「お酒を飲まなければいい人なんです」
アルコール依存症のパートナーと共依存になっている人がよく言う言葉です。
依存症でなくとも酔っ払うと暴力を振るったり酷い発言をする男性と別れることが出来ない女性はこのように思っていることが多いです。
これも共依存状態といえます。
本当は優しい人なのにお酒のせいで人が変わってしまうと信じているのです。
しかしそれは間違いです。
お酒は人を変えません。その人の本性を現すだけです。
お酒によって道徳観まで変わることはないという実験結果もあります。
共感力は落ちる
お酒を飲んだときに変わることもあります。
それは共感力や理性です。記憶力が落ちることもあります。
英国ブラッドフォード大学のキャスリン・B・フランシスらはお酒を飲んだときに人にどのような変化が起こるか実験しました。
実験では参加者にウォッカを与えました。
そして様々な表情をしている人の写真を提示しその感情を判断させました。
その結果ウォッカを大量に摂取すると顔の表情から感情を読み解く能力が落ちることが分かりました。
悲しそうな表情にポジティブな評価をしたり、楽しそうな表情にネガティブに評価しました。
つまり共感する能力が落ちるのです。
これは飲み会などで酔っ払うと延々と同じ話を続ける人がいることからも分かります。
こちらが迷惑そうな顔をしても気づかないのです。それどころか気持ち良さそうですらあります。
空気が読めなくなるのは共感力が落ちるからで、同じ話を繰り返すのは短期記憶が落ちるからです。
ちなにみどれだけ酔っ払っても家にたどり着けるのは帰り道を記憶する脳内の部位は最後までアルコールの影響を受けにくいからです。
本性は変わらない
哲学で有名なトロッコ問題というものがあります。
ハーバード白熱教室でマイケル・サンデル教授が言及していたアレです。
- 暴走するトロッコが5人の作業員に向かっているが誰も気づいていない
- あなたはその手前の分岐点にいる
- レバーを切り替えればコースを変えられる
- しかしその先には1人がいる
この状況で5人を助けるために1人を犠牲にしても良いか?というものです。
今回の実験ではこれをお酒を飲んだ状態で判断させています。
ただし上記の問題とは少し変えてあり、トロッコを止めるために1人を下敷きにしても良いか?というものになっています。
(おそらく上記の設定では分岐ポイントを中立にすればトロッコが脱線するので全員が助かるというアイデアが知れ渡ってしまったからかもしれません)
参加者にバーチャルリアリティ(VR)の機器を用いて実際の映像が見せられました。
どちらの方法を選択した人も酔っているときとそうでないときで答えに変化はありませんでした。
お酒を飲んでいるときに1人を犠牲にしても良いと答えた人はシラフのときも同じ答えを選んだのです。
お酒は人を変えない
アルコールが脳まで回ると理性を司る大脳新皮質の活動が低下します。
これによって普段は抑えている衝動や本性をそのまま出してしまうようになります。
トロッコ問題はどちらを選んでも非難されるようなものではありません。
どちらの選択もそれなりの理由付けがなされるからです。
つまり酔っていないときでも本音を隠す必要はありません。
そして実際に酔ったときも同じ回答となりました。
仮にお酒が人を変えるのだとしたら回答にはバラつきが生じるはずです。
しかしそうはなりませんでした。
これを暴力に当てはめてみましょう。
暴力は非難の対象となりますから理性があるときは隠そうとする人もいます。
それでも酔っ払うと暴力を振るってしまう人がいます。
お酒は人変えないのに暴力を振るったりモラハラ発言をするということは元からそういう人間だったということです。
お酒は人を変えません。本性を暴くだけです。