アルコールや薬物、ギャンブルに対する依存症にはドーパミンという神経伝達物質が大きく関係しています。これは脳内に快感をもたらす作用を持つ物質です。
そして恋愛依存症においてもドーパミンが同様の働きをすることが示唆されています。
しかし恋愛依存症はアルコール依存症とは異なり元(=恋愛行動)を完全に断ち切らなければ克服できないということではありません。ただしダメな相手との関係は切らなければなりません。
ドーパミンと依存症の関係
アルコールや薬物を摂取したときになぜ人は快感を覚えるかというと脳内の報酬系回路という部分が活性化するからです。
刺激を受けると腹側被蓋野が活性化しそこから伸びた神経細胞の先から側坐核などにドーパミンが放出されます。それによって快楽を覚えるのです。
この感覚を覚えることで同じ刺激を何度も求めるようになるのです。
そして習慣化されると少ない刺激では興奮できなくなってしまうため摂取量が増えて依存症になるのです。
アルコールや薬物を摂取できないことによって焦りや怒り抑うつ状態を生み出すこともあります。
恋愛における脳の活性化と治まり方
恋愛をしているときも上記で説明した腹側被蓋野と側坐核の関連が分かっています。
恋愛における刺激の源が「恋愛そのもの」なのか「特定のパートナー」なのかは分かりません。
しかし特定のパートナーに対するものだとした場合、距離を置くことによって活性化が治まることは分かっています。
別れた後も脳は反応する
ヘレンE.フィッシャー博士が失恋後の男女を集めて脳の活動を確認した実験があります。
少し残酷なのですが失恋した被験者に元恋人の写真を見せたらまだ恋愛に関係する脳内の部位は刺激されるか?ということを調べたのです。
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被験者たちは平均で2年付き合っており、実験時点では別れてから約2ヶ月が経過していました。
想像通りですが腹側被蓋野は刺激されました。
本人たちがまだ未練が残っていたので当然ともいえますが、ここで重要なことは幸せかどうかに関わらず刺激されたということです。同時に痛みに関連する島皮質なども刺激されました。
冷静になろうとする部分も活性化する
この実験では感情の調節、意思決定、評価に関与する脳の領域も活発になっていることが分かりました。
どういうことかというと「もう終わった恋なのだから」と冷静になろうとしている部分もあるということです。
個人的な見解なのですが恋愛依存症の人とそうでない人はここに対する認識の違いが大きいのではないかと思います。
別れた直後の恋愛依存症者の脳をfMRIで見たことはないので分かりませんが、おそらく恋愛依存症者の脳内でも冷静に評価すべき領域は活性化されているはずです。
しかし話を聞いているとそのような可能性を感じさせる人は少ないです。
おそらく「一生元カレのことを引きずる」という思い込みがそうさせているのかもしれません。
脳が冷静になろうとしている力を凌駕しているのです。
失恋直後は誰でも「もう生きていけない」という思いを持つことは不思議ではありません。
しかし恋愛依存症の人の場合はその気持ちが大き過ぎるのです。
時間の経過によって治まる
この実験では恋愛を報酬として認識する脳領域の活性化は時間の経過とともに落ち着いたということが分かりました。
これは恋愛依存症の場合も同じです。
相談に来る人も時間の経過によって特定のパートナーに対する渇望は消えていきます。
もちろん会わずに距離を置いた場合の話です。
薬物やアルコールへの依存症の場合、一度報酬系回路が刺激されてしまったら完全に断つ以外の方法で治療することは不可能とされています。
しかし恋愛依存症の場合に二度と恋愛をしてはいけないということにはなりません。「ダメな相手」と二度とダメな恋愛をしてはいけないということです。
また自分の体験について語ったり、他のことに集中することで回復しやすくなります。最も良くないことはそこに留まり悩み続けることです。
参考文献:Helen E. Fisher, et al. (2010). Reward, Addiction, and Emotion Regulation Systems Associated With Rejection in Love.