機能不全家族とは養育すべき立場にある人間がその役割を果たしていない家族のことです。
このような環境で育つとアダルトチルドレンになったり、恐怖症やトラウマを抱えたまま大人になる可能性が高まります。
特徴と影響
機能不全家族で育つことの苦しみは子供時代に辛い思いをすることだけではありません。
大人になった後もその体験に苦しめられることになるのです。
機能不全家族の特徴とその後にどのような悪影響が表れるのかについて説明します。
虐待
大人になってから問題を抱えたパートナーを選ぶ人は幼少期に虐待を受けていたケースが多いです。
虐待には身体的なものだけではなく精神的なものや育児放棄(ネグレクト)も含まれます。
また直接何かをされなくても他の家族がされているのを目の前で見せられるのも虐待です。
このような機能不全家族で育つと判断力のない子供は「自分が悪い」と思い込んでしまうことがあります。
そしてその思考の癖が大人になった後も消えないため酷い扱いをされてもそれを受け入れてしまうのです。
健全な相手とのコミュニケーションにも困難を抱えるようになります。
依存症者
外国で「機能不全家族」といった場合には依存症者を抱えた家族が例として挙げられることが多いです。
アダルトチルドレンという言葉も元々はそのような家庭で育ち大人になった人々を指す言葉でした。
(それが今は生き難さの原因が生育環境にあった人を広く示す言葉として広がっています)
依存症者を抱えた家族では常にその者が家族の中心となり配偶者や子供を振り回します。
依存症者の予測不能な行動に対処するために常に緊張を強いられるのです。
そして「自分の感情や欲求を優先してはいけない」という暗黙のルールが作られ皆がそれに従います。
他人を優先する習性が身についてしまうとダメな相手の面倒を見ることに生きがいを感じているような錯覚に陥ることがあります。
また幸せな人生を手に入れてもそこに違和感を覚えるようになってしまうのです。
性的虐待
家庭内で起こる性的虐待は統計として発表されている数字以上に起こっていると考えられます。
被害者になってもそれを誰かに相談することが出来ない場合もあるからです。
性的虐待を受けると自分の体が汚れたもののように思えてしまい自傷行為に走ることがあります。異性への恐怖にもつながります。
(関連記事:非自殺的な自傷行為としてのセックス)
また不特定多数と性交渉を持つことで「私の身に起こったことは大したことではない」と思い込もうとする防衛機制が働くこともあります。
性的虐待には入浴を覗いたり性的な質問をぶつけること、目の前で行為を行うことも含まれます。
子供の見える場所にに成人向雑誌を置いておくことも同様です。
レールを敷く親
レールを敷く親には2つのパターンがあります。
1つは自分や配偶者の人生に納得がいっていないため子供を通してやり直しをしようとする親です。
そしてもう1つは自分の人生こそ正しいものと思い込み同じことをさせようとする親です。
「お父さんのようになってはダメよ」もしくは「お父さんみたいに良い大学を出て良い会社に勤めるのよ」といったセリフで洗脳します。
このタイプは子供が失敗したときにフォローしません。それどころか期待を裏切ったと子供を攻め続けます。
すると子供は自分に無能というレッテルを貼りますからその後の人生が上手くいきません。
親の期待通りに育っても問題は起こります。
この場合の子供は親にとっての作品だからです。
就職にも結婚にも親が口出しをしてきます。
また母親と娘という組み合わせの場合は嫉妬が芽生えることがあります。
自分の成し遂げられなかった人生を娘が歩んでいることに対して嫉妬して攻撃します。
すると娘は罪悪感を抱き母親の理不尽な要求に従わざるを得なくなったり、問題のある異性を選ぶようになります。
甘やかす
甘やかしすぎる親も自立の機会を奪うという意味で機能不全家族を作っているといえます。
生まれたばかりの頃は周囲の人間が全ての世話をしてくれるため子供は全能感を得ます。
これは他人への信頼の土台となる体験ですから重要なことです。
しかしある程度成長したところでその全能感を壊してあげることも必要です。
そうしないと1人では何も出来ない大人や他人に対して尊大な態度ばかりとるナルシストに育ってしまうのです。
機能不全家族の連鎖
機能不全家族の深刻な問題として世代間で連鎖してしまうということが挙げられます。
これにはいくつかの心理的な原因が考えられます。
慣れと安心感
酷い扱いをする相手を選んで別れられないのは慣れと安心感です。
どんなに相手が悪くても「私にも原因がある」と考える癖がついているのです。
これは機能不全家族の中で酷い扱いをされ続けたことで身についたものです。
また潜在意識ではそのような相手であれば見捨てられることはないだろうという安心感も持っています。
このような相手と結婚すると親と同じような家庭を作ることになります。
そして健全な家族のあり方というものが分からないために疑問を持たずに好ましくない家族の状態を放置してしまうのです。
やり直し
自分は小さい頃に寂しい思いをしたから子供には絶対に同じ思いはさせないと考えるのは健全な思考です。
その通りの家庭をつくり幸せな生活をしている人もいます。
しかし中にはそれでは満足できないと無意識に考えている人がいます。
自分の親と同じようなダメな相手を更生させて幸せを築かなければならないと考えているのです。
このような思考を持っている人はダメなパートナーを選んでしまいます。
そしてそれを更生させることは難しいため親と同じような機能不全家族を作ってしまうのです。
攻撃対象の変更
虐待された心の傷は何年も残り続けます。
それが怒りとして子供に向いてしまうことがあります。
このように感情をぶつけるべき相手を他に変えることを心理学では「置き換え」と呼びます。
これが何世代にも渡って繰り返されます。
同一化
虐待を受けて反撃できなかったことで「自分は弱い人間かもしれない」という思いを持ってしまうことがあります。
大人になってからもその疑問を持ち続けるとどこかで否定しようとします。
そのときに親と同じ行動を取り「自分は弱くなんかない」と思おうとすることがあります。これを「同一化」と言います。
虐待をする側の人間もかつてはされる側だったということです。
機能不全家族の連鎖は誰かが意識して止めなければ下へ下へと続いてしまうのです。
機能不全家族は8割?
全世帯の中でどれくらいの割合が機能不全家族なのかという正確なデータはありません。中には8割が該当するという人もいます。
確かにカウンセリングをしている人間からすればアダルトチルドレンや共依存で相談に来る人は8割どころか9割以上が機能不全家族で育っています。
それを世間一般の割合に当てはめることは出来ませんが私たちが想像している以上に多くの家族が何らかの機能不全を抱えていると思います。
何の問題も抱えていない「機能完全家族」とでも言える家庭のほうが少ないのです。
だからといって全員が生き難さを抱えた大人になるわけではありません。
その境界がどこにあるのかはスペクトラムのような曖昧なものと言えるでしょう。
親からのたった一言がその後の人生を生き難くすることもあります。
他人の家庭との比較よりも自分自身がどう影響を受けているのかということに注目しなければ意味がないのです。