。

そのため、子供が家庭内のケアをしていても、「素晴らしいこと」とされ、問題視されないことがあります。

親子逆転を経験した子供に出る悪影響

親子逆転の起こっている機能不全家族で育った子供には、将来どのような影響が出るのか、ということも分かっています。

1. 精神的ダメージ

子供が親の感情的な支えになりすぎると、自分のつらさを表現できなくなったり、助けを求めにくくなったりします。それが、思春期や成人後の心理的苦痛、抑うつ症状につながることがあります。

2. 対人関係への影響

親を支えすぎた経験は、成人後の恋愛・対人関係にも影響します。相手に尽くしすぎる、自分の気持ちを伝えにくくなる、拒絶に敏感になる、建設的な対話が難しくなる、といった問題が起こるのです。

3. 子育てを負担に感じる

幼い頃に「世話をする側」に置かれすぎると、将来、自分の本当の役割として世話をしなければならない場面で、疲弊感や抵抗感を持ってしまうことがあります。

たとえば、自分の子供を育てるときや、配偶者の病気の看病などに、強い負担を感じることがあるのです。

4. 行動面・人格面への影響

親子逆転している家庭では、怒りや、悲しみといった自分の感情を表出することができません。こうして抑圧された感情は、成人後に攻撃的な性格傾向として表れることがあります。

また、「自分がしっかりしなければ」と思い続けた人は、自分の弱さを認められなくなります。すると苦しみや不安を感じたときに、その感情が何なのか理解できずに、混乱することがあります。

自己効力感や社会性にプラスとなることがある

ここまで、親子逆転のマイナスの影響を説明してきましたが、実は今回の研究では、プラスの効果があることも分かっています。

子供が家庭内で役割を果たすというのは、別の見方をすれば、「自分が行動すれば状況を良くできる」という経験を積み続けることでもあります。

こうした感覚は、「自分ならできる」「自分の行動には意味がある」という、自己効力感を育むことにつながります。

それによって、新しいことへの挑戦に積極的になったり、困難な状況でも諦めずにやり切ることができるようになります。

また、親が疲れていないか、弟や妹が不安そうにしていないかを雰囲気から読み取る経験は、状況判断力や共感性を育てます。

これらの能力が、社会に出たあとのコミュニケーションや、仕事に役立つこともあります。

親子逆転によるプラスの影響に必要な条件

ただし、親子逆転によるプラスの影響は、子供が「不公平だ」「押しつけられている」と感じていたら起こりません。

次の条件が揃っているときに、プラスの影響が起こりやすくなることが分かっています。

  • 親がお願いしたい内容をきちんと伝えている
  • 子供がしてくれたことに対して、親が感謝やねぎらいの言葉を伝えている
  • きょうだいや祖父母など、家庭内に支えてくれる人間関係がある
  • 子供自身が、その役割を「家族の役に立っている」と前向きに受け止めている
  • 子供が親の悩みや感情を背負いすぎず、負担が長く続きすぎないこと
  • 親子の間で「なぜその手伝いや役割が必要なのか」を話し合えている
  • 任せる内容が、年齢や成長段階に対して無理のない範囲である

つまり、子供が家事や世話をすること自体が問題なのではなく、負担の重さや子供の受け止め方によって、プラスにもマイナスにもなるということです。

そもそも、これらの条件が揃っていたら、機能不全家族ではないだろう、という気もしますが…

「傷」だけでなく、身につけてきた「力」にも目を向ける

機能不全家族の親子逆転は、悪いこととして語られることが多いです。ネットの記事もたいてい、そのような内容です。

それらを見て、自分の今までの努力や、苦労が否定された気持ちになる人もいるかもしれません。

しかし、家庭内で親の役割を果たしてきたことが、必ずしもマイナスの影響として出るわけではないのです。

相談に来ている人の中にも、親子逆転の家庭だったという人はいますが、仕事や友人関係は上手くいっているという人は少なくありません。

ただ、恋愛の場面でだけ必要以上に尽くしすぎて、依存してしまうといったように、悪影響が一部分でだけ出ることもあります。

ですから、過去の自分の役割をネガティブに捉える必要はありません。

仮にあなたが、精神的につらくとも、親子逆転が理由だったとは限らないのです。

親子逆転の経験を「傷」としてだけ見るのではなく、そこから身につけてきた「力」にも目を向けてください。

参考文献
  • Masiran, R., Ibrahim, N., et al. (2023).The positive and negative aspects of parentification: An integrated review.