HSPの特徴の一つに痛覚刺激に敏感というものがあります。
痛みや熱さ圧迫などの刺激への感受性が強いのです。
いつもその状態の人もいれば時々そうなってしまうという人もいます。
時々そうなってしまうという人は睡眠不足が原因かもしれません。
睡眠サイクルがわずかに狂うだけでも痛みへの敏感さが強まるという研究結果もあります。
動物実験の話ではありますが睡眠不足のときは鎮痛剤が作用しない可能性もあります。
睡眠不足のときは痛みを感じやすく緩和もされ難い
カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは25人の健康な若者の足に不快なレベルの熱刺激を与え、脳の神経メカニズムのシグナルを測定しました。
被験者は熱による痛みを10段階で評価して不快感を報告します。
睡眠時間によって感じ方が変化する
最初にしっかりと睡眠をとった状態で熱刺激を与えました。
そのときは平均して華氏111度(摂氏約44度)で不快に感じると報告しました。
次に睡眠不足の状態で熱刺激を与えました。
すると痛みを感じるのが早くなり多くの被験者が華氏107度(摂氏約42度)で不快に感じると報告しました。
つまり睡眠不足によって痛みに対する感受性が上がったといえます。
痛みを和らげる機能も低下する
睡眠不足は脳の体性感覚野の反応を拡張することで痛みへの感受性を高めます。
睡眠不足のときは体性感覚野の反応が126%高まるという実験結果も出ています。
またドーパミンレベルを高めて痛みを弱める報酬系や状況に合わせて体の反応を準備するための島皮質の活動も低下させます。
睡眠不足は痛みを感じやすくするだけではなくそれを和らげる機能も低下させるのです。
睡眠のリズムのわずかな変化でも影響する
他の調査ではオンラインで230人以上の成人に数日間にわたる夜間の睡眠時間と日々の痛みのレベルを報告してもらいました。
その結果、睡眠のリズムがわずかに変化するだけでも痛みへの感受性が変動するということが分かりました。
睡眠不足のマウスは鎮痛剤が効かない
動物実験での話ですが睡眠不足によって痛みへの感受性が高められると鎮痛剤が効かないという結果も出ています。
ハーバード大学の実験
ハーバード大学ベスイスラエルディーコネスメディカルセンターのクロエ・アレクサンドラ博士らの研究によると意図的に睡眠不足にさせられたマウスは痛みへの感受性が高まるということが分かりました。
眠れないことのストレスじゃないか?と思うかもしれませんがそうではありません。
なぜならマウスにストレスを与えずに起き続けさせるためにオモチャで遊ばせたりしながらストレスホルモンを計測しましたが正常な状態だったからです。
「人間でいうならテレビを見続けて夜更かしをするようなものだ」と研究者は言っています。
鎮痛剤も効果を発揮しない
マウスは睡眠不足によって痛みを感じやすくなるだけではなく、それを取り除くための鎮痛剤(イブプロフェン)も効果を発揮しないことが分かりました。
モルヒネでさえほとんど効果がなかったのです。
しかし覚醒を促進するために使用されるカフェインとモダフィニルは痛みをブロックしたのです。
睡眠不足ではないマウスには効果がありませんでした。
眠気をなくすと鎮痛効果がもたらされる?
カフェインとモダフィニルはともに覚醒作用を持っていますが、作用の仕組みは異なります。
カフェインは眠くなる物質をブロックするもので、モダフィニルは詳細な作用機序は不明ですが神経細胞を活性化し覚醒させると考えられています。
つまり眠気をなくしたことが鎮痛効果をもたらしたと考えるのが自然です。
ちなみにここでいう睡眠不足とは1日だけのものに限りません。
睡眠時間の短い日が数日間続いたときも同じ反応が起こるのです。
研究が進めば人間でも同じことが証明されるかもしれません。
【参考文献】
Adam J. Krause, et al(2019)The Pain of Sleep Loss: A Brain Characterization in Humans.
Chloé Alexandre, et al(2017) Decreased alertness due to sleep loss increases pain sensitivity in mice.