職場や学校でいつも責任をなすりつけられたり、八つ当たりされる人がいます。心理学的な言葉でいうならスケープゴートにされやすい人です。
スケープゴートとは「集団やそこに属す個人が遭遇した困難や問題を、不当に集団の一人のメンバーのせいにすること」です。
悪くない人の責任にしてしまうということです。
日本語では「身代わり」「生贄(いけにえ)」などといわれます。
スケープゴートの語源は贖罪のために神に捧げようと野に逃された(scape)ヤギ(goat)ですから生贄という言葉はピッタリといえます。
なぜ同じことをしていてもスケープゴートにされやすい人とされにくい人がいるのでしょうか?
スケープゴートから抜け出すにはどうすれば良いでしょうか?
(※心理学の世界ではスケープゴートが他の意味でも様々に使われます。似たような意味ですがアダルトチルドレンの種類の一つにもスケープゴートがあります)
スケープゴートにされやすい人
スケープゴートにされやすい人の特徴は自尊心が低く、相手の言動に反応しやすいことです。
同じことをしていてもこのような特徴を持つ人は不当に責任をなすりつけられたり、手柄を横取りされがちです。
職場イジメのターゲットにもされやすいです。
なぜ集団はスケープゴートを必要とするのか?
なぜ自尊心が低く反応しやすい人はスケープゴートになりやすいのでしょうか?
それを理解するためには、集団がスケープゴートを必要とする理由を知る必要があります。
集団がスケープゴートを必要とする理由は心の防衛反応や邪な本能など複数ありますが大まかには次のようなものがあります。
- 自分の責任を認めると無能さまで認めることになるので誰かのせいにしたい
- 責任の所在が曖昧な状態はストレスが溜まるので誰かを生贄にする
- 自分の利益のために誰かを犠牲にしようという邪悪な心
スケープゴートが必要な理由を一言でいうなら「人間には心を気持ち良い状態にしておきたい本能があり、それが暴走するから」といえます。
自尊心の低い人がスケープゴートにされやすい理由
自尊心の低い人がスケープゴートにされやすい理由は自分が悪くなくても認めてしまうからです。(もしくは認めそうに見えてしまう)
自分に責任がないと分かっていても他人と揉めるくらいなら自分が悪いことにしてしまおうと考えてしまい反論しないのです。反論しないのは認めるのと同じことです。
なのでいつも悪くないのに自分の責任にされたりイジメられるのです。
また普段の言動が控えめ(悪く言えば罪悪感を持ち続けているよう)に見えるため、他人から見ると責任をなすりつけやすい雰囲気が出てしまっていることも原因です。
反応のしやすさも原因
なぜ集団がスケープゴートを必要とするのかは人間が心を気持ち良い状態にしておきたい本能を持っているからと説明しました。
ですから気持ち良くなれるターゲットでなければスケープゴートにしても意味がありません。気持ち良くなれるターゲットとは反応しやすい人です。
イジメや説教をしているときに気持ち良くなってしまう人は少なくありませんが、誰に対しても同じように気持ち良くなれるわけではありません。
自分の偉そうな言動にビクビクしたり、申し訳なさそうな表情を見せて反応してくれるから気持ち良くなれるのです。
これとは反対に愛想の悪い人が怒られないのは反応が鈍いため、怒っている側が心地悪さを感じるからなのです。
反応しやすい人の方がスケープゴートにされやすいのはこういった理由です。
親からスケープゴートにされたことも原因
スケープゴートにされやすい大人になってしまう原因が親にあることもあります。
ナルシストな親はスケープゴートをする
ナルシストとというと自分のことが大好きな人というイメージですが、心理学ではこれに加えて、利己的なことや自分は特別扱いされるべき人間という思い込みなどの尊大さもその特徴とされます。
また内気で神経症的な脆弱型ナルシストも存在します。
そしてこのような尊大型ナルシストもしくは脆弱型ナルシストの親は子供をスケープゴートにする可能性が高いとオーストラリア国立大学のマルチナ・ヴィニャンドらの研究で判明しています。
そして親からスケープゴートにされた子供はメンタルに悪影響を受け、不安やうつ、自尊心の低下が生じるリスクが高くなることも分かりました。
自分の責任にされることに慣れる
子供時代から親にスケープゴートにされ続けると責任を負うことに慣れてしまいそれが当然のこととなってしまいます。
すると必要以上に罪悪感を覚えやすくなり、自分が悪くないときでさえ責任を感じてしまうのです。
それが自尊心の低下やビクビクとした態度につながるため、どこの集団に属してもスケープゴートにされやすくなります。
スケープゴートから抜け出す方法
もしあなたがスケープゴートにされやすい人だったらどうすれば良いでしょうか?
ここまでの説明でお分かりだと思いますが、スケープゴートから抜け出す方法は自尊心を持つことと、ビクビクと反応しないことです。
スケープゴートにされにくい人の特徴
ネット記事などでスケープゴートにされやすい人の特徴として孤立している人、付き合いの悪い人、笑顔が少ない人などが挙げられることがあります。
しかしこれらは大間違いです。孤立したり飲み会に参加しない人がスケープゴートにされやすいということはありません。むしろされにくい人のほうが多いかもしれません。
さきほども説明しましたが愛想の悪い人や人付き合いの悪い人は他人からの評価を気にしません。なので怒られているときでも反応が鈍く怒っている側の居心地が悪くなってしまいます。
しかも相手の責任を追及することも躊躇しませんから責任をなすりつけられればきちんと主張します。ですからスケープゴートにされいくいのです。
今スグできる簡単なテクニック
だからといってあなたに愛想を悪くしろといっても難しいと思います。そこで簡単にできるテクニックを紹介します。
何をすれば良いかというと会話中に相手にチューニングを合わせないということです。具体的には以下のテクニックを使ってください。
- 怒られたり文句を言われても表情を変えない
- 話す声の大きさやスピード、高さも変えない
- 呼吸、まばたきのペースを変えない
- 説教中も背筋を伸ばしてお腹に力を入れた状態を崩さない
- 普段から無駄な愛想笑いをしない
これらは同じことをしてもなぜか怒られない愛想の悪い人たちが無意識にやっているチューニングを合わせない行動です。
反論されているわけではないのに怒ったりイジメている側の居心地が悪くなるテクニックです。
スケープゴートにされやすい人は今すぐに実践しましょう。
良いと勘違いしてやっている悪い習慣を捨てる
あなたは他人の機嫌を悪くすることを恐れて必要以上に笑顔をつくったり、相手の話に興味のあるような素振りを見せているかもしれません。
そうすることで相手を尊重しているアピールになり、人間関係が円滑になると思っているかもしれません。
しかしそれは相手に「私はスケープゴートにしやすい人間です」と宣伝しているようなものなのです。
まずはそういった良いと勘違いして行っている悪い習慣を捨てましょう。
参考文献:Martina Vignando, Boris Bizumic. (2023)Parental Narcissism Leads to Anxiety and Depression in Children via Scapegoating.