子供時代から暴力を受けて育つと大人になってからもその影響が残ることがあります。
例えば健全な自尊心が育たなかったり、他人に対する恐怖心を抱き続けたりします。
そして恋愛においても特徴的な好みを有することがあります。
暴力を受けて育つと、暴力を振るう人を好きになることがあるのです。
実際に私がカウンセリングをしている中でも「いつもDV男ばかり好きになる」という女性は子供時代に親から暴力を振るわれていたケースが多いです。
なぜこのような恋愛ばかりしてしまうのでしょうか?
ボディーガード仮説とは
女性は危険な環境にいると、肉体的に強く攻撃的な男性を好きになるという研究結果があります。
このような効果を心理学では「ボディーガード仮説(Bodyguard hypothesis)」と呼びます。(日本ではほとんど知られていない効果です)
ボディーガード仮説は一時的な恐怖によっても誘発されることが、オークランド大学のサイモン・リーヴらの実験により分かっています。
この実験では参加者をヘビに触れるグループと、触れないグループに分けました。(実際にはオモチャのヘビでしたが、バレないように少しだけ見せました)
ヘビに触れるよう言われたグループは恐怖を感じます。
このような恐怖状態において男性の好みを聞いたところ、ヘビに触れるよう依頼されたグループの女性は筋肉量が多く男らしい顔をした人を好むことが分かりました。
つまり恐怖状態の女性は強そうな男を好きになりやすいということです。
生活環境が与える要因
子供時代に暴力が近くにあると、暴力的な男性に好感を持ちやすいことを示すリバプール大学心理学部の調査データもあります。
こちらはパートナーではなく男友達に対しての選好ですが、環境の与える影響がよく分かる内容となっています。
この調査では参加者の女性が子供時代に住んでいた場所と現在住んでいる場所の郵便番号のデータを取得しています。
それによってその地域の犯罪率の指標から治安を知ることが出来ます。
また暴力、性的暴行、盗難などの犯罪に対する恐怖をどれくらい感じているかも聞き取りました。
そして男友達にするならどんな人が良いか?また実際にいま最も仲の良い男友達はどんなタイプか?ということを11項目で評価してもらいました。
この項目の中には「肩幅の広さ」や「戦いに勝てる能力」「支配性」などがありました。
データを分析したところ、過去と現在の住所の治安、犯罪に対する恐怖と強い男友達(理想も現実も)の選好の間には相関がありました。
つまり治安の悪い場所にいたり犯罪を恐れている女性は男友達にも強さを求める傾向があったということです。
恋愛依存症の環境がつくる恐怖と成人後の錯覚
暴力を受けて育った人はその環境で刷り込まれた恐怖が大人になっても残っていることがあります。世界は恐ろしい場所だと錯覚しているのです。
するとボディーガード仮説が発動することもあります。それがおかしな形になりDV男を好きになったりするのです。
もちろん暴力的で支配的な男性に惹かれる理由はこれだけとは限りません。
要因の一つとして、暴力を受けて育ったことが挙げられるだけです。
しかし、いつも暴力的な人を好きになってしまう人はいま抱いている恐怖感が本物かどうか確かめる必要があります。
社会や他人は怖いものという潜在意識を持っていないでしょうか?
そのような潜在意識があると自分を守ってくれると期待して暴力男を好きになってしまうのです。
あなたの親が暴力的だったからといって、世の中の人も同じように暴力的であると勘違いしないようにしましょう。
⇒周りがみんな敵に見えるのは母親の影響か?(敵対的帰属バイアス)
参考文献
・Reeve, S. D., et al. (2016). Transitory environmental threat alters sexually dimorphic mate preferences and sexual strategy.
・Justina Meskelyte, Minna Lyons. (2020). Fear of crime and preference for aggressive-formidable same-sex and opposite-sex friends.