「彼氏は優しいけど、なんだか思いやりがない気がする」そんなふうに感じたことはないでしょうか?
デートのときは荷物を持ってくれるし、困ったときには手伝ってくれるけれど、気持ちに深く寄り添ってくれない。
あるいは、落ち込んでいるときに「大丈夫?」と声をかけてくれるけれど、本当に理解しようとしているのか分からない。
このように優しいけれど思いやりがなく、気持ちに寄り添ってくれないように見える彼氏は性格が悪いわけではありません。
あなたに共感すると疲れるという認識か、回避型の愛着スタイルを持っているのです。
共感することの認知的コスト
心理学の実験によると、共感することには意外なほど大きな「認知的コスト」がかかることが分かっています。
認知的コストとは、ある行動や思考をする際に必要となる脳の労力のことです。
人が何かを考えたり、判断したりするときには脳がエネルギーを消費します。
特に、新しい情報を処理したり、他人の気持ちを理解しようとしたりする場合には多くの認知的コストがかかるのです。
つまり、人の気持ちに寄り添い、その感情を理解するには頭を使うための労力が必要なのです。
人間は共感が嫌い
ペンシルバニア州立大学のダリル・キャメロン博士らが行った「共感選択課題(Empathy Selection Task)」という実験があります。
次々と画面に表示される人物を見て、次の2つのうちどちらの行動を取るか選択させるというものです。
- 共感:人物の気持ちを想像し、その感情について説明
- 客観:人物の外見的な特徴について説明
実験の結果、多くの被験者は「共感」を選ぶことを避け、「客観」を選択する傾向があることが分かりました。
これは共感をすることが精神的に負担がかかる(認知的コストが高い)と感じられたためです。
このタスクは繰り返し何度も行われたわけですが、試行回数が増えるにつれ共感を選ぶ割合は減少しました。
これは脳に疲労が蓄積し、ますます共感に対する負担を感じやすくなったからです。
彼氏が優しいのに思いやりがない理由
以上の研究を踏まえると、あなたの彼氏が優しい対応をするけれど、思いやりがあるようには見えない理由が分かると思います。
彼氏は意識か無意識かに関わらず、あなたに共感することの精神的な負担を強く感じているのです。
そうなっている原因の一つとして、彼氏の心のキャパシティの問題があります。疲れていたりストレスが溜まっているせいで、他人を思いやるほどの余裕がないということです。
そのため、荷物を持つなどの認知リソースを消耗しない優しさは見せますが、気持ちに寄り添うような認知リソースを消耗する思いやりは見せないのです。
あなたの喋り方に原因がある
それともう一つ、こちらがかなり重要な原因ですが、あなた自身が面倒な反応をしてしまっていることが挙げられます。
たとえばショックなことがあったときに、彼氏が「大丈夫?」と声を掛けてくれたからと、一方的にグダグダとネガティブな感情を込めた話し方をしていないでしょうか?
このようなことを繰り返すと彼氏の中に「思いやりを見せると愚痴をひたすら聞かされて疲れるだけ」という認識が出来上がってしまいます。
すると、あなたが落ち込んだ雰囲気を見せただけで心の境界線をつくり、認知的な負担を避けるために表面的な対応だけをしてしまうのです。
このような態度があなたから見ると、思いやりが見えないように見えるということです。
彼氏に思いやりのある対応をしてもらうには?
彼氏に思いやりのある対応をしてもらうには、どうすれば良いのでしょうか?
実は今回の研究では共感することが「簡単で効果的」だと感じれば、人はより共感を選ぶようになることも分かっています。
つまり「彼女の気持ちを理解することで、自分にも良い影響がある」と思わせることが必要なのです。
たとえば、「話を聞いてくれて嬉しい」「共感してくれて助かった」と伝えることで、彼も気持ちよくなり、共感スイッチを少しずつ刺激することができます。
思いやりを引き出すために、「共感しやすい環境」を作ることが大切なのです。まずは自分が鬱陶しい態度を取っていないか振り返ってみましょう。
愛着スタイルの問題
ここまでは、誰にでも当てはまる可能性のあるお話でした。
実は彼氏が優しいのに思いやりがなく見えるとき、「愛着スタイル」と呼ばれる人との関わり方のパターンが影響していることもあります。
愛着スタイルとは、子ども時代に親などの身近な大人との関係を通して身につけた「人とのつながり方のクセ」のようなものです。大きく3つに分けられます。
- 安定型:人との関係に安心感があり、素直に甘えたり助けを求められる。
- 回避型:人に頼ることを避け、自分一人でなんとかしようとする。
- 不安型:見捨てられる不安が強く、人との距離感に一喜一憂しやすい。
このスタイルは、恋愛関係にも大きく影響します。
愛着スタイルと共感力の関係
愛着スタイルが共感にどんな影響を与えるのか調べた、アウストラル大学のフロレンシア・サンクティス博士らの研究があります。
この研究では、過去に行われた愛着と共感力に関する研究を統合して再分析しています。これはメタ・アナリシスと呼ばれる信頼性の高い分析手法です。
安定型は共感力が高い
この分析の結果、まず安定型の愛着スタイルを持つ人は共感力が高い傾向にあることが分かりました。
安定型の人は自分の感情を素直に感じたり、表現したりすることに抵抗がありません。そして、自分の気持ちに敏感でいられるぶん、他人の気持ちにも自然と注意を向けることができるようになります。
さらに、自分が誰かに共感してもらえた経験が豊富にあるため、相手のつらさや不安を想像し、それに寄り添う力も育ちやすくなるのです。このため共感力が高い傾向にあるのです。
回避型は共感力が低い
回避型の人は共感力が低く、他人の感情にあまり反応しない傾向がありました。
回避型の人は、幼少期に自分の感情や欲求を親や養育者にうまく受け止めてもらえなかった経験をしていることが多いです。
そうした経験をくり返すしていると「感情を感じることそのものを避けよう」とする傾向が強まります。
その結果、他人の感情にもあまり関心を向けなくなったり、感情をうまく読み取れなくなったりします。
また、他人のつらさや悲しみに直面すると、自分が巻き込まれるのを恐れて無意識に距離を取ろうとします。
このようにして、他人の感情に反応しにくく、共感力が育ちにくい状態ができあがってしまうのです。
「彼氏が寄り添ってくれない」という悩みを相談に来る人の話を聞いていると、彼氏がこのパターンであることが多いです。
不安型の共感力は一定していない
不安型については結果がばらばらで、高い共感を示す人もいれば、逆に低い人もいて、はっきりとした傾向は見られませんでした。
不安型の共感力が一貫していない理由は、心の中に「他人に好かれたい気持ち」と「不安で自分のことで精一杯な気持ち」が同時にあるからです。
あるときは、相手に受け入れてもらいたくて一生懸命に寄り添おうとしますが、別のときには不安やストレスが強くなってしまい、相手の気持ちにまで気を配れなくなります。
そのため、共感できるときとできないときの差が大きくなってしまうのです。
寄り添ってくれないことを責めずに、その裏にあるものに目を向ける
人は誰でも、過去の経験に影響を受けながら人との関係を築いています。
寄り添ってくれない彼氏の態度も、その奥には本人さえ気づいていない「心の守り方」があるのかもしれません。
愛着スタイルはその人の根本的な性格ではなく、これまでにどんなふうに人と関わってきたかによって形づくられるものです。
実際に、心理学の研究では、安定したパートナーシップや信頼できる人間関係が、回避型や不安型の愛着スタイルを和らげることが分かっています。
たとえば、自分の気持ちを受け止めてもらう経験を重ねることで「心がつながることは危険なことではないのだ」と少しずつ思えるようになり、他人への共感も育ちやすくなるのです。
彼氏がすぐに変わることは難しいかもしれませんが、理解しようとする姿勢は関係に良い影響を与えます。寄り添ってほしいのなら、まずあなたが寄り添いましょう。
- Cameron, C. D., Hutcherson, C. A., et al. (2019).Empathy is hard work: People choose to avoid empathy because of its cognitive costs.
- Sanctis, F., & Mesurado, B. (2022).Attachment Style and Empathy in Late children, Adolescents, and Adults: Meta-analytic Review.


