HSPが生きるのがつらいのは「情動制御」をうまく使えないから

HSPが気分の落ち込みや不安、抑うつと相関していることは過去の研究からも明らかです。

こういった影響が大きすぎて「生きるのがつらい」と相談にくるHSPもいます。

しかし、勘違いしないでほしいのですが、HSPであることが直接的にネガティブな感情を生み出しているのではないということです。

「HSP=生きるのがつらい」というのは間違いです。

HSPとネガティブな感情を媒介するものがあるのです。そのうちの一つが「情動制御」です。

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情動制御とは

情動制御とは、自分の中に生じた感情を変化させるプロセスです。その方法は様々なものがあります。

たとえば、怒りの感情が芽生えたときにそれを顔に出さないことも情動制御の一つです。こうすることで、怒りをコントロールすることができるのです。

他にも体験している状況をポジティブに捉え直したり、全く関係のないことを考えたりする方法があります。

また、自分の心に生じた感情をありのままに観察するマインドフルネスなども情動制御といえます。

状況に適した情動制御が行えないと精神的な苦痛を感じやすく、それが生きづらさにつながることが分かっています。

情動制御ができないことの生きづらさ

マサチューセッツ大学のキム・グラッツ博士らが、情動制御がうまく行えない人にどのような悪影響が出るのか調べた研究があります。それによると次のことが分かっています。

1. 感情に引っ張られてやるべきことが手につかない

情動制御ができないと不安、怒り、悲しみなどの感情に注意が奪われ、やるべきことに集中しにくくなります。

たとえば、落ち込んだときに勉強や仕事に取りかかれない、怒りや不安が頭から離れず作業が止まる、予定していた行動を途中でやめてしまうといった悪影響がでます。

また、ネガティブな感情が強いほど「今やるべきこと」よりも「つらい気持ちをどうにかしたい」という反応が優先されやすくなります。

その結果、課題の提出が遅れる、仕事の効率が下がる、人との約束を守れなくなるなど、日常生活や社会生活にも支障が出る可能性があります。まさに生きるのがつらい状態になってしまうのです。

2. 対人関係が悪化する

怒りや不安を感じたときに情動制御ができないと、相手の言葉を必要以上に否定的に受け取ったり、感情のままに強い言葉で責めたりしやすくなります。

また、自分の不安を落ち着かせるために、相手をコントロールしようとする場合もあります。

こうしたやりとりが繰り返されると、安心してコミュニケーションすることが難しくなり、信頼関係の低下や関係悪化を招く可能性があります。

3. 感情を避けようとして問題が長引く

情動制御が苦手な人は、不快な感情を避けたり、抑え込んだり、なかったことにしようとすることがあります。

たとえば、つらい出来事があったときに「考えないようにしよう」「早く忘れよう」とします。

こうすることで、一時的に気持ちが楽になりますが、感情の原因や自分の本当の気持ちを整理しないままになるため、同じような場面で再び強い感情に振り回されることになります。

また、怒りや悲しみを表に出さないようにし続けると、気持ちが限界に達したときに突然泣き出したり、激高したり、何もできなくなるという形で表出されることもあります。

4. 自分を傷つける

研究では情動制御の困難さと、自傷の関係も判明しています。

強い怒りや悲しみなどが生じたときに、その感情をどう受け止め、どう落ち着かせればよいのか分からなくなり、心理的な苦痛を一時的に軽くする手段として、自らの体に傷をつけてしまうのです。

特に「この感情を楽にする方法がないと思う」「感情に圧倒されて自分をコントロールできない」といった状況のとき、自分を傷つけることが感情を調整するための手段となりやすいのです。

また、情動制御をうまく使えないことが、不安障害などの心理的な問題につながりやすいことも分かっています。

情動制御ができないHSPは生きるのがつらい

「生きるのがつらい」と言っているHSPは、この情動制御が上手くいっていない人が多いです。

実は情動制御が正しく行えないHSPが、生きづらいことは研究でも分かっているのです。

感覚処理感受性の高い人(HSP)は精神的苦痛を感じやすい

オーストラリアのスウィンバーン工科大学がHSPとネガティブな感情、情動制御の関係を調べました。

この調査では18歳から60歳までの女性118名と男性39名に感覚処理感受性、抑うつ・不安、精神的苦痛への耐性、情動制御をそれぞれ調べるための質問票に回答してもらいました。

そこからまず分かったことは、感覚処理感受性の高い人(HSP)は精神的苦痛を感じやすいということです。これは過去の研究でも分かっていたことです。

HSPが生きるのが辛いと感じる仕組み

そして、情動制御がHSPと精神的苦痛を媒介するということも分かりました。

つまり、HSPであることが精神的苦痛を生み出す要因ではなく、HSPで情動制御がうまく出来ないことが要因だということです。

正しい情動制御ができないと、苦痛を感じたときにいつまでも動揺したままになり、気分を持ち直すために出来ることは何もないという誤った信念を強めてしまいます。

それだけでなく、ネガティブなことばかりに注意が向いてしまい不安や抑うつ傾向を強めてしまうのです。

これらのメカニズムにより、HSPは生きるのが辛いと感じてしまうのです。

情動制御を上手く使う方法

情動制御を上手く使うことでHSPの「生きるのがつらい」という感覚を軽減することができます。そのためはいくつかのコツがあります。

ネガティブな感情を悪いことと捉えない

HSPは怒りや不安、恥ずかしさといった感情が芽生えると悪いことのように捉えがちです。(これらのこと自体も生きるのがつらいと感じることにつながります)

しかし、ネガティブな感情は誰でも芽生える感情ですから、気にする必要はありません。

感情をコントロールするというのは、ネガティブな感情が出ないようにすることではないのです。それが出たときに上手に対処することなのです。

ですから、まずは心に生じた感情を「自分はいまこう感じているのか」と受け入れることです。

それさえもできない状況であれば、一旦その場を離れたり深呼吸して落ち着くことです。

緊張したときは交感神経が優位になっているので、視野狭窄が起こりやすく状況判断が上手くできないことがあります。

情動制御は性格に関係なく使えるテクニック

そして「自分はネガティブな感情をコントロールできる」という信念を持つことです。そのためには自分なりの対処法を複数準備しておくことです。

ストレスを受けたときの自分なりの対処法を書き出したものを「コーピングリスト」と言いますが、そういったものを作って財布や手帳に入れておくだけでも安心感につながります。

コーピングリストの内容は簡単なもので良いのです。窓の外を見るとか、好きな人のことを考えるとかでもストレスを逃すのに役立ちます。

情動制御はテクニックですから、性格に関係なく誰でもできることです。ぜひ、自分に合った方法を作り上げてください。

HSPだから生きるのがつらいのではない

プロテインを飲むことと、怪我のしやすさには相関があるといわれていますが、なぜか分かりますか?

含まれる成分が、怪我につながっているのではありません。

プロテインを飲む人はスポーツをしている確率が高いので、怪我をする機会が多いということです。

HSPについても、これと同じことがいえます。HSPだから生きるのがつらいのではありません。

最適な情動制御が行えないから「生きるのがつらい」と感じているのです。

そもそも、HSPが情動制御が上手くできないということ自体が、思い込みによるものかもしれません。

そうなってしまった原因は、感覚処理感受性はネガティブな環境に対する敏感のみを表すという間違った認識が広まったことだと思います。

情動制御は繰り返し意識していく中で、上手く使いこなせるようになります。できることから始めてみましょう。

参考文献
  • Gratz, K. L., & Roemer, L. (2004).Multidimensional assessment of emotion regulation and dysregulation: Development, factor structure, and initial validation of the difficulties in emotion regulation scale.
  • Brindle, K., Moulding, R., Bakker, K., & Nedeljkovic, M. (2015).s the relationship between sensory-processing sensitivity and negative affect mediated by emotional regulation?