こちらに恋愛の相談に来ている人は、自分を大切にできていないことが多いです。
何でも恋人の都合に合わせてしまったり、心身ともに傷つけられても我慢し続けたりしています。
そうすることで、いつか「本物の愛」を与えてもらえると、無意識に信じてしまっているのです。
しかし、残念なことに、自分を大切にしない人が、相手から大切にされ、愛されることは滅多にありません。
「この商品(=自分)は大したことないです」と宣伝しているのと同じだからです。それに価値があると思ってくれる人はいないのです。
まともな恋人は去ってゆき、ダメな恋人だけがあなたから搾取するために留まり続けることになります。
そこから抜け出すためには、意図的に自分を大切にする習慣を身につけることが必要です。
「セルフ・コンパッション」を習慣化すると自分を大切にできる
そのため、自分を大切にするという感覚が分からず、余計に大切にしてくれない人を引き寄せる、という悪循環に陥りがちです。
自分を大切にするといっても、どうすれば良いのか分からないという人も多いでしょう。
そのような人でも問題はありません。
最近の心理学の世界でよく言われるようになった「セルフ・コンパッション」というものがあります。日本語でいうと「自己への思いやり」です。
これはその名の通り、他人を思いやるように、自分を思いやり、大切にするというものです。
失敗したときや自分に自信が持てないときに、自分を責めるのではなく、やさしく受け入れる態度のことを指します。
セルフ・コンパッションは、以下の3つが基本的な要素となります。
- 自己への親切:自分に対して優しく、理解ある態度を持つ。(例:「うまくいかなくても、自分を責めすぎなくていい」)
- 共通の人間性:誰しも失敗したり、つまずくことがあると理解する。(例:「みんな同じようなことで悩むものだ」)
- マインドフルネス:ネガティブな感情を抑えつけたり、過剰にのめり込んだりせず、バランスの取れた形で感じ取る。(例:「今は辛いけど、その感情をありのままに見つめよう」)
上記の考え方を意図的に持つことで、やがて自然と「自分を大切にする思考」が生じてくるようになります。なぜなら人間の脳には可塑性があるからです。
「自分を大切にすること」と恋愛の質の関係
心理学者のクリスティン・ネフ博士が提唱した、この「セルフ・コンパッション」の考え方は、近年さまざまな研究で、ストレス軽減や幸福感の向上と関連があることが示されています。
それだけではなく、恋愛にも良い影響を与えることが、マルティン・ルター大学のロバート・コーナー博士らの研究で明らかになっています。
この研究では209組のカップルを対象に、日常的にセルフ・コンパッションを取り入れているかと、恋愛関係の質を調査しました。
その結果、セルフ・コンパッションの程度と、恋愛関係の質が広く関連していることが分かりました。
つまり、自分大切にしている人は、恋愛関係にもポジティブな感情を持ちやすい傾向があったのです。
特に、性的な満足度、関係の将来性に対する前向きな見通し、そしてパートナーへの信頼感などに強く関係していました。
自分だけではなく恋人の満足度にも効果がある
今回の研究では、ここまで説明した「基本的なセルフ・コンパッション」だけではなく、「関係特化型のセルフ・コンパッション」についても調査しています。
関係特化型のセルフ・コンパッションとは、恋愛関係という特定の文脈において、自分にどれだけ思いやりを向けられているかを測る概念です。
恋人と喧嘩したときや、相手にうまく気持ちを伝えられなかったとき、自分を責めずにバランスの良い捉え方ができるかなどに焦点が当てられます。
研究の結果では、この関係特化型のセルフ・コンパッションを持っている人ほど、恋愛関係に質や満足度が高いという、先ほどと同様の効果が見られました。
さらに、驚くことに、本人が関係特化型のセルフ・コンパッションを持っていると、その影響が恋人にまで及ぶということです。
恋人が持つ、二人の将来に対する期待や、関係の満足度まで高める効果があったのです。
なぜ関係特化型のセルフ・コンパッションが恋人にもプラスの影響を与えるのか?
なぜ関係特化型のセルフ・コンパッションが恋人にもプラスの影響を与えるのでしょうか?
それは、「自分を大切にする態度」が、そのまま相手への接し方にも表れるからです。
【理由1】恋人を責めたり執着したりせずに済むから
たとえば、恋人とのケンカやすれ違いがあったとき、自分に厳しい人は「なんでこんなこともできなかったんだ」と自分を責めすぎたり、感情的になってしまうことがあります。
そして、そのストレスや暗い雰囲気が相手にも伝わり、関係に悪影響を及ぼすことがあります。
一方で、関係の中で自分を大切にできる人は、「まあ、うまくいかないときもある」「自分も人間なんだから完璧じゃなくていい」と受け入れることができます。
すると、感情のコントロールがしやすくなり、相手を責めたり、執着したりせずに済むのです。
【理由2】恋人にとって「一緒にいて心地よい存在」になれるから
また、自分にやさしい人は、パートナーにもやさしくなれます。
相手の失敗や欠点を、責めるのではなく「そういうこともあるよね」と受け止めることができるからです。
こうした態度は、関係全体に安心感や信頼感を生み出し、恋人の恋愛満足度も自然と高まっていくのです。
つまり、自分を大切にする人は、無意識のうちにパートナーにとっても「一緒にいて心地よい存在」になっているのです。
これが、関係特化型のセルフ・コンパッションがパートナーにも良い影響を与える理由です。
⇒彼氏と別れるのが怖いならセルフ・コンパッションを実践しよう
恋愛の中で自分を大切にする実践的な方法
重要なのは、関係特化型のセルフ・コンパッションが、恋愛関係という「限定された状況」で発揮されるものだということです。
例えば、仕事では自分に厳しいけれど、恋愛ではやさしく自己受容できるというような場合も含まれます。
このことを知れば、完璧主義な人でも、「せめて恋愛の場面だけでも取り入れよう」と気軽に考えられるのではないでしょうか?
以下に具体的な実践方法を説明します。
1.ケンカやすれ違いが起きても自分を責めすぎない
うまくいかない場面で「自分のせいだ」「私はダメだ」と考えすぎるのではなく、「誰にでもミスはある」「完璧な人間なんていない」と、自分を落ち着かせる声かけをしましょう。これは「自分へのやさしさ」を育てる重要な行為です。
2.感情に飲まれそうになったら少し距離をとる
イライラや悲しさが湧き上がったとき、それを否定したり我慢したりせず、「ああ、私は今こう感じているんだな」とそのまま受け止めてみましょう。感情と距離をとる「マインドフルネス」の練習になります。
3.「誰にでも起こること」と考えるクセをつける
恋人との衝突や不安があると、「なんで私だけ…」と感じがちです。そんなときは「こういうことは人間関係につきもの」「誰もが経験すること」と考え直すことで、「共通の人間性」への意識が育ちます。孤独感も和らぎます。
4.反省するときは冷静になり自分を罰しない
「あの言い方はきつかったかも」と思ったら、「次はもう少しやわらかく言おう」と建設的に考えるようにします。「なんであんなこと言ってしまったんだろう」と過去にとらわれて自己を攻撃するのではなく、前向きな学びに変えていく姿勢が大切です。
5.自分にかける言葉を変えてみる
恋人とのやり取りで落ち込んだとき、「私はどうせ…」ではなく、「よく頑張ったね」「苦しいけど、ちゃんと向き合ってるね」と、自分が親友にかけるような言葉を、自分にもかけてみてください。自分の努力や価値を認めることができ、自分への信頼感が高まります。
自分を大切にすることは、相手を大切にする土台
このように、関係特化型のセルフ・コンパッションは難しものではなく、ちょっとした思考のクセや言葉づかいを変えるところから始まります。
自分を大切にすることは、相手を大切にする土台にもなります。
特に、愛着が不安定な人や、自己肯定感の低い人にとって、こうした内面からのアプローチは大きな力を持っていますから、ぜひ取り入れてみてください。。
参考文献:Robert Körner, Nancy Tandler, et al. (2024). Is caring for oneself relevant to happy relationship functioning? Exploring associations between self-compassion and romantic relationship satisfaction in actors and partners.