「恵まれた環境にいるのに、なぜか心が満たされない」。
そんな感覚に心当たりがある人も、少なくないでしょう。
経済的にも恵まれているのに何か物足りない、嫌なことがあるわけでもないのに虚しい気持ちになる、自分の未来への希望がどこか曖昧で不安が募る──
実はこれらの理由を探ると、意外にも現代的なライフスタイルや、心理的な習慣が影響していることがあります。
そこで今回は、自由時間の過ごし方やSNSの影響、希望の種類など、心の満足感にまつわる様々な要因について解説します。
自由時間は多くても少なくても満たされない
あなたが恵まれている環境にいるにも関わらず、心が満たされない原因の一つは、自由時間の長さです。
2万人以上のデータから、自由時間の長さが主観的な幸福にどのような影響を与えるか調べた、ペンシルバニア大学のマリッサ・シャリフ博士らの調査があります。
この調査によると、1日の自由時間が2~5時間のときに、最も幸福感が高まることが分かりました。
そして、自由時間が少なすぎると幸福感が低下することも分かりました。
忙しいことによるストレスと、それをリフレッシュするための時間が取れないことが、心理的な疲労感や消耗につながることが原因と考えられます。
自由時間が多すぎることの弊害
また、自由時間が多すぎても、幸福感が低下することが分かりました。5時間を超えると、幸福感が減少し始めるのです。
その一因として「非生産性」の感覚が挙げられます。
人は生産的な活動を通じて、自己効力感や目的意識を得る傾向がありますが、自由時間が過剰になるとこれらの感覚が希薄になりやすいのです。
特に、自由時間を非生産的な活動(例: 何もしない、テレビなどの受動的な娯楽)に費やした場合、時間を無駄にしているという感覚が強まり、それが幸福感の低下を招きます。
趣味がつまらなくなる原因は「適応」
さらに、時間と自由がありすぎることは、充実感を伴う活動への「適応」を引き起こす可能性があります。
ここでいう適応とは、最初は楽しい、特別と感じていたことでも、何度も繰り返して日常の一部になることで、刺激として感じにくくなり、満足感や感動が弱まっていく現象です。
たとえば、大好きな趣味でもそれが日常化すると、新鮮さや感動を感じにくくなるため、何をしても満たされ難くなってしまうということです。
幸福感を高める「希望」には種類がある
恵まれているのに心が満たされない理由として、「希望」についても考えなければなりません。
「希望はあるよ」という人もいるかもしれませんが、その種類も大事なのです。
エラスムス・ロッテルダム大学のエマ・プリージング博士らの調査によると、具体的な計画を立て、それを実行できるという信念で構成された、「認知的な希望(cognitive hope)」を持っている人ほど、幸福感が高いことが分かっています。
目標達成に向けた意欲や積極的な行動が、自己効力感と自己成長感を高めてくれることが要因と考えられます。
未来に想像を膨らませ、きっと楽しいだろうなと思う、「感情的な希望(emotional hope)」も幸福感を高めますが、過度に楽観的な希望を持つと、その観測が外れたときに幸福感が低下することも分かっています。
SNSは気づかないうちに虚しい気持ちにさせる
自分でも気づかないうちに虚しい気持ちを増幅させ、満たされた気持ちを奪うのが、InstagramやFacebook、X(旧Twitter)などのSNSです。
ブリティッシュコロンビア大学のダーリック・ワーツ博士らが、SNSの利用が幸福感に与える影響について実験を行っています。
この実験は10日間にわたり行われ、参加者は1日ごとにランダムなタイミングで5回、SNS使用量や幸福感(ポジティブ感情、ネガティブ感情、生活満足度)について回答しました。
それらのデータを分析したところ、SNSの利用頻度が高いほどネガティブ感情が増加することが確認されました。
さらに、SNS利用中の社会的比較の頻度も、幸福感に大きな影響を及ぼしていることがわかりました。
つまり、他人の投稿を見て自分と比較する頻度が高いほど、ネガティブ感情が増加し、ポジティブ感情が減少たのです。
特に、Facebookでの社会的比較が顕著であり、これがネガティブ感情の増加や自己肯定感の低下と関連していました。
この研究以外にも、TikTokなどのショート動画を次々と見続けることが、メンタルに悪影響を与えるという研究もありますから、スマホを見過ぎている人は何らかの影響を受けていると思ったほうが良いでしょう。
SNS利用と孤独感の相互作用
このSNSにおける実験では、実際に対面しての社会的交流の影響についても、分析が行われています。
それによると、対面での交流はポジティブ感情を増加させ、ネガティブ感情を減少させることが示されました。
これに対して、SNSを通じた交流では逆の効果が見られ、対面交流とSNS交流が主観的幸福感に与える影響が対照的であることが確認されています。
また、孤独感についても調査が行われ、SNSの利用は孤独感を増加させることが確認されました。
さらに、孤独感がSNS利用を誘発するという双方向的な関係も観察されました。
つまり、孤独を感じている人がSNSを利用し、SNS利用がその孤独感をさらに強めるのです。
心が満たされない状態から抜け出す方法
恵まれた環境にいるのに、心が満たされない原因について説明してきました。もちろんこれ以外にも原因は数多くありますが…
ここまでの研究を踏まえ、どうすれば心が満たされるのか考えてみましょう。
まず、自由時間の使い方を有意義なものにすることです。
最初に紹介した研究でも、運動や趣味、他者との交流に時間を費やす場合には自由時間が多すぎることによる幸福感の低下が和らぐことが分かっています。
また、自分のためだけではなく、社会のために時間とエネルギーを使うことも有効です。人間は社会的な動物ですから、自分だけが恵まれていても心から満たされることはないのです。
「自分の活動が誰かの役に立っている」という感覚が得られることで、大きな満足感が得られます。
そして、スマホを見る時間を減らすことです。SNSを見たり、芸能人のゴシップを見ても、その瞬間に脳がほんの少しの快感を得るだけで、それ以上は何も良いことがありません。
それどころか、認知機能に悪影響を及ぼす可能性さえ指摘されています。
スマホを見る時間を普段は読まないジャンルの本を読むことに使って見ると、自分の新しい可能性に出会えるかもしれません。
くれぐれも、人生の無駄遣いをしないようにしましょう。
- Sharif, M. A., Mogilner, C., & Hershfield, H. E. (2021).Having too little or too much time is linked to lower subjective well-being.
- Pleeging, E., Burger, M., & van Exel, J. (2021)..The relations between hope and subjective well-being: A literature overview and empirical analysis.
- Wirtz, D., Tucker, A., et al. (2021).How and why social media affect subjective well-being: Multi-site use and social comparison as predictors of change across time.

