自分の感情がわからない人は「感情の粒度」が低い。放置すると危険

カウンセリング予約
アダルトチルドレン、恋愛依存症、回避依存症、共依存、愛着障害の相談・カウンセリングを行っております。
対面・オンライン・電話で対応いたしております。

何となく落ち込んだり悲しい気分のとき、それを上手に表現できると感情が整理され立ち直るのも早くなります。

しかし、中には「自分の感情がわからない」という人もいます。

不安な気持ちが生じているのは認識しているのに、それをもっと具体的に言語化することができなかったりするのです。

それによって、不安だけではなく混乱まで生じてしまうこともあります。

このような人は「感情の粒度」が低いのです。この状態を放置するとメンタルに悪影響が出ますから気を付けなければなりません。

感情の粒度とは

感情の粒度とは「自分が感じている感覚をどれだけ細かく区別して理解できるか?」という度合いのことです。

感情の粒度が高い人は自分の感情を具体的に表現することができます。

例えば仕事で失敗をしてネガティブな感情が生じたとき、「同僚と比べて能力が低いという劣等感を覚えている」「上司に迷惑をかけたので評価を下げられないか心配している」といったように明確に捉えることができます。

これに対して、感情の粒度が低い人は「何となく嫌だ」「ただ落ち込む」と大まかな捉え方になりがちで、具体的に何を感じているかが不明確になります。

こうした違いはメンタルのバランスにも影響します。

感情の粒度が高ければ自分の状態を正しく把握できるため、それに適した対処法を選ぶことができます。

例えば「座りっぱなしのデスクワークで苛立っているから、ジムで体を動かしてストレスを発散させてこよう」といった選択ができるのです。

逆に感情の粒度が低ければ自分の状態を漠然としてしか捉えらないため、適切な対処法を選べずに間違った行動をして、余計にストレスを長引かせてしまうこともあります。

自分の意見がない人は「評価欲求」が低いのです

感情の粒度は「日常生活の多様性」によって変わる

では、感情の粒度を高めるにはどうすれば良いのでしょうか?

それは経験の多様性を高めることです。

日常生活での経験と感情の粒度の関係を検証した、カンザス大学のケイティ・ホーマン助教らの研究があります。

この研究では、参加者に日々の出来事を日記で記録させ、そのときの感情について評価してもらいました。

これらの記録を分析したところ、日常生活で様々な経験をしている人ほど、感情を細かく分類して評価する傾向にあることが分かりました。

つまり、多様な活動に触れている人ほど、「ただ嫌な気分」と感じるのではなく、「恥ずかしい」「苛立ち」「罪悪感」といったように、より明確に区別して捉えていたのです。

経験の中で学習するから感情の違いを認識できる

経験の多様性が高い人ほど感情の粒度が細かくなる理由には、脳の学習の仕組みや感情の性質が関係しています。

人間というのは感情を生まれつき固定的に持っているわけではなく、日常生活の中で経験を積み重ねながら「このような状況ではこういう感情が生じやすい」というパターンを学習します。

同じ「怒り」でも、失礼な態度に対する「憤り」と、予定が遅れてしまったときの「苛立ち」とでは意味が異なります。

経験の多様性が高い人は、こうしたさまざまな文脈で感情を経験し、それぞれの違いを脳が統計的に学習していくため、「怒り」の中でも微妙な違いを区別できるようになるのです。

脳の予測が精密になるほど適切な感情概念を呼び出せる

脳科学的な観点では、人間の脳は予測装置として働くと考えられています。

私たちは出来事が起きてから反応しているように感じますが、実際には脳は常に先回りして「この状況では何が起こりそうか」「そのとき自分はどんな感情や身体反応を経験するだろうか」といった予測を行っています。

そして、その予測の基盤となるのが、これまで積み重ねてきた経験なのです。

経験が多様であれば脳は多くの「事例データ」を持つことになり、状況に応じて精密な予測を立てられるようになります。

予測が精密になると、脳は状況ごとに適切な感情概念を呼び出しやすくなります。それが「似ているけれど異なる感情」を混同せずに認識することにつながるのです。

感情の粒度を高めて言語化することで自分の感情が分かる

ここまで説明したように、感情表現が苦手な人というのは、自分が感じている感情を識別するための「感情の粒度」が低いのです。

そしてこの状態を放置することは、状況にあった対処法が選べないということですから、メンタルに悪影響を及ぼし続けます。

このリスクを避けるためには、日常生活の中でできるだけ多様な経験を積むことが大切です。

新しい活動に挑戦したり、異なる人々と交流したり、普段とは違う環境に身を置いたりすることで感情を引き出す文脈の幅が広がります。

そうすることで、脳はさまざまな状況に応じた感情のパターンを学習し、似ているけれど異なる感情を細かく区別できるようになります。

「感情の粒度」が高まったら、それを言語化する練習もしましょう。言語化すること自体がストレスの解消につながることもあります。

言語化が苦手な人は文学作品を読むと良いです。なぜならそこに出てくる様々な感情表現を取り込むことで、自分が感じていることを掴みやすくなるからです。

参考文献:Hoemann, K., Lee, Y., Kuppens, P., Gendron, M., & Boyd, R. L. (2023). Emotional granularity is associated with daily experiential diversity.