自分を傷つけるためにセックスをする女性がいます。
彼女たちにとってのセックスは、リストカットなどの「自傷行為」と同じ意味を持ちます。
強い不安、自己嫌悪、孤独感、過去の傷つきなどの苦しさを、一時的にやわらげるための行為なのです。
しかし、このようなセックスを繰り返すほどに、その悪循環から抜け出すことが困難になります。
非自殺的な自傷行為とは
自尊心の低下や、生きていることの辛さから逃れることを目的として、自分の体を傷つけたことがあるという人は少なくありません。
調査にもよりますが、軽度の自傷行為も含めれば7~10人に1人は、その経験をしているとも言われます。
このような自傷行為は、自殺を目的としているものではありません。痛みにより生きている実感を得たり、自分を罰することで罪悪感を低下させることが目的です。
このような死を目的としない自傷行為を「非自殺的な自傷行為」と言います。
その方法としては、リストカット、壁に頭を打ち付ける、ライターで肌を炙るといったものが多いです。
中にはセックスによって、それを行う人もいます。
自傷行為としてのセックス
自分を傷つけるためのセックスを「Sex as Self-Injury(SASI)」といいます。「自傷行為としてのセックス」という意味です。
スウェーデンのリンショーピング大学のセシリア・フレドランド博士らが、自傷行為としてのセックスについて調べた研究があります。
実際に自分を傷つける目的のセックスをしたことがある199名から聞き取りを行い、それがどのような形で行われ、その背景にはどういった動機があるのかを調べたものです。
対象者の大半は女性で、年齢は15〜64歳(平均年齢 27.9歳)でした。大半が、行為の開始時期を思春期(12〜19歳)と回答しています。
行為の特徴
多くの人の自傷行為としてのセックスには、以下の3つの共通する特徴がありました。
1. 身体的な傷をつける行為
暴力的・痛みを伴う行為です。具体的には首を絞められる、殴られる、避妊や感染予防をしないなどです。そのまま監禁されるかもしれない危険な相手と行為をすることも含まれます。これらはBDSM(同意のもとで支配・拘束・痛みなどを楽しみ性的興奮を得る嗜好)とは異なり「自分には傷つけられる価値しかない」と確認するために行われます。
2. 心理的に傷つける
自分の意思に反したり、尊厳を傷つける行為です。嫌いな相手としたり、性欲がわかないときにします。同性が好きな人があえて異性とすることもあります。相手が自分の欲望と合わないほど、また嫌悪感が強いほど「より強い自傷」として機能するのです。
3. 自分からその行為に入る
相手から誘われて応じるという形よりも、自分からその行為に入っていったという人が多いです。出会い系やバーなどで最初に見つかった相手と感情を持たずに性行為に及んだりするということです。一時的ではあれ「自分で選んだ、自分でコントロールしている」という感覚を得られるからです。
体験者の動機
多くの人が語った、自傷行為としてのセックスをする動機は、次の3つです。
1. 感情をコントロールするため
最も中心的な動機は感情のコントロールです。9割以上の人が不安やイライラなどの苦痛を和らげるためと答えています。身体的な痛みによって、心理的な苦痛を一時的に消しているのです。切る・焼くなどの代替として用いられることもあります。
2. 承認や確認のため
承認や確認を得るという動機もあります。これには相反する2つの方向があります。一つは愛されたい、自分には価値があると感じたいという肯定的な確認です。もう一つは自分には価値がない、汚れている、粗末に扱われて当然という認識を裏づける否定的な確認です。他者からの暴力的・屈辱的な扱いによって確認するのです。
3. 悪循環から抜け出せなくなっている
悪循環から抜け出せなくなっている人も多いです。自傷行為としてのセックスによって、一時的には不安や苦痛を軽減できますが、その後に恥、罪悪感、自己嫌悪が強まります。そのせいで再びセックスで解消しようとしてしまう悪循環から抜け出せなくなっている人も多くいました。
どんな人がしやすいのか?
自傷行為としてのセックスをしやすい人には、次のような特徴があります。
1. 不安・抑うつ・自己嫌悪が強い人
最も大きな要因は精神的苦痛です。研究では参加者の多くが不安、抑うつ、自己嫌悪、恥、空虚感などの不調を性交の理由として挙げています。
2. 過去に性的虐待・性暴力を経験した人
参加者の約半数は過去の性的虐待を経験していました。虐待後に「自分の身体は汚れた」「自分には価値がない」と感じ、それを確認するために被虐的な性行為に身を投じるのです。
3. 見捨てられ不安が強い人
見捨てられ不安が強い人も自傷行為としてのセックスをしやすいです。見捨てられ不安とは、相手が離れられることや、愛されなくなることへの強い恐れです。性的に求められることで「自分は捨てられるほど無価値ではない」という一時的な安心感を得られます。
後悔や罪悪感により行為がエスカレート
非自殺的な自傷行為としてセックスを繰り返す女性は、その行為の最中だけは不安やつらさが和らぐこともあります。
性的に求められたり、身体的な痛みを感じたりすることで、精神的苦痛から一時的に意識がそれるからです。
しかし、行為が終わると、強い後悔や罪悪感、恥の感覚が押し寄せます。
そして「またやってししまった」「自分は大切にされる価値がない」と感じ、自己嫌悪がさらに強まるのです。
その苦痛から逃れるために再び同じ行為をし、より強い刺激や深い傷を求めるようになることがあります。
最初は一時的に気持ちを落ち着かせるためだった行為が、次第に危険な相手を選ぶ、重症につながる暴力的な行為を受け入れるなど、より深刻化していくのです。
このように、安堵、後悔、自己嫌悪、再び行為に向かう、という悪循環が生まれると自分の意思だけでは止めにくくなります。
また、辛さを紛らわせるために、セックスだけでなくアルコールや薬物に頼ってしまうケースもあります。
誰にも相談できない
非自殺的な自傷行為を繰り返すことで、より強い刺激を求めるようになった女性は誰にも相談できないという人が多いです。羞恥心や罪悪感のせいで他人に話すことができないのです。
そして、余計に行為がエスカレートするという負のループに陥ります。
もし、あなたがいまこのような状態に陥っているのであれば、信頼できる人か知識のあるカウンセラーに相談することをおすすめします。
今の状態が決して恥ずかしいことではなく、同じ状況になれば誰でも同じ行動をする可能性があるということを知るだけでも、抜け出すきっかけになります。
- Fredlund, C., Wadsby, M., & Jonsson, L. S. (2019).Motives and manifestations of sex as self-injury.


