産後のレスは一生。回復にはダイアディック・コーピングが大事

産後のレスを放置すると、一生そのままになってしまうことがあります。

特に、夫が子育てに積極的で、妻が満足している関係では危険です。なぜなら子育てに積極的な男性ほど性欲が低下しやすいからです。

そして、そんな夫に妻は満足しており「絆が強まっているのだからやがてはレスも解消するだろう」という誤った期待を持ってしまうのです。そして何の対策もせずに気づいたときには手遅れということになります。

また、妻側も出産後の心身の変化によりストレスが増え、夫の態度に敏感になりやすく、そこで傷つくようなことをされると、夫としたい気持ちが急激に下がり、一生そのままということもあります。

ストレスは本能が発する「生存の危機」というサインです。このときパートナーに悪い対応をされると、「この人と一緒では生き延びられないし、子孫を繁栄させられる可能性も低い(=性的パートナーとして不適格)」と判断てしまいます。

特に産後は強いストレスがかかるため、その判断はより深刻になり、一度悪い印象が残ると簡単には消えません。

これらの要因が産後のレスが長引きやすい理由です。

今回は産後のレスを放置すると一生そのままになってしまう仕組みと、夫婦間の性欲を高めるために意識しておくべき「ダイアディック・コーピング」について説明します。

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家庭的な夫なら愛情によるセックスに移行できるという勘違い

他の記事でもお伝えしていますが、同じ相手と性的興奮によってセックスが出来るのはおよそ半年から3年程度です。

それを超えてもセックスをし続けるには、愛情によるセックスに移行しなければなりません。(※1)

産後レスになって相談に来る女性の話を聞いていると「夫は家事もするし、子育ても積極的にしている」と満足していることが多いです。

つまり、自分たちは愛情によるセックスに移行できるはずだと思っているのです。それなのになぜレスになっているのかと疑問に思っているのです。

しかし、実は子供の面倒を良く見る男性ほど、産後レスになりやすいのです。

(※1 移行できても産後レスが解消しない人もいます)

子供の匂いを嗅ぐと男性ホルモンが減る

性欲を高めるとされるのは、テストステロンという男性ホルモンです。

実は、子供の頭皮の匂いを嗅ぐと、男性はテストステロン値が低下し、女性は上昇するという研究結果があります。

なぜならテストステロンは性欲だけではなく、攻撃性にも関連するホルモンだからです。

男性はもともと攻撃的ですから、子供の泣き声やワガママにイラついてしてしまう可能性があります。

そうならないために、テストステロン値を下げるメカニズムが働いていると考えられます。

(女性の場合は攻撃性を高めることで、外敵から赤ちゃんを守れるようにするため、テストステロン値が上昇すると考えられます)

別の研究では、子供と一緒に寝ている父親ほど、テストステロン値が低いことも分かっていますが、これにも子供の匂いが関係していると思われます。

つまり、子供と一緒にいる時間の長い夫ほど、性欲が低下しやすいのです。

妻の妊娠中から夫のホルモンも変化している

実はこのようなホルモンの変化は、妊娠中から発生しています。妻が妊娠すると夫のホルモンも変化するのです。親になることへの準備が始まっていると考えられます。

そして、子育てに積極的な男性ほど、このときのテストステロン値の低下の度合いが大きいということが、南カリフォルニア大学などの研究によって判明しています。

第一子が生まれる父親の唾液サンプルからテストステロン値を測定したところ、大きく低下している父親ほどその後の子供の面倒見が良かったのです。

そして、そのような夫の態度に対し、妻の満足度が高くなることも分かっています。

これは一見すると良いことのように思えます。しかし、ここには産後のレスを一生モノにしてしまうリスクが2つ孕んでいます。

一つはテストステロンの低下が、性欲の低下につながるということです。

テストステロンは性欲に関連するホルモンですから、それが減れば興奮によるセックスをしたがらなくなることは理解しやすいと思います。

円満であるがゆえに産後のレスを放置してしまうリスク

もう一つのリスクは家庭が円満であるがゆえに、産後のレスを放置してしまうということです。

子育てを積極的に行うということは、妻も含めた家族を大切にする意志の表れともいえます。

なのでテストステロンが低下しても、絆は強まり愛情によるセックスへと移行できると期待するかもしれません。

というよりも、心のどこかでそのような期待をしているため、産後にレスになってもそれほど焦ることもなく、対応もしないということが少なくありません。

確かに夫が子育てへに積極的に関与することを含め、家庭に労力を投資することで夫婦間の絆は強まります。

しかし、それと愛情によるセックスは微妙に違うのです。愛情によるセックスというのは、結びつくことそのものに喜びを見出せるかどうかということです。

逆にそれが見出せなければ、結婚生活が円満であってもレス状態が一生続く可能性は高いです。

改善に向かっていないのに、「このままいけば大丈夫」と勘違いしてしまうのは大きなリスクです。

産後レスを一生モノにしないための対策

幸せな家庭の中でもふと瞬間的に生じる「あれ…レス状態が一生続くかも」という直感は当たることが多いです。

一生レスでないにしても、動かなければ永遠にそのままです。夫婦の関係が固定化した後で改善するのは難しいものです。

タイミングを見て働きかけたほうが良いでしょう。

では何をすれば良いの?ということですが、対策すべきことは個々に違いますから、コレさえやれば大丈夫と言うことはできません。

ただ、ひとつだけ意識してほしいのはストレスへの向き合い方です。

産後のストレス対応が一生のレスにつながる理由

赤ちゃん中心の生活になることで、生活リズムが変化し睡眠不足や疲労が蓄積します。それらのストレスが原因となり、性欲や性的満足度が低下することもあります。

他がうまくいっていても、ストレス時の対応一つで「この人とは一生セックスしたくない」と思ってしまうことがあるのです。

なぜならストレスは本能からの「生存の危機」というメッセージだからです。このとき、どう対応してもらえたかは、パートナーとして望ましいかどうかの評価に大きく影響するのです。

産後のレスが一生モノになってしまいがちなのも、最も強いストレスが掛かりやすい時期(=生存できるかできないかを本能が真剣に考える時期)だからです。

良い対応をすれば望ましいパートナーと評価され、さらに子孫を残したい(=セックスしたい)という気持ちも持たれやすくなるのです。逆に悪い対応をすれば低評価され性交したい気持ちは持たれません。

産後のストレス時の対応が、夫婦間の性欲や性的満足度を左右することは複数の研究からも分かっています。

そこで、産後に性行為を再開したいと考えている夫婦に、ぜひ意識してほしいのが肯定的な「ダイアディック・コーピング」です。

ダイアディック・コーピングとは

ダイアディック・コーピング(dyadic coping)とは、夫婦や恋人同士がともに行うストレスへの対処法です。dyadicは「2個1組」という意味です。

一般的な「ストレス・コーピング」では個人としてどう処理するかと考えますが、ダイアディック・コーピングはその視点を「二人のやり取り」に広げて考えます。

ダイアディック・コーピングには、肯定的なものと否定的なものがあります。

肯定的なものとは、二人が力を合わせて問題解決や感情の支え合うものです。

たとえば、夜中の授乳やおむつ替えを交代制にしたり、「今日は自分がやるから休んで」と相手に休息を与えることなどが当てはまります。

否定的なダイアディック・コーピングというものもあります。これは相手のストレスに対して皮肉を言ったり、無視をしたりすることです。

「波風を立てないように関わらないでおこう」と表面的な対応しかしないこともこちらに含まれます。

夫婦間の性欲と性的満足度の変化の記録

ダイアディック・コーピングが夫婦間の性欲にどう影響するのか確かめた、カナダのダルハウジー大学などのチームによる研究があります。

この研究では、初めての子どもを出産してから3~4ヵ月の間にある120組のカップルに、3週間に渡って日々の記録を取ってもらいました。

記録した内容は、その日のストレス対処の仕方、自分や相手の行動、さらに性欲や性生活満足度、関係満足度などです。

特に注目したのが、さきほど説明した「ダイアディック・コーピング」です。

ストレスが発生したときに、夫婦がともに支えながら前向きに対処したのか、それとも無視したり否定的な態度で対処したのかということを詳しく分析しました。

肯定的なダイアディック・コーピングが性欲を高める

分析の結果、肯定的なダイアディック・コーピングを多く行った日は、男女ともに性欲が高まり、性生活や関係への満足度も上がることがわかりました。

つまり、一緒にストレスに立ち向かう姿勢が、夫婦双方の心理的・身体的な親密さを育んでいたのです。

特に女性がそのような態度を見せた日には、男性の性欲にプラスの影響が出やすいことが分かりました。

一方で、否定的なダイアディック・コーピングが目立った日には満足度が下がる傾向が確認されました。

特に男性がそうした行動を取った日は、女性の性欲や関係満足度を大きく下げることが明らかになりました。

また、女性が否定的なダイアディック・コーピングを減らすと、自分自身の性欲や性生活満足度が高まるだけでなく、男性の関係満足度も高くなるという結果も出ています。

親密さを求める気持ちがが性欲につながる

ダイアディック・コーピングが産後の性欲や満足度に影響を与える理由は、夫婦間での「ストレスの扱い方」がそのまま心理的な距離感や安心感につながるからです。

まず、肯定的なダイアディック・コーピングが多いと、相手に理解されている、支えられているという感覚が強まります。

このような安心感を得ると心の余裕が生まれ、親密さを求める気持ちが高まり、性欲も高まるのです。

反対に、否定的なダイアディック・コーピングが増えると、不満が募り、相手と親密になりたい気持ちが自然と弱まります。そして性欲や関係満足度が低下するのです。

妻がしたくなくて産後レスになったときも一生そのまま

ここまで産後のレスの原因として、主に夫側の要因に添って説明してきました。

しかし、妻側の要因によって産後レスになることもあり、それを放置すれば一生そのままということもあります。

特に産後の精神的に不安定な時期に、夫から大事にされなかった体験は大きな傷や恨みとして残り、それがレスの要因となることもあります。

実は今回の研究では、女性ほどダイアディック・コーピングの影響を受けやすいことも分かっています。

この理由は、出産後の女性が心身ともに大きな変化を経験しているためです。

出産後はホルモンバランスの急激な変化に加え、授乳や睡眠不足による身体的疲労、育児や家事の負担が重なります。

また、自分の体型や役割の変化から自己イメージが揺らぎ、不安や孤独感を抱きやすい時期でもあります。

こうした状況にあるため、夫の態度に敏感になります。

ちょっとした労いの言葉や些細なサポートであっても強い安心感につながり、それが親密さへの欲求や性欲につながりやすいのです。

逆に皮肉や無関心といった否定的な対応をされると、失望感や疎外感が大きくなりやすいともいえます。

妻側の拒否による産後レスであったとしても、ダイアディック・コーピングが大切なのです。

参考文献
  • Saxbe, D. E., Edelstein, R. S., et al. (2017).Fathers’ decline in testosterone and synchrony with partner testosterone during pregnancy predicts greater postpartum relationship investment.
  • Schwenck, G. C., Dawson, S. J., et al. (2022).Daily dyadic coping: Associations with postpartum sexual desire and sexual and relationship satisfaction.