相談に来ている女性の中にも、「性行為が怖い」と感じている人は少なくありません。
過去のトラウマがあるわけではないのに、理由も分からず強い恐怖や拒絶感を抱いてしまう、という人もいます。
なぜ、性行為に対する恐怖が生まれるのでしょうか?
その背景には「性的自己スキーマ」という、認知的な枠組みが深く関係していることが、研究によって分かっています。
性的自己スキーマとは、自分の性に対する認知的な枠組みのことです。
ポジティブなスキーマを持つ人は、性行為を自然で楽しいものと捉える一方、ネガティブなスキーマを持つ人は不安や、恥ずかしさを感じやすく、時には強い恐怖を抱くこともあるのです。
そこで今回は、女性が性行為に恐怖を感じる原因を、性的自己スキーマの観点から解説したいと思います。
そして、ネガティブなスキーマを持つことによる影響や、その克服方法についても説明していきます。
性的自己スキーマとは何か?
冒頭でも説明したように、性的自己スキーマ(Sexual Self-Schema)とは、自分の性に関する認知的な枠組みや認識、価値観のことです。
これは過去の経験や文化的な影響、教育、対人関係などを通じて形成されます。
性的自己スキーマは、私たちの性に関する考え方や行動を無意識のうちに決定する重要な要素です。
性的自己スキーマは、「ポジティブなスキーマ」と「ネガティブなスキーマ」の二種類に分けることができます。
ポジティブな性的自己スキーマ
- 自分の性に対して肯定的な感情を持っている
- 性行為を自然なものと考え、楽しむことができる
- 性に関する話題や行動に対して積極的
ネガティブな性的自己スキーマ
- 自分の性に対して否定的な感情を持っている
- 性行為を恥ずかしいもの、汚いものと感じる
- 性に関する話題を避ける傾向がある
- 性的な経験に対して不安や恐怖を抱きやすい
特にネガティブな性的自己スキーマを持つ女性は、性行為に対して恐怖を感じやすいことが、研究で示されています。
女性が性行為を怖いと感じる原因
女性が性行為を怖いと感じる理由には、さまざまな要因がありますから、特定するのは難しいものです。
しかし、性的自己スキーマがどのように影響を及ぼしているのか理解することで、問題の根本的な原因を探れます。
1. 過去の経験による影響
性的自己スキーマは、過去の経験によって形成されます。たとえば、以下のような経験があると、ネガティブな性的自己スキーマが作られやすくなります。
- 幼少期や思春期に性に対する否定的な教育を受けた
- 性的なトラウマや嫌な経験をした
- 初めての性行為が痛みを伴うものだった
このような経験を持つ女性は「性は怖いもの」「性行為は痛いもの」といった認知を、無意識のうちに持つようになります。その結果、性的な場面に直面すると、不安や恐怖を感じてしまうのです。
2. 社会的・文化的な影響
社会や文化が、女性の性的自己スキーマの形成に大きく関わっています。特に、日本の文化では「女性は清楚であるべき」「性に積極的な女性は好ましくない」といった価値観が今も根強く存在します。
このような社会的プレッシャーを受けた女性は、性に対して否定的なスキーマを持ちやすくなります。「性行為を楽しんではいけない」「性について話すのは恥ずかしい」といった考え方が根付くことで、性に対する恐怖心が強まるのです。
3. 恥ずかしさや罪悪感
ネガティブな性的自己スキーマを持つ女性は、性に対して恥ずかしさや罪悪感を感じやすくなります。特に、自分の性的な欲求を認めることに抵抗がある場合、性行為そのものを拒否する傾向が強くなります。
例えば、以下のような考え方が影響を与えることがあります。
- 「性行為をすることは恥ずかしい」
- 「女性が性を楽しむのは良くない」
- 「性的なことを考えるのは不道徳だ」
こうした考え方は実際に性行為をするときに強い不安を引き起こし、「怖い」と感じる原因となります。
性行為への恐怖を克服するには?
スキーマというのは脳科学的にいえば、どんな思考が生み出される神経が繋がりやすいか、ということです。脳には可塑性がありますから、神経の繋がり方は変化します。
つまり、スキーマは変えられるということです。
テキサス大学の研究チームによる実験でも、過去の性的トラウマを持つ被験者の、性的自己スキーマがトレーニングによって変化したという結果が得られています。他にも複数の研究で同様の結果が出ています。
スキーマは、特殊な訓練をしなくとも、普段の意識を変えるだけでも、ポジティブなものへと変化させることは可能です。具体的には、以下のような方法が有効です。
1. 自分の性的自己スキーマを知る
まず、自分の性的自己スキーマを理解することが重要です。
「自分は性に対してどのようなイメージを持っているのか?」を考え、紙に書き出してみるのも良い方法です。
以下のような質問に答えてみましょう。
- 性行為に対してどのような感情を持っていますか?
- 初めて性について意識したときの記憶は?
- 性に関するポジティブなイメージとネガティブなイメージは何ですか?
これらを振り返ることで、自分の性的自己スキーマが形成された背景を理解することができます。
振り返ったら、それが「事実といえるか?」ということを検証してみてください。自分の価値基準で判断できないなら、友達ならどう考えるか?という視点を持つと判断しやすくなります。
これにより、少しずつネガティブなスキーマが変化していきます。
2. 性に関するポジティブな情報に触れる
ネガティブなスキーマを持つ人は、性に関する情報を無意識のうちに避けていることが多いです。しかし、ポジティブな情報に触れることで、スキーマを書き換えることができます。
- 性に関する正しい知識を学ぶ
- 性に対してオープンな考え方を持つ人と話す
- 自分のペースで性的な経験を積む
少しずつでも、性に対する前向きな意識を持つことが大切です。
上記以外にも、性的なシーンを描いた映画を観ることで、良いイメージを持つことも役立ちます。
とにかく、性に関するポジティブな情報を摂取しましょう。
3. 信頼できるパートナーと対話する
性行為に対する不安を和らげるためには、信頼できるパートナーと正直に話し合うことも重要です。
「性行為が怖い」と感じている理由を伝え、無理のないペースで進めることができれば、不安を軽減することができます。
パートナーが理解を示し、優しく接してくれることで、安心感が生まれます。これによって、少しずつ性に対する恐怖心を克服できることもあります。
ただし、注意しなければならないことは性行為が怖いと思う原因に、トラウマが関わっている場合にはそれを再体験することとなり、危険なことがありますから、そのようなリスクがある人は専門家に相談するなどしましょう。
ボディイメージの向上も有効
性行為への恐怖を克服するには、自分のペースを守ることも重要です。
無理に考えを変えようとすると、逆に不安が強まることがあります。小さなステップを積み重ねることで、少しずつ前向きな変化が生まれます。
また、ボディイメージの向上も、性に対する不安を和らげる要素の一つです。自分の体を否定的に捉えていると、性行為の際に「見られること」への不安が強くなり、恐怖感につながることがあります。
日頃から鏡で自分の体を見て、ポジティブな言葉をかけたり、心地よいスキンケアを取り入れたりすることで、自分の体への親しみを深めることができます。
性への恐怖は決して「異常」なことではありません。多くの女性が同じような悩みを抱えています。
焦らず、少しずつ自分の気持ちと向き合いながら、性に対する前向きなイメージを育んでいきましょう。
- Cyranowski JM, Aarestad SL, Andersen BL. (1999).The role of sexual self-schema in a diathesis-stress model of sexual dysfunction.
- Pulverman CS, Boyd RL, Stanton AM, Meston CM. (2017).Changes in the sexual self-schema of women with a history of childhood sexual abuse following expressive writing treatment.

