会話中に近づくと離れるのは嫌われてるから?対人距離に影響を与えるもの

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物理的な距離のお話なのですが、会話中などに体を近づけると、逃げる人がいますね。

そこまで近づいたわけでもないのに、さっと引かれてしまったり、近づきそうな空気を出しただけで逃げられたりすることもありますね。

相手が男性でも女性でもこのように距離を取られてしまうと「嫌われてるのかな?」と不安になるものです。

しかし、子供でもない限りは嫌いだからとあからさまに体を離すようなことはしないものです。(回避依存症の人はそういうことをする場合もありますが)

ではなぜ近づくと逃げるのでしょうか?

もしかすると、子供時代の虐待が関係しているのかもしれません。

子供時代の虐待の影響

虐待には精神的なもの、肉体的なもの、ネグレクトなど様々な種類がありますが、そのどれもが深刻な問題を引き起こします。

子ども時代に虐待を受けた人々は、成長後に心理的、身体的、社会的な多岐にわたる問題を抱える可能性が高まることがわかっています。

心理的にはうつ病や不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などのリスクを著しく増加させるほか、自己肯定感の低下や慢性的なストレス反応が見られることが多いです。

また、虐待による慢性的なストレスは、免疫系や心血管系といった身体的健康にも悪影響を及ぼすことがあり、長期的な健康問題のリスクを高める要因となっています。

さらに、虐待経験者は他者との信頼関係を築くのが難しくなる傾向があり、これが原因で社会的孤立に陥ることが少なくありません。友人関係や職場での人間関係を構築することに困難を抱え、孤独感が深まることがあります。

そして、こうした経験は快適な対人距離にも影響を与え、他者との物理的距離を保とうとする傾向を強めることも分かっています。

知人もアカの他人も近づいてほしくない

子供時代の虐待が、他人との距離感にどのような影響を与えるのかを調べた、バル・イラン大学のシラット・ハイム-ナチュム博士らの実験があります。

この実験には日本を含む43ヵ国から2,986人が参加しています。(平均年齢31歳)

実験内容:CIDタスク(対人距離タスク)

この実験ではCIDタスク(対人距離タスク)というものが行われました。どのようなものかというと、コンピュータ上に表れた他者がだんだんと近づいてきたとき、不快に感じる点でボタンを押すというものです。

これによって、身体的にどこまで近づいても許せるかが分かるということです。タスクは知人のケースとアカの他人のケースで行われました。

また、複数の質問票を使って、子供時代の虐待経験や、対人ストレスの感じやすさ、愛着などについても調べました。

結果:虐待と許せる対人距離の関係

実験結果を分析したところ、子供時代に受けた虐待レベルが高い人ほど、知人およびアカの他人の双方に対して、近づかれたとき不快に感じやすいことが分かりました。

身体的虐待とネグレクトを受けていた人でこの傾向が顕著でした。精神的な虐待と対人ストレスの感じやすさにおいてはこの傾向はありませんでした。

また、不安型および回避型の愛着スタイルを持つ人ほど、心地良く感じられる距離が遠いことが分かりました。さらにこの傾向は周囲のサポートが少ない人ほど顕著でした。

そしてこの傾向に国ごとの違いはありませんでした。日本人もアメリカ人も、虐待経験が他者との距離感に影響を与えるということです。

なぜ近づくと離れるのか?

なぜ身体的虐待とネグレクトを経験している人は他者が近づいたときに、離れようとするのでしょうか?

それには以下の心理的、生物学的、行動的な要因が関係しています。

1. 心理的要因

身体的虐待を受けた場合、加害者が近づくことが暴力の前兆として学習されます。それにより、他者の接近が脅威として認識されやすくなります。

また、身体的接触が痛みや恐怖と結びついていた場合、その不快感や警戒心から接触自体を避けるようになることも多いです。このような行動は、自らの感情的な安全を守るための手段といえます。

さらに、虐待やネグレクトによる自己価値感の低下や対人不信は、「自分は他人から適切に扱われる存在ではない」という認識をもたらし、親密な関係を築くことへの抵抗感につながります。

このような要因が他者との距離を取ることで自己防衛を図ろうとする心理につながっているのです。

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2. 生物学的要因

身体的虐待やネグレクトの経験は、脳の神経生物学的な反応に大きな影響を与えます。

感情処理を担う扁桃体の過剰な活性化が見られ、これにより他者の接近を脅威として認識しやすくなるのです。その結果、広い対人距離を取ることで安心感を得ようとする心理が生じます。

また、虐待経験者では身体接触に関連するストレスホルモン(例:コルチゾール)の分泌が過剰になることがあり、この反応が身体的接近を避ける傾向を強化します。

さらに、社会的接触や他者の表情・態度に対する過敏性が高まり、接触や距離に対する警戒心が増すことも指摘されています。

これらの神経生物学的な要因が複合的に作用し、虐待経験者の対人行動や距離感に影響を及ぼしているのです。

3. 行動的要因

身体的虐待や放置を経験した人々は、自分の周囲に安全な空間を確保しようとする傾向があります。この空間は他者を物理的に遠ざけることで形成され、心理的なシールドとして機能します。

また、虐待経験により他者との親密な関係に対する不安や不信が強まり、他者が近づくことを避ける行動が促進されます。これにより、他者との距離を保とうとする広い対人距離が生じるのです。

さらに、放置によって適切な身体的接触やケアを経験しなかった場合、身体的な近さに慣れる機会が減少します。すると身体的接触を新奇なものと感じ、不安を引き起こし、他人と距離を取りたくなるのです。

好きな人に近づくと距離を置かれる場合どうする?

好きな人が虐待によって対人距離を遠ざける傾向を持っている場合、相手の気持ちや背景を理解しようとする姿勢が大切です。無理に距離を詰めようとするのではなく、相手が安心して心を開ける環境を整えましょう。

重要なのは相手のペースに合わせることです。相手が距離を保とうとするのは、過去の経験から安全を確保しようとする自然な反応です。ですから、その距離を尊重することが信頼の基盤となります。

こちらから急に近づこうとすると、相手にプレッシャーや不安を与える可能性があります。相手が示す小さなサインや行動を注意深く観察し、安心できる距離感を保つことが大切です。

次に、コミュニケーションにおいて誠実さと一貫性を示すことが重要です。虐待経験者は他者への信頼を築くことが難しい場合があります。そのため、こちらの言動が一致しており、予測可能であると思ってもらうこで安心感を与えられます。

また、相手の話を遮らず、ジャッジすることなく受け止める姿勢を持つことで、心を開きやすい環境を作ることもできます。

相手から明確なサインがない限り、身体的な接近は避け、信頼が深まるにつれて自然に距離が縮まるのを待ちましょう。

参考文献:Haim-Nachum, S., Sopp, M.R., Luond, A.M. et al. Childhood maltreatment is linked to larger preferred interpersonal distances towards friends and strangers across the globe.