恋愛依存症の治し方として「自己肯定感を高めましょう」「自分を好きになりましょう」と多くのカウンセラーがアドバイスします。
ネットの記事やブログでもたいていはそういった内容のことが書かれています。
もう聞き飽きたという人もいるでしょう。
そこで今回は異なるアプローチで恋愛依存症を治す方法を紹介したいと思います。
それは「自己分化(self differentiation)」です。
自己分化とは?
自己分化は家族システム論の中でよく出てくる言葉なので、日本語の恋愛依存症の文脈で使われることはありません。
しかし海外では恋愛依存症との関連についての研究が少しずつ出始めています。
自己分化を簡単に説明すると次の2つの能力(度合い)です。
- 家族など親密な相手の感情と自分の感情を区別する能力
- 感情と思考を区別する能力
これが出来ている度合いのことを「自己分化度」と言います。
恋愛依存症は自己分化度が低い
恋愛依存症の人は恋人の感情と自分の感情の境界が曖昧です。恋人が不機嫌だったり、落ち込んでいると自分の心までネガティブになります。
つまり自己分化度が低いといえます。これが恋愛依存症から抜け出せない原因でもあります。
恋愛に依存している人の自己分化度が低いということは複数の調査で分かっています。
またセントラル・コネチカット州立大学のヘザー・サイモンらの研究によれば、不安定な恋愛関係を持つ自己分化度の低い人間はうつ傾向が高いということも分かっています。
つまり恋愛依存症の人は自己分化度を高めなければ余計に酷い状態になるリスクがあるのです。
自己分化を高めて恋愛依存症を治す方法
恋愛依存症の人が自己分化度を高めるにはどうすれば良いのでしょうか?
これはそんなに難しいことではありません。日頃からちょっとした習慣を持てば可能です。
誰の感情なのか明確にする習慣を身につける
自己分化度を高めるには「誰の感情なのか?」を明確にする習慣を身につければ良いのです。
例えば彼氏と一緒にいるときに嫌な気持ちになったとします。
そのときに「いま嫌な気持ちになっているのは本当に自分なのか?彼氏だけではないのか?」と客観的に考える癖をつけるのです。
それによって曖昧になっている心の境界を明確にすることができます。
他人の感情の影響を受けやすい人は彼氏といるときだけでなく家族や友達、同僚といるときもこのように考える習慣をつけてください。
自分がどうしたいかハッキリさせる
それと「自分がどうしたいのか?」をハッキリさせることも大切です。恋愛依存症の人は恋人に求められることを求めていることが多いです。
そのため恋人がどうしたいのか?という軸で物事を判断しがちですが、これは心の境界を曖昧にする悪い要因です。自分の欲求をハッキリさせましょう。
また意見を述べるときに他人の機嫌を気にしすぎないということも自己分化度を高めるうえでは重要です。
彼氏の感情、自分の感情、自分の思考
自己分化度の低い恋愛依存症の人は感情と思考の区別が出来ないという特徴もあります。
例えば酷い彼氏と一緒にいても幸せになれないと理解し、別れようと決断したとします。
このときに彼氏が悲しむとその感情が自分のものであると勘違いします。
さらに「悲しい感情になったということは私も本当は別れたくないのだ」と感情と思考を混ぜてしまうのです。
それによって依存状態から抜け出すことが出来なくなるのです。
彼氏の感情、自分の感情、自分の思考という3つを明確に区別してください。それが恋愛依存症から抜け出す一歩となってくれます。
恋愛依存症の治し方は一つではない
本やブログで様々な恋愛依存症の治し方が紹介されています。中には胡散臭いものもあります。
どんな方法が合うかは人によって違います。
カウンセリングに来る方を見ていても話すことで心の膿を出し切る人もいれば、認知を変えることで依存しなくなる人もいます。
また本や映画を見ている中で気づきを得てそこからプラスに転じるという人もいます。もちろんその瞬間に治るということではありませんが。
どれか一つの方法がダメだったからといって自分は一生誰かに依存してしまうなどと悲観的になる必要はありません。
自分では何も変わっていないと思っても少しずつ良い方向に向かっていることもありますし、他の方法を試すことで恋愛依存症を治せることもあるのです。
大切なことは人への依存は必ず治せるという気持ちを持つことです。
タイトルについてのお断り
今回「恋愛依存症の治し方」というタイトルで記事を書きましたが、「治す」という言葉には非常に抵抗を持っています。
恋愛依存症は病気ではありませんから治療的な意味合いを持つこの言葉が果たして適切なのかなと。「克服する」のほうが適切かもしれません。
とはいえこのサイトは「恋愛依存症 治し方」というキーワードで検索して訪れてくれる方が多いので今回は使わせてもらいました。
それと私的なことですが言葉の使用には細心の注意を払っており、特に医師でない人間が使うべきでない「治す」「治療」「診断」といった言葉は避けるようにしています。
そもそも医師以外が治療や診断をしたら医師法違反です。
当カウンセリングルームでは恋愛依存症のカウンセリングと克服のお手伝いを行っていますが、治療は行っておりません。
参考文献:Heather L. Monaghan Simon, Joanne DiPlacido, James M. Conway. Attachment styles in college students and depression: The mediating role of self differentiation. Mental Health & Prevention, Volume 13, March 2019.