「親に感謝してるけど嫌い」という自分の感情を心配している人もいますが、これは普通の感覚です。
感謝と好き嫌いの感情は別物ですし、親子関係というのは、プラスの感情とマイナスの感情が併存する関係になりやすいからです。
しかし、あまりに感情の振れ幅が大きい場合には、ストレスや精神的な疲弊につながりますから、対処しなければなりません。
今回は「親に感謝してるけど嫌い」という感情が生じる理由と、そのストレスへの対処法を説明します。
「感謝している」と「好き・嫌い」は別の感情
まず、知っておいてほしいことは、「感謝」と「好き嫌い」は別物ということです。
感謝は、「してもらったこと」に対する感情です。
たとえば、生活に必要なものを与えてくれた、学費を払ってくれた、病気のときに看病してくれたという事実に対して、「ありがたかった」と感謝することは自然です。
これに対し、好き嫌いは「その人と関わったとき、自分がどう感じるか」という感情です。
親に進路を勝手に決められた、意見を認めてもらえなかった、価値観を認めてもらえなかったという経験が積み重なると、親に対して嫌悪感や拒否感が生まれることがあります。
このように、「感謝」は親がしてくれたことへの反応で、「嫌い」は親との関係で自分が傷ついたことへの反応なのです。
つまり、「育ててもらったことに感謝している」と「親のことが嫌い」という感情は、同時に存在してもおかしくないということです。
どちらか一方だけが本物なのではなく、どちらもあなたの中にある本当の感情です。
親子関係は両価性(アンビバレンス)が起こりやすい
同じ対象に対して、肯定的な感情と否定的な感情を同時に抱くことを、心理学で「両価性(アンビバレンス)」といいます。「愛憎併存」と呼んだりもします。
親に対して「感謝」と「嫌い」という感情を持つのは、両価性です。
もっといえば、「好き」と「嫌い」という感情を、同時に持つのもそうです。
昨日は好きだったのに、今日は嫌いといったように、時と場合によって、親に対する気持ちが変わるという人もいます。
これは、おかしなことではありません。親子関係では両価性が発生しやすいのです。
なぜなら、親は自分にとって大きな影響を与えた存在だからです。生活を支えてくれた人であり、価値観や自己イメージに深く関わった人でもあります。
良い記憶もあれば、傷ついた記憶もあります。その両方が積み重なっているため、「好き・嫌い」と二分して整理できなくなるのです。
また、世間には「親を大切にすべき・感謝すべき」という道徳規範もあります。その一方で、子供には「自分の人生を生きたい」「干渉されたくない」という気持ちがあります。
このように、感謝や義務感と、自立したい気持ちがぶつかるため、親子間の両価性は強くなりやすいのです。
放置しておくとストレスが溜まる
親に対する両価性は、機能不全家族で育った人でなくとも、多くの人が持っているものです。
しかし、その感覚が強い場合には、ストレスを感じやすくなります。
「感謝」と「嫌い」の落差が激しいと、親との関係が安心や支えになる一方で、負担や葛藤の原因にもなるため、気持ちが安定せず心理的に消耗しやすいからです。
特に影響が大きいとされるのが、母親に対してこのような感情を持ったときです。
ミシガン大学のローレン・タイ博士らが、255名を対象に行った調査では、子供は母親に対して両価性を持ちやすいことが分かっています。
これは母親とのほうが距離が近いため、「支えてくれる存在」であると同時に、「干渉する・衝突しやすい存在」にもなりやすいからです。
そして、母親への両価性が強いと、抑うつ傾向を持ちやすいことも分かりました。
父親では、このような傾向は見られませんでした。父親の場合、合わないと思ったらコミュニケーションを減らすという対処をとりやすいですが、母親はそうもいかないことが要因と考えられます。
その他の研究でも、親への両価性が、「心理的ウェルビーイング」を低下させることが示されています。
親への両価性は年齢とともに弱まる
親に対する両価性は、年齢が上がるとともに弱まっていくことが分かっています。
子供が自立し、親子関係のバランスが変わるためです。これは経済的な面だけでなく、精神的な面においてもです。
親子関係の外に自分の役割や居場所を持つようになり、親への依存が減るのです。
逆にいえば、大人になった後も「親に感謝しているけれど嫌い」という感情を強く、持っているとしたら、精神的な依存をしている可能性が高いということです。
それは「親の性格の悪さを直してほしい」という希望かもしれませんし、「子供時代の自分に対する言動を謝罪してほしい」という希望かもしれません。
どこかで、親が変わってくれることを期待しているのです。
「親に感謝しているけれど嫌い」のストレスに対処する
前述のとおり、「親に感謝しているけれど嫌い」という状況は、ストレスや精神的疲弊を生みます。
では、その状態にどう対処すれば良いのでしょうか?
ポイントは、外部ネットワークを持つこと、未完了の課題を整理することです。
1. 外部ネットワークを持つ
アムステルダム大学のルーベン・ヴァン・ガーレン教授らの調査によると、成人後も社会的に孤立している人ほど、両価性の悪影響が出やすいことが分かっています。
親子関係にしか逃げ場がないため、イライラすることがあっても、心理的に距離を取りにくくなるからです。
そのため、外部に自分を支えてくれるネットワークを持つことが必要です。
友達をたくさん作れ、ということではありません。職場の人、趣味の仲間、オンライン上のコミュニティなど、自分の感情を親子関係の外に逃がせる場所を持つことが重要なのです。
それによって、「親は私を理解してくれるはず、感情を尊重してくれるはず」という期待を減らすことができますから、ストレスも生じにくくなります。
2. 未完了の課題を整理する
もう一つ大事なのは、親との間に残っている「未完了の課題」を整理することです。
ここでいう未完了の課題とは、まだ自分の中で整理しきれていない、過去の親子関係で置き去りになった感情です。
たとえば、「本当は謝ってほしかった」「なぜあんな言い方をされたのか、今も納得できない」といった感情が該当します。
こうした気持ちが残っていると、今の親の何気ない一言にも、過去の傷が反応して、怒りやストレスが強くなります。
こうした感情に対処するには、必ずしも親と話し合う必要はありません。
自分自身で以下のことを書き出して、整理すれば良いのです。
- 親との関係で今も引っかかっている出来事
- その出来事に対して、当時の自分が何を感じていたのか
- そのうえで、本当はどうしてほしかったのか
- 今も親に期待していること
- もう親に期待しないことを決める(ex「謝罪を待ち続けない」)
- これからの関わり方(ex「会うのは短時間にする」)
ポイントは、期待の置き場所を、親ではなく自分に変えることです。
親が謝らなくても、自分の中で「私はこういうことに傷ついていた」「もう同じ期待をしなくていい」と認められれば、少しずつ未完了の課題は終わりに近づきます。
この2つが、「親に感謝しているけれど嫌い」という苦しさを和らげる、現実的な対処法になります。
- Tighe, L. A., Birditt, K. S., & Antonucci, T. C. (2016).Intergenerational ambivalence in adolescence and early adulthood: Implications for depressive symptoms over time.
- Van Gaalen, R. I., Dykstra, P. A., & Komter, A. E. (2010).Where is the exit? Intergenerational ambivalence and relationship quality in high contact ties.


