企業は優秀な人材を雇いたいと考えているので様々な入社試験を課してきます。
中にはちょっと変わった問題を出す会社もあります。
面接官が100円で買えそうなペンを見せて「このボールペンを私に1万円で売ってください」と言うこともあります。
本当にそんなことする会社あるの!?と驚くかもしれませんがあります。
実際に私がコンサルティングをしていた会社の社長さんが質問の内容こそ違いますが同じようなことをやらかしたことがあります。(私も同席していたので二度としないようにお願いしましたが…)
その会社はまともだったのですがこの手の問題を出す会社はブラック企業である可能性が高いので入社を考えている人は注意しましょう。
また人事担当者でこの手の問題を出そうと考えている人もやめましょう。優秀な人が採用できなくなります。
「このペンを俺に売ってみろ」は映画でディカプリオが言ったセリフ
「このボールペンを私に1万円で売ってください」という問題がいつからあったのかは不明ですが、有名にしたのはレオナルド・ディカプリオが主演した『ウルフ・オブ・ウォールストリート』という映画です。
原作のモデルは投資詐欺で逮捕されたジョーダン・ロス・ベルフォートです。
この映画でレオナルド・ディカプリオ演じる主人公が部下に「このペンを俺に売ってみろ」と言う有名なシーンがあるのです。
そこで優秀な部下がそのペンを持って「そこにあるナプキンに名前を書け」と言います。するとディカプリオが「ペンがない…(から売ってくれ)」と答えるというシーンです。
要するに需要と供給のバランスが崩れているところでは何でも売れるということです。
これを見た人たちがディカプリオに憧れていたのか分かりませんが需要を生み出すことの大切さを説明するときにこのネタを使い始めたのです。
冒頭の社長さんもこの映画とそれを元ネタにマーケティングを解説するビジネス系インフルエンサーに影響されて面接で同様のことを聞いてしまったのです。
Googleでも意味はなかった
「このボールペンを私に1万円で売ってください」のような奇問を英語では「ブレインティーザー(brainteaser)」と呼びます。
直訳すると「脳をからかうもの」という意味です。日本では「頭の体操」などといわれることもあります。
Googleや外資系のコンサルティング会社ではかつてブレインティーザーを入社試験で出題していました。
具体例を挙げるなら以下のような問題です。
- 全国にある電信柱の数はいくつでしょうか?
- マンホールのフタが丸いのはなぜでしょうか?
- 1時間丁度で燃え尽きる線香で30分を計るには?
この手の奇問を簡単に解ける人は頭の回転が速いので仕事も出来るのではないかと考えていたのです。
しかしこれらの問題で仕事の能力を計測することは不可能なようです。
Googleの人事担当だったラスロ・ボック氏が入社試験についてインタビューに答えたことがあるのですが、同氏によればブレインティーザーの成績と入社後の実績には相関は見られなかったそうです。
つまり入社試験で出された問題のスコアが良かったからといって仕事ができるわけではなかったということです。
簡単に問題の対策ができてしまう
そもそもブレインティーザーにしてもその他のひらめきや論理的思考力、推理力が問われる問題にしても簡単に対策が出来ます。
決して地頭の良さが測れるものではありません。
そういった問題が多いとされるIQテストなども1回目より2回目のほうが練習効果が発揮されるためスコアは上がります。
なので心理学の実験などではその分が結果に影響をしないよう実験手法を工夫しているくらいです。
ブレインティーザーが出来るかどうかと頭の良さや仕事の実力は関係ないのです。
ですからあなたが「このボールペンを私に1万円で売ってください」という問いに対して気の利いた答えを返せなかったとしても自分は頭が悪いなどと思う必要はありません。
ブレインティーザーを出す会社はブラック企業?
そしてこれが最も伝えたかったことなのですがブレインティーザーを出題したがる会社はブラック企業かもしれません。
ナルシストでサディストほどブレインティーザーを出題したがる
ボーリンググリーン州立大学のスコット・ハイハウスが756人のビジネスパーソンを対象に行った調査があります。
その中でナルシズムやサディズム、社会的能力などの性格特性について調べました。
またブレインティーザーがどの程度適切なものであるかの評価もしてもらいました。
結果はブレインティーザーを高く評価する人ほどナルシストでサディストで社会的能力が低い傾向にありました。
直感に頼りがちな人が多いブラック企業
またブレインティーザーを評価する人は従業員の採用において直感に頼ることが重要であるという考えを持っていることも分かりました。
採用経験のある約500人を対象に行った調査でも同じ結果が再現されました。
つまりブレインティーザーを出したがる人は性格に問題がある傾向が高く、そういった人間が集まっている会社はブラック企業の可能性があるということです。
余談ですが映画の中のディカプリオもそのような性格で描かれていましたし会社もブラック企業でした。
コンサルティング会社はいまだに問題を出しているけど?
とはいえコンサルティング会社ではいまだに「全国にある電信柱の数はいくつか?」という問題を出しているじゃないか?と思う人もいるでしょう。
電信柱の数のような簡単に調べることの出来ないモノを少ない手がかりから論理的に導き出す手法をフェルミ推定と言います。
確かにコンサルティング会社などは採用面接でこういった問題を出すことがあります。
しかしコンサルティング会社がこの手の問題を出すのは応募者の思考の過程を知りたいからです。
そのため数字が合っているかどうかはそれほど重要ではありません。
「1個ずつ数えます!」と答えても会社が求める人材にマッチしていると判断されれば入社できることはあります。
おそらくGoogleがフェルミ推定の問題を出したのも思考の過程を見ることが目的だったのではないでしょうか。
ですから思考の過程や会社の雰囲気と合うタイプなのかを見極めるためにそれらの問題を出しているのなら良いですが、答えが合っているかどうかだけで地頭の良さが判断できると考えて出題している会社はやめたほうが良いということです。
採用担当者も気をつけましょう
またあなたが採用担当者だったとしたら「このボールペンを私に1万円で売ってください」などと聞かないほうが良いでしょう。
実際にこういったネタが好きなビジネス系のインフルエンサーは話の内容が浅くレベルも低い人が多いです。
なので優秀な求職者から「あぁそっち系なのね…」と呆れられてしまいます。
ここまで説明した通りこの手の問題と仕事の能力に相関はないのです。問題に慣れていれば簡単に解けます。
仕事で使える人間を採用したいと考えているのにクイズ慣れしているだけの人間を採用してしまう可能性もありますから気をつけましょう。
参考文献:Scott Highhouse, et al. (2018). Dark Motives and Elective Use of Brainteaser Interview Questions.