周りがみんな敵に見えるのは母親の影響か?(敵対的帰属バイアス)

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周りがみんな敵に見えてしまうという人がいます。

他人のちょっとした発言や態度まで敵意の表れと受け止めてしまうのです。

うつ病などの精神疾患の場合にこのような症状が出ることがあります。

しかし病気でなくとも周りが敵に見えるという人はいます。

その原因として母親の性格と愛着の問題が考えられます。

周りが敵に見える人の心理

職場の同僚に挨拶をしたときに小さな声で返されたらどう思いますか?

「体調でも悪いのかな?」と思いますか?

それとも「私のことが嫌いなんだ」と思いますか?

出来事の原因を帰属させる

私たちは意識しているかどうかに関わりなく出来事の原因を何らかの形で理解しようとし、何らかの答えを出しています。

このように出来事の原因を解釈し帰結させることを心理学で「帰属」させるといいます。

分かりやすく言うなら「なぜそのような言動をしたのか」という原因の所在を特定するということです。

原因が分からない状態というのは気持ち悪いので何かに帰属させるのです。

周りが敵に見える「敵意帰属バイアス」

そしてこの帰属の過程には個人差があります。人によってポジティブ方向かネガティブ方向へ偏っているのです。

挨拶を返す声が小さかっただけで「嫌われた」と考えてしまうのはネガティブな偏りが生じていると考えられます。

こうしたネガティブな帰属の偏りを「否定的帰属バイアス(Negative Attribution Bias)」といいます。

さらにその中でも相手の言動を敵対的なものとみなしやすいものを「敵意帰属バイアス(Hostile attribution bias)」といいます。

周りがみんな敵に見える人というのはこの「敵意帰属バイアス」が強いのです。

職場で同僚が自分の方を見ながら会話をしているのを見たときに悪口を言っていると感じてしまうのもこのバイアスの影響です。

他人に心を開けない原因は親から否定されて育ったこと

母親の性格と愛着不安が周りを敵とみなしてしまう原因

ではなぜ敵意帰属バイアスが強くなるのでしょうか?

原因として母親の性格と不安定な愛着が考えられます。

母親が敵意帰属バイアスを持っているとその子供も似る

ワシントン州立大学のニコール・E・ワーナー博士らの研究によると、母親が敵意帰属バイアスを持っているとその子供も同様の傾向を示すことが分かっています。

自分の子供が泣いているとき近くに他の子がいた場合、その子に泣かされたのだと認識する母親がいたとします。(子供が自分でどこかにぶつけた可能性は考慮しない)

このタイプの母親の子供は自分のオモチャを友達が壊したときにわざとやったと認識する可能性が高いのです。(間違えて落としてしまった可能性は考慮しない)

子供は親の対人関係スタイルの影響を受けやすいですから同じようになりやすいということです。

また敵意帰属バイアスを持っている母親は子供が自分に対してワガママを言ったときも、お腹が空いているとか具合が悪いという可能性を考慮する可能性は低く、自分に敵意を向けていると認識する可能性が高いことも分かっています。

つまり周りがみんな敵に見えるのは敵意帰属バイアスを持つ母親の性格に影響されている可能性があるのです。

親からの言葉の暴力がトラウマになっているのはノーガードだったから

不安定な愛着を持つ人ほど敵意帰属バイアスが強い

敵意帰属バイアスによって周りが敵に見えてしまうもう一つの原因として不安定な愛着が考えられます。

ブリストル大学のダニヤン・リー博士らが愛着と帰属バイアスに関する複数の研究を統計学的に分析(メタアナリシス)したところ、不安定な愛着を持つ人ほど敵意帰属バイアスが強いという結果が出ています。

ここでいう不安定な愛着には不安型回避型の両方を含みます。「見捨てられ不安」や「親密さへの不安」のどちらを持っていても周りが敵に見えやすい傾向があるということです。

不安定な愛着を持っている人は他者への信用が低いですから、些細な言動をネガティブに捉えて敵対していると認識しやすくなるのです。

周りが敵ばかりなのではなく、自分がそう思い込んでいるだけ

恋愛依存症の人の中には彼氏をいじめたいという欲求が抑えられないという人もいます。

こうなる理由は様々ですが敵意帰属バイアスもその一つとして考えられます。

彼氏に何か言われたときに敵対心を向けてきたと思い込んでしまい反撃したくなるのです。

連絡が返ってこないときに「わざと無視してるに違いない」と考えてしまうのもこのバイアスの可能性があります。

回避依存症と回避型愛着スタイルの違いの記事でも少し説明しましたが不安傾向の強い人の一部が恋愛依存症になることがありますから、今回の説明ともつながります。

多少の時間は掛かりますが捉え方の偏りを修正することで、周りが敵ばかりなのではなく、自分がそう思い込んでいるだけということに気づけるはずです。

参考文献
・Nicole E. Werner, Samantha Senich, Kathryn A. Przepyszny. (2006). Mothers’ responses to preschoolers’ relational and physical aggression.
・Nicole E. Werner, Samantha Grant. (2008). Mothers’ Cognitions about Relational Aggression: Associations with Discipline Responses, Children’s Normative Beliefs, and Peer Competence.
・Danyang Li, Katherine B Carnelley, Angela C Rowe. (2022). Insecure Attachment Orientation in Adults and Children and Negative Attribution Bias: A Meta-Analysis.