確率的に言えばHSPであり発達障害でもあるという人はいます。しかしこの2つは違います。
発達障害は先天的な障害であるのに対し、HSPは気質です。前者は診断されるものですが後者は診断されるものではありません。
それにも関わらず「私は発達障害かもしれません」と勘違いしてしまうHSPがいます。
なぜ混同してしまうことがあるかというと表面的な特徴の一部が似ているからです。
HSPが発達障害の診断基準を見たときに自分に当てはまっているような気がすることもあります。
特に多いのがアスペルガー症候群と勘違いすることです。
発達障害とは総称のこと
発達障害とは脳機能の発達に関わる障害の総称です。
具体的には自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)を指すことが多いです。
それぞれについて簡単に説明します。
自閉症スペクトラム(ASD)
相手の表情から気持ちを読み取るのが難しく、人間関係やコミュニケーションに困難を伴うことが多いです。
また婉曲的な表現を理解できないことがあります。
同じことの繰り返しやひとつの物事へのこだわりが強い傾向もあります。タイプによっては知的障害や言語障害を伴います。
診断マニュアルの改訂によりアスペルガー症候群はここに包括されました。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)
ADHDの特徴としては集中力がない、落ち着きがない、衝動的に行動してしまうといったものが挙げられます。
どのような特徴が優位に出るかは人によって異なります。
忘れ物が多かったり、じっとしていられないといった問題が生じることもあります。
学習障害(LD)
学習障害とは読み、書き、計算、聞く、話すなどの特定の学習に困難が生じる障害のことです。
文章を読んだり書いたりは出来るけれど数字の概念が理解できずに計算が出来ないといったように能力に偏りが見られることが多いです。
発達障害と勘違いしやすいHSPの特徴
HSPが発達障害と勘違いしてしまうのは一部において似た特徴があるからです。
よく勘違いしてしまう内容についていくつか説明します。
コミュニケーションの問題
感受性や危機感の強さはHSPとそうでない人では大きく異なります。見えている世界が違うといっても良いかもしれません。
鈍感な人には見えないリスクが見えてしまうため1人だけ余計なことをしているように見えることがあります。
また相手の感情が読めすぎるがゆえに先回りしすぎた思考で会話してしまいコミュニケーションが上手く取れないこともあります。
このような対人関係の問題が続くことで自分は自閉症スペクトラムかもしれないという思いを強くするHSPもいます。
集中力が極端に落ちるときがある
HSPは疲労が溜まったり、神経を使いすぎることによって集中力が落ちてしまい回復するまでに時間を要することがあります。
また刺激の強い環境に置かれることでいつも通りの実力を発揮できないということもあります。
いつも集中できないわけではありませんが肝心なときに注意が散漫になってしまうことがあるのです。
それによって「自分は集中力がないのでADHDではないか?」と思っている可能性があります。
驚いたときの反応
HSPは急に名前を呼ばれたり、曲がり角でぶつかりそうになったときに驚いて大きく反応してしまうことがあります。
それが衝動的な行動に見えることがあります。衝動的、突発的な行動はADHDの特徴です。
なぜHSPは自分をアスペルガー症候群だと思うのか?
発達障害であると勘違いしているHSPの中でもアスペルガー症候群だと思っている人が多い気がします。
アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム)の代表的な特徴はその場の雰囲気や相手の表情から状況を理解することが苦手というものです。
HSPの場合は人の顔色を窺いすぎたり、共感しすぎてしまいます。
真逆の特徴を持っているのですが「アスペルガーかもしれない」と相談に来るHSPは多いです。
しかしこの2つが共存している可能性は低いと思います。
空気を読まないとアスペと言う社会
HSPがアスペルガー症候群かもしれないと考える要因はいくつかあります。
最も大きいのは最近の世の中の空気ではないでしょうか?
少しでも場の空気を乱すと軽々しく「アスペかよ」と言う人がいます。
HSP自身が直接言われたことがあるかもしれませんし、誰かが言われているのを聞いたことがあるかもしれません。
ノリが悪い=アスペルガーではない
「アスペ」と言われた経験や、自分でも雰囲気にそぐわない行動をしてしまったという自覚があると「そうかもしれない」と思ってしまうのです。
しかしノリが悪いとかときどき上の空になるからアスペルガー症候群なわけではありません。そもそも正確な定義を知っている一般人などほとんどいないのです。
他人のコンプレックス解消に付き合う必要はない
すぐに「アスペ」と言う人も深く考えているわけではありませんから真に受ける必要はないでしょう。
世間のノリについていけないからと言って気にする必要はありません。
大人になってまで可笑しなノリを強要する人は学生時代に目立てなかったグループにいたコンプレックスを解消しようとしているだけということが多いです。
【関連】HSPが理解されないのは現代人の共感力が低下しているから?
似ている特長もあるが原因と目的が違う
自分でアスペルガー症候群について調べて共通点を見出しているHSPもいるかもしれません。
しかしその場合も自分に当てはまるように捉えているだけというパターンが多いです。
その例をいくつか紹介します。
子供時代に1人でいることが多かった
母親から「あなたは子供のときひとりで遊ぶのが好きだったのよ」と言われたことがあるかもしれません。
ひとりで遊ぶのを好んだり、同じ遊びを何度も繰り返すというのはアスペルガー症候群の子供によく見られる傾向です。
そのため自分でも記憶が定かではない時期のことを一方的に聞かされると勝手に「いつもひとりだったんだ……」と思い込んでしまうのです。
HSPの場合はストレスから他者を遠ざけることもありますが、豊かな内面世界に浸るのが好きだからひとりでいるということもあります。
説明しすぎる
アスペルガー症候群の人の応答の例としてよく挙げられるのが「ここまでどうやって来たの?」という問いに対して細かく説明しすぎるというものです。
交通手段を聞いただけでも「朝7時に起きて、朝食を食べて、歯を磨いて、○○駅から8時30分発の○○線に乗って……」と詳細に話し出すことがあります。
HSPも職場などで必要以上に説明してしまうことがあります。しかしこの場合は伝え忘れやミスを防がなければという意思が強くなっているだけです。
相手の言葉をそのまま受け取ったというのとは異なります。
手順ややり方が変わると混乱する
物事の順番やモノの並びなどに強いこだわりを持つのもアスペルガー症候群の特徴の1つです。
仕事などでも急に手順やマニュアルが変更に耐えられないことがあります。
HSPも同時に複数の仕事を依頼されたり急な予定変更に混乱することがあります。
これは完璧にこなさなければならないという脅迫観念が不安や緊張を呼び起こし目の前のことに集中できなくなるためと考えられます。
間違った定義に惑わされないこと
HSPとアスペルガー症候群には似た特徴も存在します。
しかしそのほとんどは原因や目的が異なるものです。
何でもかんでも「アスペ」と言いたがる世の中の空気に汚染されないようにしましょう。
HSPと発達障害は違う
ここで挙げた以外にも勘違いしやすい特徴はありますが根本的には異なるものです。
HSPにしても発達障害にしても「自分はそうかもしれない」と思って診断基準を読むと本当にそういう気持ちになってしまうものです。
認知にバイアスがかかっていないかということも確認するようにしましょう。
【追記】発達障害のマニュアルは改訂が多いので紛らわしい
余談ですがなぜ発達障害が理解しにくいのかという一つの理由は基準が頻繁に変わるからです。
発達障害の分類はアメリカ精神医学会のDSM(精神障害の診断と統計の手引き)や世界保健機関のICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)などによって決められています。
病院での診断もこれらのマニュアルを元にした聞き取りによって行われることが多いです。
改定される度に分類方法や名称が変更されるため非常に紛らわしくなっています。(例:よく耳にするアスペルガー症候群は自閉症スペクトラムに包括されました)
そのため過去に学校などで説明を受けたことがあったとしても、その時とは名称や診断基準が変わっているので混乱したり勘違いしてしまうのです。
発達障害の原因は特定されていませんが生まれついたものであり育て方や愛情の問題でないことは分かっています。
それと発達障害の人がHSPになりやすいというデータもありません。