DV加害者の生い立ち:家庭環境の不確実性が与える影響

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ドメスティック・バイオレンス(DV)は深刻な社会問題であり、多くの家庭や個人に重大な影響を与えています。

DV加害者の心理や行動を理解するためには、その生い立ち、特に幼少期の環境がどのように影響しているかを考慮することが重要です。

研究によると家庭環境の不確実性が、成人期におけるDV行為に関連していることが明らかになっています。

家庭環境の不確実性とは?

家庭環境の不確実性とは、子供が成長する過程で経験する家庭内の様々な変動や不安定な状況を指すものです。

具体的には、親の職業が頻繁に変わったり、家族の構成が変わる、すなわち親が再婚して新たな家族ができたり、離婚や別居により同居する大人が入れ替わることが考えられます。

また、住居が何度も変わることも子供にとっては大きな不確実性の要因です。

このような不確実な環境にいる子供は一貫したサポートや安心感を得ることが難しく、常に何かが変わるという感覚を抱えながら育つことになります。

さらに、家庭環境の不確実性は子供に対して「世界は予測不能であり、信頼できるものではない」というメッセージを送ります。

その結果、子供は他者との関係において過度に依存的になったり、逆に極端に自己防衛的になったりします。

それによって、対人関係における基本的なパターンや態度である「愛着スタイル」が健全に形成されなくなります。

つまり「不安型愛着スタイル」を持つことになるのです。

不安型愛着スタイルとDV

発達心理学の愛着理論に基づくと、幼少期に親から十分な愛情やサポートを受けた子供は、安定した愛着スタイルを形成しやすくなります。

一方で、環境が不安定で親のサポートが不足していると、子供は「不安型愛着スタイル」を形成することがあります。

不安型愛着スタイルを形成した子供は、成人後においてパートナーとの関係で強い依存心や、拒絶されることへの過度な恐怖を抱きがちです。

これにより、些細なトラブルやパートナーからの軽い言葉にも過敏に反応し、感情のコントロールが難しくなることがあります。

このような不安型愛着スタイルは、心理的な不安や恐怖を伴うため、パートナーとの関係を維持するために異常な努力をしたり、場合によっては暴力的な手段に訴えることもあります。

DV行為はその一環として現れることが多いです。パートナーを失うことへの恐怖から、相手をコントロールする手段として暴力を使うのです。

家庭環境の不確実性が、不安型愛着スタイルを形成し、DVにつながる

家庭環境の不確実性が、不安型愛着スタイルを形成し、それがDVにつながることは、オークランド大学のニコール・バルバロ博士らの研究からも分かっています。

この研究の参加者は、0歳から5歳までの間に経験した家庭内の不確実性について報告しました。

具体的には、母親や父親の職業変更の回数、居住地の変更回数、そして生物学的父親以外の成人男性が家庭に滞在した回数を報告しました。

また、現在のパートナーとの関係における愛着スタイルを測定するために、『Experiences in Close Relationships Scale–Revised (ECR)』という質問票に回答しました。これは愛着の不安定さなどを評価する36項目の質問からなるスケールです。

さらに、DV行為について測定するために『Revised Conflict Tactics Scale (CTS2)』にも回答しまし。これは、心理的攻撃、身体的攻撃、そして性的強要の3つの領域でDV行為の頻度を評価するためのスケールです。

特に男性の不安型愛着スタイルはDV行為の主要な予測因子

これらの回答を分析したところ、幼少期の家庭環境の不確実性と不安型愛着スタイルには相関があることが分かりました。

また、不安型愛着スタイルがDV行為と密接に関連していることも明らかになりました。男性の場合、不安型愛着スタイルはDV行為の主要な予測因子であり、幼少期の不確実性がその形成に大きな影響を与えていることが示されています。

女性においても不安型愛着スタイルがDV行為と関連していることが確認されましたが、男性ほどの強い関連性は見られませんでした。

この違いは、女性が一般的に社会的支援やネットワークを重視し、関係性を維持するために他の方法(例:感情的なサポートを求める、対話を重視する)を選ぶことが多いからかもしれません。

DV加害の原因が生い立ちにあるケースは多い

不安型愛着スタイルを持つ人は、他者との関係において常に不安や恐れを抱いています。

この不安感は特に親密なパートナーとの関係において強く表れ、パートナーが自分を見捨てるのではないかという恐れが暴力行為を引き起こすことがあります。

例えば、男性がパートナーに対して身体的な攻撃を行う場合、その背景には「パートナーが自分を拒絶するかもしれない」「他の男性と関係を持つかもしれない」といった強い不安が存在することが多いです。

また、不安型愛着スタイルによって生じる恐れは衝動的な行動や感情制御の欠如と結びつくこともあり、それが暴力行為の一因となることもあります。

もちろんDVをする原因は様々であり、一概に言えませんが、私が相談を受けている中で聞くエピソードでも、生い立ちに原因があるケースは非常に多いといえます。

恋愛依存症に陥っている人の場合、DV加害者に対し「自分なら変えてあげられる」という幻想を抱いてしまうこともありますから、気をつけましょう。

そのような幻想を持ってしまうのは、自分の心も安定していない何よりの証拠なのです。

参考文献:Barbaro N, Shackelford TK. (2019). Environmental Unpredictability in Childhood Is Associated With Anxious Romantic Attachment and Intimate Partner Violence Perpetration.