恋人関係はいつでも順調に進むわけではなく、すれ違いが生じることもあります。
そこで大切なのが「話し合い」です。
お互いに希望や不満を伝え、すり合わせることで、より良い関係が築かれます。
しかし、中には恋人との話し合いを極端に避ける人もいます。
真剣な話が始まりそうになると、話題を逸らしたり、黙り込んでしまったりするのです。
当方に相談に来ている人からも「話し合いになると彼氏が逃げてしまって何も解決しない」という悩みはよく聞きます。
このような態度を取られると「私のことを軽んじているのでは?」「関係を大事に思っていないのでは?」と不安になったり、苛立ちが生じることもあります。
しかし、彼氏が話し合いから逃げるのは、無関心さや無責任さだけが原因とは限りません。
無意識に働く心理的な要因が関係していることもあります。
その要因の一つが「防衛的排除」です。
防衛的排除とは
防衛的排除(Defensive exclusion)とは、不快な感情やストレスの原因となる情報を「意識」の中に上らせないようにする、無意識的な心のメカニズムです。
簡単にいうと、辛くなったり、不安になる内容を、見ないようにしたり、考えないようにすることです。刺激が心の深い部分に入ってくる前にシャットアウトするのです。
例えば、他者と深く関わるのが苦手な人の場合、彼女がどう感じているかを聞かされたり、自分の心の内を話すように求められると、心が乱される前兆と感じます。
そこで、防衛的排除が働いて、心を閉ざしたり、そこから逃げたりするのです。
あなたの彼氏が、真剣な話し合いから逃げようとしているのなら、誰かと親密な関係になることに対して、恐怖心や不快感を持っているのかもしれません。
他者との親密さを避け、自立を重視する傾向が強い人のことを、「回避型」の愛着スタイルを持っているといいます。
そして、このタイプは親密さに関する事柄に対し、防衛的排除が働きやすいことが分かっています。
回避型は話し合いの内容も覚えていない
情報をシャットアウトするメカニズムが働くということは、そこに注意を向けないようにするということでもありますから、記憶にも残りにくくなります。
彼氏が前に話し合いをしたことを全く覚えていない、ということが起こるのも、「恋愛関係に対する深い話」に対して防衛的排除が働いている影響です。
さきほども書いた通り回避型ほどこのようなことが起こりやすくなります。
愛着に関する情報と記憶
そしてこのことは、ミシガン大学のロビン・エデルスタイン教授の実験からも分かっています。
この実験では、255人の男女に記憶テストを行いました。
具体的には、提示された計算式を声に出して読み、そこに書かれた答えが正しいかどうかを判断し、その後に記憶するべき単語が表示され、それを声に出して読む、ということとを繰り返しました。
このとき記憶すべき単語には以下の3種類がありました。
- 感情に関する単語(例:理想、衝突)
- 愛着に関する単語(例:抱擁、悲しみ)
- 中立的な単語(例:会計、市長)
回避型は愛着に関する情報を遮断するので覚えられない
それぞれの種類の単語をどれくらい覚えていたかを分析したところ、回避型の人は、「愛着に関する単語(=人間関係の親密さを表現するもの)」に対する記憶が悪いことが分かりました。
「感情に関する単語」や「中立的な単語」と比べて、少ない数しか覚えていなかったのです。
しかも、これは、内容がポジティブかネガティブかに関係ありませんでした。
愛着に関する単語は、「抱擁」のようなポジティブなものでも、「悲しみ」のようなネガティブなものでも、覚えにくかったのです。
これは、回避型の人が、親密さを避けるため、そういったことに関する情報をシャットアウトしようとする「防衛的排除」が無意識に働いているためと考えられます。
その単語が表示された瞬間から、心の中に入り込ませないメカニズムが働き、覚えることができなかったのです。
なぜ回避型ほど防衛的排除が働くのか
回避型の人ほど防衛的排除が働きやすいのは、他人との深い関わりや感情的なやりとりに不安や苦手意識を持っているからです。
こうした人たちは、子供の頃に親など身近な人から十分な愛情や安心感を得られなかったことが多く、それによって「感情的な近接は傷つくことにつながる」という考え方が心の中にできあがります。
そして、大人になってからも、人との親密な関係や感情に関わる話題に直面すると、無意識にその情報を避けようとするのです。
恋人との話し合いというのは、まさに感情的な接近ですから、回避型の人にとっては、強い精神的負担となります。
そのため、苦しくなる前に逃げ出したり、心にバリアを張り、聞いているような素振りだけで、やり過ごそうとするのです。
話し合いから逃げる回避型とどう接すれば良いのか
このような回避型の特徴を持つ彼氏に対し、「もっと気持ちを話して」「ちゃんと向き合って」などと強く求めると、かえって心を閉ざしてしまう可能性があります。
回避型の人は、自分の感情を表現することに不安や抵抗を感じています。そして、これを改善するには時間が掛かります。
前提として、あなたが「信頼に足る人物である」と認識されなければなりません。
今の段階でできることは、話したいときに話せる心理的スペースと時間のゆとりを提供することです。
それによって、少しずつ安心感と信頼を醸成することが大切です。
参考文献:Robin S. Edelstein. (2006). Attachment and Emotional Memory: Investigating the Source and Extent of Avoidant Memory Impairments.