自己啓発書やカウンセラーが書いた本には「前向きになるためにいつもポジティブな言葉を唱えましょう」と書いてあることが多いです。
言葉がその人の感情に影響を与えることは間違いないでしょう。自分の発した言葉を一番聞いているのは自分ですからポジティブな言葉を唱えることで暗い気持ちが明るくなる効果もあるでしょう。
しかし自己肯定感が低い人の中にはそういった行為がどうしても出来ない人がいます。
ポジティブな言葉のせいで余計に辛い気持ちになるという人もいます。ポジティブの押し売りが鬱陶しく感じるという人もいます。
こういった感情が生まれることで「自分は特殊なのかもしれない」と不安になるかもしれませんが心配はありません。
自己肯定感の低い人が無理にポジティブな言葉を唱え続けると余計に落ち込むことが実験でも分かっています。
「私は愛らしい人です」と繰り返す実験
カナダのウォータールー大学のジョアン・V・ウッド博士たちがポジテイブな言葉を唱えさせることでどのように気分が変化するかという実験を行いました。
参加者たちは「私は愛らしい人です」という言葉を繰り返しました。
その後に気分がどう変わり、自分についてどう思うのかを調べました。
その結果、自己肯定感の高い人は気分が良くなりましたが、低い人はより落ち込んでしまったのです。
言葉と現実のギャップに注目してしまう
言葉にすることで脳がその影響を受けてその通りの感情が芽生えることがあるのは様々な研究からも分かっています。
人は認知と行動が異なると不快なものです。
なので「ポジティブな言葉を発しているのだから、実際に気分もそうなのだろう」と脳が認知のほうを合わせてくれることも期待できるかもしれません。
しかし自己肯定感の低い人の場合は発した言葉と実際の自分との違いに注目してより落ち込んでしまうのです。
他の実験では自己肯定感の低い人は他人から褒められたときにも現実とのギャップにばかり注目してしまい辛くなることも分かっています。
また本来の自分と異なる表現を繰り返すことでその矛盾に苦しんでしまう可能性も考えられます。
自己肯定感を下げる言葉
では自己肯定感を高めないまでも、これ以上下げないためにはどうすれば良いのでしょうか?
それは習慣となっている言葉を置き換えることです。
「いつも」とか「必ず」という言葉を「そういうこともある」という言葉に置き換えましょう。
自己肯定感の低い人は「私はいつも失敗する」とか「必ず嫌われる」といった言葉づかいが習慣になってしまっています。
たとえ口にしていなくても心のどこかで思っていたりします。そのため余計に自己肯定感が下がってしまうのです。
認知の歪み
いつも失敗する人や必ず嫌われる人など存在しません。
自己肯定感の低い人がそのように考えてしまうのは「根拠のない決め付け」や「白黒思考」といった認知の歪みが起こっているためです。
なのでそのような間違った言い切りをやめて「失敗することもある」や「相性の合わない人もいる」というように事実をありのままに表現する癖をつけましょう。
実はこのような言葉に置き換えることで自己肯定感が高まることがサウサンプトン大学の研究でも分かっています。
自分の言葉を最も聞いているのは自分自身だということを忘れないでください。
感情を客観視してそのまま受け入れる
「ポジティブな言葉を言いましょう」というアドバイスは自己肯定感の低い人ほど受ける機会が多いものです。しかしそれを真に受ける必要はありません。
落ち込んでいるときに無理してポジティブな言葉を唱えるという行為そのものが大きな負担となるのです。
無理に前向きになるよりも、「いまの自分はこういう状況に遭遇して落ち込んでいるんだな」と感情を客観的に見るだけのほうが良いかもしれません。
ありのままの自分を受け入れるほうが自己肯定感が高くなることもあるのです。
参考文献
・Joanne V. Wood, et al. (2009). Positive Self-Statements: Power for Some, Peril for Others.
・Wing-Yee Cheung, et al.(2014).Uncovering the Multifaceted-Self in the Domain of Negative Traits: On the Muted Expression of Negative Self-Knowledge.