HSPは涙もろいです。映画やドラマを見て泣いたり、友達の辛い話を聞いて泣くこともあります。職場や学校で注意されたり、少し言われただけで泣くこともあります。
頭では「そこまで深刻なことではない」と分かっていても、体のほうが先に反応してしまうのです。
そんな自分に対して、「弱すぎる」「社会人としてダメなのかも」と責めてしまうこともあるでしょう。
しかし、HSPがすぐに泣くのは弱いからではありません。脳がそういう反応をしやすいだけです。これは生まれ持った脳がそうなっていることと、子供時代の環境が影響しています。
今回は、HSPが涙もろい理由と、泣きそうになったときにすぐに使えるテクニックを紹介します。
HSPがすぐ泣く理由、言葉以外も受け取るから
少し言われただけで泣いてしまうとき、HSPの中では「その一言」だけが響いているのではありません。
たとえば仕事中に上司からちょっとした注意を受けたとします。このとき、HSPは注意の言葉だけではなく、その他の情報まで受け取ってしまいます。
相手の声が少し低くなったこと、表情が硬くなったこと、さらには周囲の人の反応まで気づいてしまうのです。
さらに、過去に似た場面で傷ついた記憶などが、よみがえることもあります。
そして、失望させた、使えない人間と思われた、といくつもの意味づけを重ねてしまいます。
他の人なら「次から気を付けよう」で終わる場面でも、HSPの人の中では深刻な事態となってしまうのです。
このように、相手のちょっとした言葉でも真剣に受け止め、脳内で様々な処理が始まってしまうため、泣きやすいのです。
HSPの脳は泣きやすい
HSPの涙もろさを考えるうえで参考になる研究があります。
UCSBのビアンカ・アセヴェド博士らの研究では感覚処理感受性が高い人(=HSP)に様々な画像を見せて、脳がどのように反応するかをfMRIで調べています。
HSPはネガティブな情報に触れると扁桃体・海馬・前頭前野が活性化される
この研究では、HSPほど恐怖・悲しみ・不安などをイメージさせる画像を見せられたときに、扁桃体、海馬、前頭前野が活性化することがわかりました。
これらは次のような働きをする領域です。
- 扁桃体:恐怖・不快・脅威などへの情動反応
- 海馬:過去の記憶や文脈との結びつけ
- 前頭前野:感情の調整・自己制御
また、VTA、黒質、尾状核といった報酬系の活動の低下も見られました。つまり、不快な刺激を受けたとき、ポジティブな感情を発生させるための活動が下がりやすいということです。
これらの働きから分かるように、HSPがちょっと言われただけで泣いてしまうのは、脳がネガティブな情報に反応しやすく、そのとき前向きになりにくいからということです。
HSPでも涙もろくない人の子供時代
HSPだからといって全員が涙もろいわけではありません。
実は今回の実験では幼少期に親から受けた養育の質も確認しています。「質」とは親が愛情を示したり、気持ちを理解してくれたかといったことです。虐待や過保護な対応がないことも含みます。
これらのデータを統合したところ、HSPでも養育の質が良かった人は、ネガティブな感情をイメージさせられる画像を見たときに、VTA、黒質、尾状核、下前頭回の活動低下が見られなかったのです。つまり、前向きな感情を発生させるための活動が低下しにくかったということです。
それどころか自己制御や認知処理に関わる領域が活動していました。状況を冷静に判断し直し、パニックになりにくいということです。
これはHSPが良い意味でも環境の影響を受けやすいことを意味しています。
つまり、辛いことがあったときに、親がその感情を受け止め対処してくれた影響を受け、ネガティブな刺激を「危険」だけでなく「対処できるもの」と捉えやすくなっているということです。
これが何を意味するかというと、脳には可塑性があるということです。HSPであっても悪い刺激の受けやすさを変えられるということです。
研究で分かった感情を逸らすテクニック
今回の実験では、子供時代の環境が悪いと脳のネガティブ反応が増えるということまでは証明されていません。
とはいえHSPに限らず家庭環境は成人後の自尊感情や肯定感に関係するものですから、そこに問題を抱えている人は愛着の問題などを克服する必要もあります。それによって泣きやすさが改善されることもあるのです。
しかし、そのような根本的な解決には時間が掛かります。そこで、ここでは涙が出そうになったときにそれを止めるための即応的なテクニックを紹介します。
なぜ涙が流れるかというと、悲しみや悔しさ、怒りといったマイナス感情が生じてしまうからです。逆にいえばそういった感情を外に逸らせば涙は出ないということです。
シェフィールド大学心理学部のチームが、過去に行われた感情制御方略(感情に振り回されすぎないように、感じ方・考え方・注意・表情を調整するテクニック)の研究を再分析し、効果の有無をまとめたものがあります。その結果は以下の通りです。
| 方略 | 内容 | 具体例 | なぜ有効 |
|---|---|---|---|
| 視点取得による再評価 | 感情を引き起こす状況から心理的距離を取り、第三者の視点で客観的に見る | 観察者として眺める。「この人は今、強いショックを受けているが、何が起きて、どこでつまずいたのかを整理すれば次の行動を選べる」と見る | 感情に巻き込まれにくくなり、出来事の意味づけそのものが変わる。研究では最も効果が大きい方略の一つとされる |
| 感情刺激の再評価 | 感情を生じさせた出来事・状況の解釈を変える | 怒られたことを「否定された」ではなく、「改善点を教えてもらった」と捉える | 感情の原因となる刺激の意味を変えるため、感情反応が弱まりやすい |
| 感情反応の再評価 | 自分の感情そのものを別の見方で受け止める | 不安を「異常」ではなく、「準備しようとしている自然な反応」と考える | 感情を否定せずに扱えるため有効。ただし、出来事自体の意味を変えるわけではないので効果は比較的小さい |
| 気晴らし | 感情刺激から注意をそらし、別の対象に注意を向ける | 怒りや不安が強いときに、散歩・計算・別作業に意識を向ける | 感情を強める刺激や思考から注意資源を離すため、感情の増幅を防ぎやすい |
| 感情表出の抑制 | 感情が外に出ないよう、表情・声・行動を抑える | 腹が立っても顔に出さない、泣きそうでも表情を保つ | 外から見える表情や行動は抑えられる。ただし、内面の感情や身体反応まで弱まるとは限らず、生理的負荷が増える可能性がある |
涙を止めるテクニック
涙が出そうなときに、即座にできる対応としては以下のものがあります。
- 鼻から2~3秒吸って、口から5~6秒吐くという呼吸を繰り返す
- 視線を相手の顔以外の一点に集中させる。会話中ならメモや資料を見るふりをして手元に視線を置く
- 起こっていることを頭の中でアナウンサーのように実況中継する
- 頭の中で単純な計算をする。例:100から7ずつ引いていく
人間の脳ミソは二つのことを同時に考えることはできないといわれているので、涙を誘う要因とは別のものに注意を向ければ良いのです。
とはいえ、涙というのは心と体が強い刺激を処理しきれなくなったときに起こる、自然な反応でもあります。ストレスを外に逃がすという役割も持っています。
ですから毎回、泣きそうになったときに無理して涙を抑えると余計に心が疲弊しますから気をつけてください。
また、ストレスが溜まり続けることで、突然涙が流れてくることもあります。
HSPの人はストレスが溜まりやすいので、日頃からメンタルのケアをしておくことも重要です。
- Acevedo, B. P., Jagiellowicz, J., et al. (2017).Sensory processing sensitivity and childhood quality’s effects on neural responses to emotional stimuli.
- Webb, T. L., Miles, E., & Sheeran, P. (2012).Dealing with feeling: A meta-analysis of the effectiveness of strategies derived from the process model of emotion regulation.


