「父も母も毒親じゃないのに私はアダルトチルドレンな気がします」と言って相談に来る人がいます。
話を聞いていると確かにアダルトチルドレンの特徴によく当てはまっていることが多いです。
両親が毒親ではないパターンでもアダルトチルドレンとなることはあるのでしょうか?
毒親とアダルトチルドレン
アダルトチルドレンとは過酷な家庭環境で育ったことで成長後も生きづらさを抱えた大人のことです。
ここでいう過酷さには暴力や無視、ネグレクトといった身体的・精神的虐待の他にも異常な子育てなどが含まれます。
そしてこのように子供を扱う親のことを「毒親」と呼ぶことがあります。
毒親という言葉は学術用語ではありませんがスーザン・フォワードの著書『毒になる親』のヒットにより広く使われるようになりました。
本人が自覚しているかどうかに関わらずアダルトチルドレンの親は毒親であるパターンがほとんどです。
毒親育ちじゃないのにアダルトチルドレンとなるパターン
アダルトチルドレンの定義だけを見ると毒親でない保護者に育てられたら該当しないように見えます。
しかし毒親育ちでなくとも自己肯定感が低く自信が持てなかったり、人間関係に困難さを抱えている人はいます。
たとえ毒親でなくとも次のような家庭環境で育つとアダルトチルドレンになることはあり得ます。
病気がちな親の面倒を見ていた
介護が必要な親の面倒を見たり家事を代わりに行う子供のことをヤングケアラーといいます。家族のケアが忙しく学校の勉強をする時間が取れないこともあります。
ヤングケアラーの中には家族の面倒を見るのが当たり前となることで自分を優先することに罪悪感を抱いてしまうタイプもいます。
それが大人になった後の生きづらさにつながることもあります。また他の家庭と違うということに引け目を感じてしまい自信を持てないということもあります。
親のメンタルヘルスの影響を受けた
毒親どころか子供に対して愛情深く接する親であっても悪影響を及ぼすことがあります。
どんなに優しく接しても親自身が心の中に抱えている闇が無意識に伝わることがあるからです。
親のメンタルヘルスが子供の成人後の抑うつ傾向に影響を与えるという研究もあります。
「私のためにお母さんがいつも無理をしてくれている」という感情が強すぎると自分だけ幸せになることはできないという思考につながることがあります。
両親ともに毒親でなくとも夫婦仲が悪いことでネガティブな空気が家庭内に蔓延り子供らしく振舞えない状況になっていることもあります。
たった一度のスパンキング
躾けの一環として子供を叩く(スパンキング)親もいます。
スパンキングをしたからといって必ずしも毒親とは言い切れません。しかしたった一回のスパンキングであってもそれがトラウマとして残り続けることはあります。
(関連記事:見捨てられた体験がトラウマになるとき)
オールド・ドミニオン大学のジェーヒー・カン助教の研究によればスパンキングされた子供は一年経過した後であっても対人関係スキルや自制心に悪い影響が出ることが分かっています。
無意識であっても「行動を起こす=叩かれる」という条件づけがされたまま大人になれば自分のやりたいことができなくなってしまっても不思議ではありません。
親以外の家族からの影響
アダルトチルドレンは必ずしも親だけに原因があるのではありません。
祖父母や兄弟姉妹からの虐待が原因となることもあります。
また叔父や叔母からの言動がいつまでも頭の中に残り続け自己肯定感が低いまま大人になったという人もます。
隠れ毒親
たとえ毒親であったとしても子供がそれに気づいていないこともあります。
毒親とは必ずしも暴力をふるったり罵倒するだけではないからです。
子供にバレないように上手く洗脳する「隠れ毒親」とでもいうべきタイプも存在するのです。
例えば「きちんとした教育が受けられる中学校と不良ばかりの中学校はどっちが良いと思う?」と質問をすることで遠回しに中学受験を強制するような親です。
そして勉強の辛さを訴えると「受験するって決めたのは自分だよね?」とプレッシャーを掛けたりするのです。
この手の毒親は「あなたのため」という建前で子供をコントロールしようとします。
子供からすると自分の本心とは違うことであっても自分の意思で決めたように思い込まされますから混乱が起こります。
それによって自分が何をしたいのか分からなくなったり、自分の意思を持ったり主張することは悪いことだと感じてしまうのです。
記憶が飛んでいるパターン
毒親とのエピソードを忘れているということも考えられます。
人間は嫌なことや危険なことはいつまでも覚えているものです。
(関連記事:嫌なことがあったときはテトリスをすると良い)
これは再び同じようなシチュエーションに遭遇したときに対処しやすくするための脳の機能といわれています。
しかしあまりにも辛いことは記憶から消えてしまうことがあります。なぜなら心が耐えられなくなるからです。
「〇〇恐怖症」と名のつくものの中にはトラウマ体験だけを忘れているパターンもあります。
例えば子供時代に高い場所から落下して痛い思いをしたとします。このエピソードを忘れたとしても「高い場所は危険」という認識だけが残り続けて高所恐怖症になるということです。
毒親からの酷すぎる仕打ちを忘れていても「自分は罰せられるべき存在」という認識だけが残り続ければアダルトチルドレンとなる可能性があります。
機能不全家族は8割といわれることもありますが一見すると健全に見える家庭であっても知らないうちにアダルトチルドレンにつながる体験をしている可能性はあるのです。
アダルトチルドレンに似た辛さを抱えた人たち
アダルトチルドレンでなくともそれと似たような生きづらさを感じる人はいます。
代表的なものとしてHSPが挙げられます。
HSPとは
HSPとは「Highly Sensitive Person」の略で日本語にすると「非常に敏感な人」となります。
他者への共感性が高すぎて感情が疲弊したり、五感が敏感なため音や臭いの刺激を不快に感じやすいという特徴があります。
HSPは病名ではありませんが生きづらさにつながりやすい気質とされています。人口全体の2割から3割がHSPに該当するともいわれていますから珍しことではありません。
HSPとアダルトチルドレンの両方を持つ人
カウンセリングに来る人の中にはHSPでありアダルトチルドレンという人もいます。
HSPの気質は生まれつきのものとされますが、それがプラスになるかマイナスになるかはどう育てられるかの影響も大きいからです。
機能不全家族で育ったアダルトチルドレンがHSPの気質も持っていた場合には余計に生きづらさを感じやすいのです。
HSP以外にも内向性や神経症傾向が社会生活への適応のし難さにつながることはあります。
毒親かどうかに囚われないことが大切
アダルトチルドレンは病名ではなく概念ですから厳格に定義に当てはめて考える必要はありません。
もともとはアルコール依存症の親に育てられた子供のみを指す言葉だったのが時代の変化とともに今日の意味へと変化してきたのです。
大切なことは今抱えている生き辛さやストレスをどのように克服するかということです。
毒親かどうかという原因にばかり囚われないでください。
関連記事⇒毒親を許せないとアダルトチルドレンは克服できないのか?
<参考文献>
・Jeehye Kang. (2022). Spanking and children’s social competence: Evidence from a US kindergarten cohort study.
・『毒になる親 一生苦しむ子供』(講談社/著:スーザン・フォワード/訳:玉置悟)