HSPは嫌な出来事を何度も思い出してしまうことがあります。
これは記憶力が良いということでしょうか?
そうであれば、ネガティブなことだけでなく、勉強や仕事にも活かせるのでしょうか?
実は活かすことができるのです。しかし、それは学習後にどのような行動を取ったかで変わります。
HSPの記憶力は良くなることもあれば、悪くなることもあるのです。
嫌なことばかり思い出してしまうときの具体的な対処法も含めて解説します。
記憶力をテストする実験
インスブルック大学のロバート・マーヘンケ博士らが記憶力をテストする実験を行っています。
この実験では、参加者に2つの単語リストを覚えてもらいました。
このとき一方のリストを覚えた後には8分間の休息をし、もう一方のリストを覚えた後には簡単な課題をやってもらうといった形で条件を変えました。
簡単な課題とは文字と記号を見分けてボタンを押していくという、脳に負担をかけるゲームのようなものです。
HSPだけ記憶に違いが出た
それから1週間後に単語をどれだけ記憶しているかをテストしたところ、2つの条件に違いはありませんでした。
覚えた後に休息しようと、課題をしようと覚えていた単語の数に違いはなかったのです。
しかし、HSPの参加者だけの結果に限定すると、違いがありました。
HSPは覚えた後に休息したときはスコアが良く、課題をやったときはスコアが悪くなる傾向があったのです。
ちなみに、HSPの特性として同じことを何度も繰り返し考えてしまう反芻思考があります。今回の実験でも単語を頭の中で反芻するHSPもいましたが、それをしたかどうかとテストのスコアに差はありませんでした。
HSPは脳内の処理が異なる
なぜHSPだけこのような違いが出たのでしょうか?
これには外部からの刺激に強く影響されるHSPの脳の仕組みが関係します。
単語を学習した後に休息した場合、周囲から入ってくる刺激を少なくできるため、脳のリソースを直前に覚えた単語の整理や記憶の固定化に使いやすくなります。
特にHSPはこの「内的な処理」を強く行う傾向があるため、休息が記憶保持にプラスに働いたのです。
これに対し、学習後に課題を行うと、そこに集中しなければなりません。特にHSPは外部からの課題要求に強く反応しやすいため、多くの脳のリソースを使ってしまいます。
その結果、直前に学んだ内容を定着させる余裕が少なくなり、記憶の固定化がされにくくなるのです。
つまり、HSPは、記憶に良い影響を与える行動からはプラスの効果を得やすく、悪い影響を与える行動からはマイナスの影響を受けやすいということです。
HSPの記憶力を活かした勉強法を
このように、HSPの記憶力は学習後にどう過ごしたかによって変わるということです。
もしあなたが、学校のテストや資格試験の勉強をしているなら、暗記すべきことを覚えた後は、休息することをおすすめします。
受験のアドバイスで「暗記系は寝る前にやると良い」といわれることが多いですが、これも睡眠中に記憶を定着させているからという理由以外に、余計な刺激に脳のリソースを使わせないという理由もあるのです。
嫌な出来事を忘れるにはテトリスをすれば良い
とはいえ、「私は嫌なことがあった後に、色々なことをやっているけど、忘れられない」というHSPもいるかと思います。
これは当然です。他人との楽しい出来事やトラブルは「エピソード記憶」といいますが、こうした記憶は感情と結びついたときに特に記憶に定着しやすくなるのです。HSPは良いときも悪いときも感情が揺さぶられますから、いつまでも覚えているということです。
特に、嫌なことや危険なことは、次回も同じ目に遭わないように、いつまでも覚えているのです。他の動物に襲われる危険のあった原始時代の名残といえます。
このような脳の機能は、現代の私たちにはそれほど必要ではありません。それどころか、嫌な出来事を何度も思い出すことで、不快にさえなります。
では、HSPが嫌なことばかり思い出すのを防ぐには、どうすれば良いのでしょうか?
それは、ゲームのテトリスをすることです。
テトリスをすると衝撃映像を思い出さなくなる
オックスフォード大学のエミリー・ホームズ博士らの研究チームが、次のような実験を行いました。
まず、実験参加者は事故の衝撃的な映像を見せられます。それから30分の休憩をとります。
そして、3つのグループに分けられ、それぞれ10分間で次のことをします。
- テトリス
- クイズゲーム
- 何もしない
それから1週間にわたり、衝撃的な映像をどれくらい思い出したか記録してもらいました。
その記録では、テトリスをしたグループが、最も思い出す機会が少ないという結果になりました。
次に少なかったのは、何もしなかったグループで、最も思い出したのはクイズゲームをしたグループでした。
嫌な記憶にしようとする脳のリソースを奪う
なぜ、テトリスをしたグループは、衝撃映像を思い出す機会が少なかったのでしょうか?
それは、テトリスをしたことによって、脳のリソースが奪われたからです。
脳は、衝撃的な体験をすると、それを感情と結びつけて固定化しようとします。これがPTSDのフラッシュバックにつながるメカニズムではないか?といわれることもあります。
しかし、テトリスのような視覚と認知を同時に使う作業をすることでリソースが奪われると、そのメカニズムが阻害されます。
すると、嫌な記憶として想起される機会を減らすことができるのです。
この実験では、1週間後に衝撃映像の内容をどれだけ覚えているか?というテストも行いました。その結果、3つのグループで差がありませんでした。
つまり、テトリスは記憶力を落とすのではなく、体験と感情が結びつくことでフラッシュバックにつながるような記憶にしてしまう仕組みを阻害する効果があると考えられます。
なぜクイズゲームは逆効果になったのか?
この実験のもう一つのポイントは、同じゲームであっても、テトリスとクイズゲームでは結果が異なったということです。
クイズゲームをしたグループは、何もしなかったグループよりも、衝撃映像を思い出す機会が多かったのです。
なぜこのようなことが起こったのでしょうか?
それは、言語化のプロセスが関係していると考えられます。
私たちは事件や事故を体験したときに、それを言語化することで、状況を理解し心の混乱を落ち着かせることができます。
しかし、脳がその作業を行おうとしているときに、クイズゲームのような言語を使用する作業を行ってしまうと、邪魔をしてしまうのです。
それによって、状況を理解し落ち着くことができにくくなり、フラッシュバックのようなトラウマ反応を助長する可能性があるということです。
数時間後にテトリスをしても効果はあるのか?
この実験では、衝撃映像を見てからテトリスをするまでの時間をもっと延ばしたらどうなるのか?ということも確認しています。
先の実験では映像を見てから30分後にテトリスをしましたが、4時間後にテトリスをしたらどうなるのか?ということも調べているのです。
その結果は同じでした。
テトリスをしたグループが最も思い出す回数が少なく、次に何もしないグループ、クイズゲームをしたグループという順番になりました。
つまり、嫌なことがあってから数時間後でも、テトリスの効果はあるということです。
(※こちらの実験では、何もしないグループとクイズゲームをしたグループの差はわずかであり、有意差ありとまではいえませんでした)
翌日ではどうか?
実はエミリー・ホームズ博士たちは、数年後に別の実験も行っています。
翌日にテトリスをしても効果はあるのか?ということを調べたのです。
前回の実験と同様に衝撃映像を見せて、翌日にそれを思い出させる画像を見せた後に、テトリスをプレイさせたのです。
その結果、テトリスをプレイしたグループは、衝撃映像を思い出す機会が少ないことが分かりました。
嫌な出来事があった翌日にテトリスをしても、思い出しにくくする効果はあるということです。
本物の事故でも効果はあるのか?
ここまで紹介したのは、全て実験室での実験結果です。
実はエミリー・ホームズ博士たちは、本物の事故でも効果を発揮するのか、ということも調べています。
イギリスのオックスフォードにある、ジョン・ラドクリフ病院の救急科に来た事故の当事者や、目撃者に、その体験をしてから6時間以内にテトリスをさせたのです。
その結果、テトリスをした人たちは、しなかった人たちに比べて、フラッシュバックが少ないことが分かりました。本物の事故でも効果があったということです。
あなたも嫌なことがあったときは、翌日までにテトリスをしてみてください。嫌な記憶として思い出す機会を減らせるかもしれません。
※ここで紹介した研究はサンプル数が少ないなどの制限があります。そのため、トラウマ体験やPTSDの治療方法や早期介入への対策として推奨するものではありません。
- Marhenke, R., Acevedo, B., Sachse, P., & Martini, M. (2023).Individual differences in sensory processing sensitivity amplify effects of post-learning activity for better and for worse.
- Holmes, E. A., James, E. L., et al. (2010).Key steps in developing a cognitive vaccine against traumatic flashbacks: Visuospatial Tetris versus verbal Pub Quiz.
- James, E. L., Bonsall, M. B., et al. (2015).Computer game play reduces intrusive memories of experimental trauma via reconsolidation-update mechanisms.
- Iyadurai, L., Blackwell, S. E., et al. (2018).Preventing intrusive memories after trauma via a brief intervention involving Tetris computer game play in the emergency department: A proof-of-concept randomized controlled trial.


