産後の「したくない」はいつまで続く?ホットフォーカスすると変わる

出産は女性の体と心に、大きな変化をもたらします。

出産前は性欲もあって「夫と結びつきたい」とも思っていたのに、出産を機に全くそういう気になれなくなったという女性もいます。

「したい」と思えないどころか「したくない」という気持ちが強いということもあります。

そして、永遠にこの感覚が変わらないのではないか?と感じている女性もいます。

そこで今回は、産後に「したくない」という気持ちがどれくらいで変わるのか?ということと、その原因、そして変わらない場合に試せるホットフォーカスという性欲を高めるテクニックを紹介します。

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3ヵ月~半年で感情と性欲が変わる人が多い

当方にも出産後の「したくない」という気持ちが変わらない、と相談に来る女性は多いです。

そのような女性の中には産後3ヵ月ほどで性欲が戻り、むしろ「したい」気持ちが強まったという人もいます。

これはこちらのアドバイスを実践していることの影響もあると思うのですが、産後から半年くらいは、ホルモンのバランスや体形が変化する時期ですから、それらの影響も大きいように思います。

つまり、産後に「したくない」という気持ちになって、何も対策を講じなかったとしても3ヵ月から半年くらいで改善する人はするということです。

しかし、中には1年以上が経過しても「したくない」気持ちのままという人もいます。

このような場合は身体的な問題がないのであれば、精神的な問題であることが多いです。

産後832人の「したくない」気持ちの原因

ダブリン大学のディアドラ・オマリー博士らが、産後の「性」について調べた研究があります。

この研究では832人の初産婦を、妊娠中および産後3、6、9、12か月の計5回のタイミングで追跡調査しています。

この研究によると産後6ヶ月時点で性行為への関心が低下している女性は46.3%いることが分かりました。そのほか、腟潤滑不足は43.0%、性交痛は37.5%の女性にみられました。

産後12か月では全体に改善傾向がありましたが、性行為への関心の低下は39.8%と依然として高い水準を維持していました。

授乳による疲労と母親役割への集中

会陰裂傷などの身体的な要因以外で、産後の性行為への関心の低下、つまり「したくない」という気持ちの原因となるものとして授乳がありました。

その理由としては、授乳が身体的疲労、睡眠不足、母親役割への集中と重なりやすく、これらが性的欲求を弱めることが考えられます。

また、授乳中のホルモン変化による性欲低下、腟乾燥による性交痛なども原因と考えられます。

身体イメージへの不満

出産による体型変化で自分の身体イメージへの不満を持つことも、したくない気持ちにつながることが分かりました。

身体イメージに不満をもつと「自分は魅力的でない」「見られたくない」と感じやすくなり、性的な場面での自信や安心感が下がります。

すると、親密さを求める気持ちよりも、恥ずかしさや不安、回避が強くなり、したくない気持ちが強まるのです。

無意識に持つネガティブ思考

今回の研究とは関係ありませんが、相談を受けていると、産後の女性は自分が性行為をすることに対して、無意識にネガティブな思考を持ってしまっていることが多いです。

たとえば、「赤ちゃんをきちんと育てなければ」というプレッシャーによって「セックスなんかしてて良いのだろうか?」という思考が頭のどこかに芽生えていたりします。

夫に対しても「赤ちゃんの父親にそういう行為を求めて良いのだろうか?」という遠慮が生じてしまうこともあります。

特に古いジェンダー感に縛られている女性は「母親になってまでセックスなんて…」という誤った認識を持ってしまっていることもあります。

そして、そのことに自分でも気づいておらず、それがしたくない気持ちに繋がっていることもあります。

夫の反応も妻の性的満足度に影響する

産後の夫の反応も、女性の性欲や性的満足度に影響を与える要因です。

北欧公衆衛生大学のトーン・アールボーグ医師らが384組のカップルを調査した結果でも、夫婦間のコミュニケーションが産後の妻の関係満足度や性的満足度に影響することが分かっています。

産後は無意識に「この人は共に子供を育てあげていくのに好ましい相手か?」という評価を厳しくします。そこで夫が支援的な態度を見せないと、パートナーとして不適切と評価し、性欲も高まらないのです。

これに関して詳しくは「産後のレスは一生。回復にはダイアディック・コーピングが大事」の記事を参考にしてください。

ちなみにこの研究では、約17%のカップルが過去1ヵ月で性行為をしておらず、月に1〜2回程度しているというカップルが最も多くいました。また、性行為を再開した時期の平均は出産後およそ2.6か月後でした。

産後の「したくない」をホットフォーカスで改善

ここからは、産後の「したくない」という気持ちを変えるために、試してほしいテクニックを紹介します。

それは「ホットフォーカス」という思考法です。

ホットフォーカスとクールフォーカス

私たちは同じ体験をしていても、どこに注意を向けるかによって感じ方が変わります。

たとえば、夫とコミュニケーションをとるとき、そこに集中し自分の体の反応や気持ちに意識を向けると、感情は高まりやすくなります。このように、感情や身体感覚に注意を向ける見方を「ホットフォーカス」と呼びます。

反対に、その状況から少し距離を取り、「夫の服にシワがある」とか観察するように見ると感情は落ち着きやすくなります。このように、感情に入り込みすぎず、状況を分析的に見る見方を「クールフォーカス」と呼びます。

これは自分自身が体験していることだけではなく、映画を見るときなども同じです。自分がそこに入り込んでいるように見るホットフォーカスを使うと、感情が揺さぶられやすくなります。反対に照明やカメラワークに注目すると感動は薄れます。

セックスをしたくないという女性は、夫とのやり取りや、ちょっとエロティックなコンテンツを見るとき、無意識にクールフォーカスを使っていることが多いです。なのでホットフォーカスを意識的に使うようにすることで性欲が高まる可能性があります。

性的興奮を測定する実験

どこに注意を向けるかによって性的興奮がどう変わるかを調べた、ライデン大学のステファニー・ボス博士らの実験があります。

この実験では、18〜45歳までの男女に以下の手順で性的な動画を見てもらいました。

  1. 同じ1分間の性的な動画を18回繰り返し視聴
  2. その後、2種類の新しい性的な動画を視聴
  3. 最後に最初のビデオを再度視聴

※同じ動画を繰り返し見るのは意図的に馴化(簡単にいうとマンネリ)を起こすためです。

動画の視聴方法について、参加者は3つのグループに分けられ、以下の指示が与えられていました。

  • ホットフォーカス条件:映像内の人物に自分を重ねシチュエーションに没入する
  • クールフォーカス条件:映像の撮影状況や俳優の演技などに注目して視聴
  • 中立条件:特別な指示なしに視聴

そして、動画視聴による主観的な興奮と生理的な興奮を確認しました。

主観的な興奮は、どれくらい興奮したかと、動画への没入感を7段階で自己評価してもらいました。

生理的な興奮は、男性には陰茎周囲径の変化を測定する機器を装着し、女性には膣の血流量を測定するフォトプレチスモグラフィー装置を装着して変化を確認しました。

実験結果

実験の結果、次のような傾向が分かりました。

1. 生理的反応

  • 女性:繰り返しの視聴により膣の血流反応は有意に減少。馴化(慣れ)が発生したことが要因
  • 男性:繰り返し視聴による陰茎の周囲径の大きな減少は示されなかった

2. 主観的性的興奮

  • ホットフォーカス条件では、クールフォーカス条件よりも強い性的興奮が報告された
  • ただし、繰り返し刺激により全体として性的興奮は減少傾向を示した

3. 没入感

  • ホットフォーカス条件で没入感が最も高く、クールフォーカス条件で最も低かった
  • 没入感は試行を重ねるごとに全条件で減少
  • 女性はクールフォーカスでも一定の没入感を維持したが、男性は有意に低下した

4. 新しい動画の効果

  • 新しい動画の視聴により、性的興奮と没入感は顕著に増加
  • 元のビデオを再び視聴した際にも、性的興奮が回復(脱馴化の発生)

女性の性的興奮を高める具体的な方法

以上の結果から分かるように、女性の性的興奮を高めるためには、単に外部の刺激に頼るだけでなく、自分自身の内面に意識を向けることが重要です。

特に、どのように注意を向けるか、またどのような環境や状況を作るかによって、性的興奮の質と強さは大きく変わります。

以下では、実践的で効果的な方法を詳しく説明します。

1. 「ホットフォーカス」を活用する

まず意識したいのが、「ホットフォーカス」を活用することです。性的な状況や刺激に対して積極的に意識を向け、自らをその場面に深く没入させましょう。

たとえば、夫と触れ合っているときに、自分の身体がどのように反応しているかに注意を払ってみてください。

「この触れられ方は気持ちいい」「心臓がドキドキしている」「肌が敏感になっている」といった身体感覚に意識を集中させることで、より強く興奮を感じることができます。

また、映画やドラマ、小説のラブシーンを観るとき、自分自身をそのストーリーの主人公として想像してみるのも効果的です。自分がその瞬間の中心にいると感じることで、より深い没入感が得られ、性的興奮を高めることができます。

2. 新奇性を取り入れる

新奇性を取り入れることも有効です。同じシチュエーションやパターンが繰り返されると、慣れが生じ性的興奮が薄れてしまうことが分かっています。

この「馴化(慣れ)」を避けるためには、新しい体験を積極的に取り入れることです。普段とは違う場所でデートをしたり、照明や音楽、香りなど、環境を変えるだけでも新鮮な気分が生まれます。

3. 五感を活用する

五感を意識的に活用することも重要です。性的興奮は視覚だけでなく、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といったさまざまな感覚の相互作用によって強化されます。たとえば、リラックスできるアロマを部屋に漂わせることで嗅覚を刺激し、好きな音楽を流すことで聴覚にも働きかけることができます。

シルクのシーツや柔らかなタオルといった心地よい肌触りのものを使用することで、触覚も刺激されます。

このように、五感を同時に活用することで、マンネリしがちな性行為に豊かさが加わり、より深い興奮を得ることができるのです。

無理なく自然体で性的興奮を高める

産後レスの改善では、身体の回復だけでなく、気分の落ち込みや不安、睡眠不足、夫婦関係の変化なども含めて見ていくことが大切とされています。

ホットフォーカスを試してみることで、少しずつ感覚が変わる人もいます。

しかし、性交痛がある、触れられること自体が苦痛、気分の落ち込みや不安が続いているという場合は、無理に夫婦生活を再開しようとしなくても大丈夫です。

出産前の自分に早く戻らなければと焦る必要はありません。母親になった今の自分の身体と心に合った形で、少しずつ取り組むことが大切です。

参考文献
  • O’Malley, D., Higgins, A., et al. (2018).Prevalence of and risk factors associated with sexual health issues in primiparous women at 6 and 12 months postpartum; a longitudinal prospective cohort study (the MAMMI study).
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  • Both, S., Laan, E., & Everaerd, W. (2011).Focusing “hot” or focusing “cool”: Attentional mechanisms in sexual arousal in men and women.