大人になっても母親の言動に対してイライラすることは、決して珍しいことではありません。
その原因の一つとして「発達的分裂」が関係していることが、心理学の研究によって明らかになっています。
発達的分裂とは、立場や人生のどの段階にいるかによって異なる価値観の差です。これが緊張や対立の原因となるのです。
この概念を頭に入れておくと、母親にイライラしたときでも心を落ち着かせやすくなります。
親と成人した子供の間で生じるイライラ
親子関係について調べた、ミシガン大学やパデュー大学の研究者による調査があります。
この調査では成人した子供とその親を対象に、親子間で感じる緊張の強度や種類、それが関係の質に与える影響について分析が行われました。
調査対象は22歳から49歳の成人した子供とその親で、合計158家族(474名)が参加しました。
各参加者には親子関係において、どのような問題が緊張を引き起こしているかを尋ね、さらにそれが親子の感情的なつながり(連帯感)や、アンビバレンス(相反する感情)にどのような影響を及ぼしているのかが評価されました。
調査の結果、特に母親との関係において強い緊張が生じやすいことが明らかになりました。
母親は子供との関係において父親よりも感情的に関与する傾向があり、子供に対してさまざまな期待を抱いています。
これが、子供側にとっては成人後もプレッシャーやストレスとなり、結果としてイライラを引き起こす原因となっていたのです。
特に以下の点について母親にイライラを感じやすいことが分かっています。
1. 求めていないアドバイス
最も多くの人が母親に対してイライラを感じているのは「求めていないアドバイス」でした。
研究では母親は子供の人生に対して積極的に関与しようとするため、子供が望んでいないアドバイスをしやすいことが指摘されました。
仕事の選択や恋愛、結婚、子育てに関する助言がその典型です。
母親は善意でアドバイスをしている場合が多いですが、子供にとっては「押しつけがましい」と感じられ、関係がギクシャクするのです。
2. 母親と子供の性格の違い
また、「性格の違い」も母親と子供の間で大きな緊張を引き起こす要因の一つです。
研究では母親と子供の間には、価値観や考え方のズレがあることが示されています。
たとえば、母親が伝統的な価値観を重視する一方で、子供が現代的なライフスタイルを志向している場合、意見の衝突が生じやすくなります。
このような違いが積み重なると、母親の言動が「理解がない」「時代遅れ」と感じられ、子供はフラストレーションを募らせるのです。
3. 連絡の頻度の不満
「連絡の頻度」に関する不満も大きな要因となっています。
母親は子供とのつながりを大切にしようとするあまり、「もっと連絡してほしい」「会いに来てほしい」といった要求をすることがあります。
しかし、子供が仕事や家庭の事情で忙しい場合、こうした期待は負担となりイライラの原因になります。
子供が成長し、独立心が強まるにつれて、このような関係性の緊張がより顕著になることが研究によって明らかになっています。
4. 母親が過去の出来事を引き合いに出すこと
母親が過去の出来事を引き合いに出して不満を示すことも、イライラの大きな原因となります。
「昔はあなたはもっと優しかったのに」「あの時こうしていればよかったのに」といった発言が、子供にとっては過去を蒸し返されるように感じられ不快感を覚えさせるのです。
特に母親が過去の出来事にこだわる性格傾向を持っていると、現在の関係にも悪影響を及ぼしやすくなります。
母親との緊張が関係の質に与える影響
研究では母親との関係において緊張が強いほど、連帯感が低下し、アンビバレンスが高まることが明らかになりました。
連帯感とは親子の間にある愛情や信頼の度合いを示す指標であり、これが低下すると親子関係が疎遠になったり、関係が悪化しやすくなります。
また、アンビバレンスとは一つの関係の中に「愛情」と「苛立ち」の両方の感情が混在している状態を指します。
母親に対して「大切な存在である」と思う一方で、「一緒にいるとストレスを感じる」といった感情が共存することです。
特に「求めていないアドバイス」や「連絡の頻度」に関する不満が大きいケースでは、親子の関係全体が悪化しやすいことが示されています。
逆に、それぞれの仕事や健康といった個人的な問題に起因する緊張は、関係の質にそれほど大きな影響を与えないことも分かりました。
これは関係性に関する緊張の方が、親子の基本的な相互理解に影響を及ぼしやすいためだと考えられます。
イライラの根本原因は「発達的分裂」である
なぜ母親と子供の間には、双方がイライラするような言動が生じるのでしょうか?
その根本的な原因として「発達的分裂(developmental schism)」が挙げられます。
発達的分裂とは
発達的分裂とは、親と子供が異なる発達段階にあることによって生じる価値観や期待のズレです。
この概念は親と子供が関係性に対して持つ投資度や優先順位の違いによって、緊張や対立が発生することを説明するために用いられるものです。
親は子供に対して深い愛情と関心を持ち続け、成長してもなお、支えたり助言をしたりすることを望みます。
一方で、成人した子供は自立を求め、自分の生活に干渉されることを煩わしく感じるようになります。
このように、親が関係を強化しようとするのに対し、子供は距離を取りたがるという相反する動きが発達的分裂の特徴です。
ライフステージの違いによって強まる
発達的分裂は単なる価値観の違いだけでなく、親子それぞれのライフステージの違いによっても強まります。
たとえば、子供が結婚したり仕事で忙しくなったりすることで、親との関係の優先度が下がることがあります。
しかし、親は年齢を重ねるにつれて、子供との関係をより大切にしたいと感じるため、ここでも意識のズレが生じます。
このような発達的分裂が進むことで、親子の間には緊張が生じやすくなります。
特に、母親と娘の関係では母親が娘に対して強い関心を持ち、助言や干渉をすることが多いため、娘がそれに対してストレスを感じるケースが多く見られます。
母親に対するイライラを減らす方法
親子関係の中で発達的分裂をうまく乗り越えるためには、親の愛情を拒絶するのではなく、適度に受け入れながらバランスを取る努力をすることが望ましいです。
母親にイライラしたときでも感情的にならず、まずは共感と感謝を示したうえで、自分の意見を主張することが大切です。
また、定期的に気に掛けている態度を見せることで、母親の「不安」や「寂しさ」を減らし、結果的に干渉を減らすことができます。
世代やライフステージが違う以上、価値観や生活スタイルにズレが生じ、イライラするのは自然なことです。
それを意識しておくだけでも、ストレスを減らすことができるでしょう。
- Birditt, K. S., Miller, L. M., et al. (2009).Tensions in the parent and adult child relationship: Links to solidarity and ambivalence.


