ネット上にはアダルトチルドレンを診断するためのチェックリストが出回っています。
多少の差異はあれど内容はどれも同じようなものです。他のサイトに掲載された診断チェックリストを参考に新たなものが作られますから内容が似るのは当然です。
しかしこれらのチェックリストではアダルトチルドレンを診断することはできないという研究が発表されました。
(そもそもアダルトチルドレンは医学的に診断するものではないですが)
アダルトチルドレンの診断チェックリスト
説明に入る前に有名なアダルトチルドレンの診断チェックリストを紹介しておきます。
チェックを入れると最終的に適合度がパーセンテージで表示されます。
(表示されない場合は再読み込みを行ってください。FireFoxブラウザでは表示されないことがあります)
アダルトチルドレンの正式な診断チェックリストは存在しない
上記のチェックリストは心理学者のアンジェイ・マルガチスキがアダルトチルドレンの研究に用いたものです。
アダルトチルドレンの正式な診断チェックリストというものは世の中に存在しませんから、ネット上で「アダルトチルドレンの診断チェックリスト(ACDFs:Adult Children of Dysfunctional Families)」として掲載されているものの多くに共通する項目を抽出して作成したのです。
ほとんどの有名なサイトに載っている質問項目が似通ったものだったそうです。つまり欧米で一般に使われているリストといえます。日本のネット上に掲載されているものも内容はほとんど同じです。
チェックリストで本当にアダルトチルドレンかどうかを診断できるのか?
そしてここからが非常に重要な話なのですが、そもそもこれらのチェックリストで本当にアダルトチルドレンかどうかを診断することは可能なのでしょうか?
それを調べたのがアンジェイ・マルガチスキの研究なのです。
家庭環境の調査と診断チェックリストへの回答
この研究では100人以上の参加者の生まれ育った環境が機能不全家族かどうかを調べました。
具体的には虐待をする親や働かない親、アルコール依存の親などがいたかを確認しました。
そして機能不全家族グループとそうでないグループに分類しました。
また、さきほどのアダルトチルドレンの診断チェックリストにも回答してもらっています。
もしこのチェックリストがアダルトチルドレンを診断できるものだとしたら機能不全家族グループとそうでないグループの回答には違いが出るはずです。
どんな家庭で育っても回答結果に差は出ない
回答を分析したところ、機能不全家族グループとそうでないグループには統計的に有意といえる差はありませんでした。
機能不全家族で育っていようとなかろうと、アダルトチルドレンの診断チェックリストの回答は同じになるということです。
つまりチェックリストによって診断することは不可能ということになります。
ちなみに項目別に見た場合に有意差が出たのは「自分に対する評価が厳しく自己肯定感が低い」と「常に緊張しているせいで楽しみや喜びを味わうことに困難を感じている」の2つの質問だけでした。
他の項目では機能不全家族で育っていない人のほうが「はい」と回答する率が高いものもありました。
バーナム効果が発生している
なぜアダルトチルドレンである可能性が高いグループとそうでないグループで回答に差が出ないのでしょうか?
それは「バーナム効果」が発生しているからです。バーナム効果とは誰でも当てはまりそうな抽象的な説明でも自分の性格によく当てはまると感じてしまう現象です。
例えば「性格検査の結果あなたには次のような特徴があると判明しました」と言われたとします。
- 自分の判断が正しかったかどうかを真剣に疑うことがある
- 外見的にはしっかり取り繕っていても内心は不安を抱えていることもある
多くの人は当たっていると感じてしまったのではないでしょうか?これがバーナム効果なのです。
上記の文言はバーナム効果を証明したバートラム・フォアが実際の実験で使用したフレーズを簡略化したものです。
余談ですが占い師の言っていることが当たっていると勘違いしてしまうのもこの効果によるものです。
アダルトチルドレンの診断チェックリストもバーナム効果
見返してもらえば分かりますが、アダルトチルドレンの診断チェックリストもバーナム効果が起こりやすい質問が多いです。
実は今回の研究ではバーナム効果についても調べていました。
さきほど紹介したような文言が自分の性格にどれくらい該当するかを回答してもらっていたのです。
その結果も機能不全家族グループもそうでないグループも差はありませんでした。
どちらも抽象的な質問に対して高確率で自分の性格に当てはまると回答していました。
つまりアダルトチルドレンの診断チェックリストの回答に差が出ないのはバーナム効果が発生しているからということです。
アダルトチルドレンは正式に診断できない
うつ病やパーソナリティー障害の診断にはチェックリストが用いられます。
『DSM(精神障害の診断および統計マニュアル)』や『ICD(国際疾病分類)』といったエビデンスに基づき作成された専用のリストがつかわれるのです。
むしろこれらのマニュアルへの掲載が決定されることでその病気や気質は正式に認められるといったほうが良いでしょう。最近では「ゲーム障害」がICDに掲載され広く認知されるようになりました。
アダルトチルドレンはこれらのマニュアルには一切掲載されていません。
共依存などに関する研究で知られる精神科医のティメン・セルマクなどが人格障害の一つとして掲載することを提案したことがありますが、アダルトチルドレンを一義的に定義することが難しいとして却下されています。
つまりチェックリストでアダルトチルドレンを診断することは不可能なのです。
アダルトチルドレンかどうかのたった一つの基準
チェックリストが当てにならなければ自分がアダルトチルドレンかどうかどのように判断すれば良いのか分からなくなる人もいるでしょう。
そのような人もたった一つの基準で判断できます。
それは「生きづらさの原因が問題を抱えた家庭(機能不全家族)で育ったことにあると自分で思っているかどうか」です。
アダルトチルドレンを一言で表すならこのワンフレーズにつきるのです。
そもそもアダルトチルドレンの定義そのものが時代とともに変遷し、明確に定まっていないのです。人によっても言っていることが違います。
なので定義にこだわるよりも自分自身にフォーカスしましょう。
診断チェックリストと自己成就予言
全く根拠のないことであっても自分でこうなるのではないかと思い込んでいると、無意識に行動がその方向に行ってしまい、本当にその通りになってしまうことがあります。
これを社会心理学で「自己成就予言」と言います。
アダルトチルドレンの診断チェックリストを見ることで「自分はこういう特徴がある」という認識を強めてしまうと失敗や不幸に遭遇しやすくなってしまう可能性があります。すると余計に自己肯定感は下がってしまいます。
なのでアダルトチルドレンの診断チェックリストのように明確なエビデンスの存在しないものは参考程度に考えておきましょう。
参考文献:Andrzej Margasiński. (2021). Traps of psychological diagnosis on the example of the Barnum effect and the so-called syndrome of adult children from dysfunctional families.