回避依存症者の中には根拠のない自信を持つタイプが存在します。ナルシスト型と言われることもあります。
このナルシスト型の中でここ数年よくある一例が「将来ビッグになってやる」と口だけ立派な男性です。
彼らは「今の自分は仮の姿であり何年か後には成功している」ということ主張します。(何で成功しているというかは人によって異なりますが起業家やアーティストになるというタイプが多いです)
そして恋愛依存症の女性はそれが口だけなのか本当に実力が備わっているのか判断することが苦手です。
自分に対する評価が低いため自画自賛している人を見ても「本当に優秀な人なんだな」と思い込みやすいからです。
ナルシスト型の男性は容姿には恵まれていたりするので女性の判断力を鈍らせ本当に凄い人のように勘違いしてしまうこともあります。
本人も過去の経験から女性は利用できるものだということを知っています。
なぜ自分を大きく見せようとするのか?
ナルシスト型は自分に能力や才能がないことを本能では理解しています。
しかしそれを認めることで自我が崩壊してしまうため認めようとはしません。ちっぽけな自分を認めることを恐れているのです。
なので「まだ本気を出していないだけ」「周囲に見る目がないだけ」「時代が追いついていないだけ」と自分に暗示をかけようとします。
また周囲からも優秀な人間だと認めてもらうことで高揚感を得ることができると分かっているので大きな口を叩き、自分を実力以上に見せようとするのです。
「起業したい」「メジャーデビューするのが夢」と言っていれば今の自分がショボくても誤魔化すことができます。
彼らは自分と他人を誤魔化すために実力にそぐわない発言や行動をしてしまうのです。これはナルシストの第一段階と言えます。
悪化するとどうなるか?
先ほど説明したようにナルシスト型の回避依存症者は自分が優秀であると思い込むため、そしてちっぽけな自分を守るために大口をたたきます。
この時点では自分の本当の実力を心のどこかでは認識しています。
しかしそれらの行動を繰り返しているうちに本当に自分は優秀なのだと勘違いしてしまうことがあります。
無意識のうちに誤った方法で認知行動療法をしてしまったようなものです。
SNSなどで芸能人や経営者の記事に対して上から目線でコメントを書くようになったりします。(あなたのパートナーは若き成功者や女性の成功者に対し常に批判的な意見を言っていたりしないでしょうか?)
それがさらに暴走すると無謀な事業計画のもと会社を辞めて独立してしまうこともあります。独立までいけばまだ良い方ですがその多くは永遠に「起業準備中」という無職になってしまうことが多いです。
自分の実力と自分に対する評価のバランスが取れない状態に陥ってしまうためおかしな行動を取ってしまうのです。
そもそもなぜナルシストになるのか?
ナルシスト型の回避依存症になってしまう理由はいくつか考えられます。
よくあるパターンとしては過保護な親に育てられたというケースです。
人間は生まれたばかりの頃に周囲の大人が自分のために色々としてくれることによって、自分は価値のある存在なのだという実感を得ます。
これは適切な自尊心を育むためには大切な過程です。赤ちゃんの頃に何でも世話をしたからといって過保護とは言いません。
しかし多くの親は子供の年齢が上がるにつれ自分で出来ることは自分でやらせるようにしたり、我慢することを覚えさせようとします。
そうすることによって子供は全てが自分の思い通りにいくわけではないということを学びます。社会性を身につけ始めるのです。
しかし子供が何歳になっても親が甘やかし続け、何でもしてあげてしまうと「自分は特別な存在なのだ」という認識を永遠に持ち続けることになります。
たとえ本人に実力がなくても環境次第では大学卒業から最初の就職くらいまでは挫折を知らずに進んでいくことも少なくありません。
同世代の平均よりは良い社会的地位を得ることで自分は優秀なのだと顕在意識のレベルでは思います。
しかし心のどこかでは親が与えた環境によって手に入れたものであり自分一人では何も出来ないという感情も持っています。
年齢を重ねるごとに自分の実力を試される機会が増えそこで結果を残せないと「自分は無能なのでは」という感情が何度も顔を覗かせるようになります。
しかしそれを認めてしまうと自分が崩れてしまうような気分になるのです。そうならないために自分と周囲を誤魔化すような行動をエスカレートさせていくのです。
これとは正反対に子供時代に全く世話をされなかったり、学歴コンプレックスや年収コンプレックスを拗らせ、そこから目を背けるために自分は特別なのだと思い込もうとしてナルシスト型になってしまうこともあります。
どんな理由にせよ自尊感情と密接に関わる問題であることが多いと言えるでしょう。
(生まれ持った脳がナルシストになりやすい特徴を持っている可能性もあります)
過大評価してしまう女性
冒頭でも説明しましたが恋愛依存症の女性はナルシストタイプの回避依存症者を過大評価しがちです。
言動と行動が伴っていないナルシストタイプに騙されるケースが多々あります。
自己肯定感が低いので自分に自信を持っているように見える男性はみんな優秀に見えてしまうというのが一つの理由です。
そしてもう一つの理由としてビジネスに興味のある人が少ないため雰囲気に騙されやすいということが挙げられます。
よくいるナルシストタイプで「将来は起業したい」という人がいます。彼らはビジネス書を読み、起業セミナーや異業種交流会に参加します。
ビジネスに興味のない人から見るとそれだけで優秀そうに見えてしまうのです。
私のところにカウンセリングを受けにくる恋愛依存症の女性も「私の彼は勉強家でいつもどっかの社長さんが書いた本を読んだり、セミナーに参加したりしてます。きちんと将来のことを考えているんです」と言う方がいます。
多くの人が勘違いしているのですがビジネス書がターゲットとする読者層は優秀なビジネスマンや起業家ではありません。
ビジネス書のターゲットは「優秀なビジネスマン気分を味わいたいと思っている優秀ではない人たち」です。
読めば分かりますが中学生でも理解できるように書いてあります。
有名な社長や経営コンサルタントが書いた本ということで難しそうなイメージを持ってしまうかもしれませんが、芸能人の書いたエッセイ本と同じくらい読みやすい内容です。
そしてそれを何百冊読んだところで仕事ができるようにはなりません。一時的な高揚感を得て終わりという人がほとんどです。
しかしナルシスト型はそれらの本を読むことで自分もその著者と同じくらい優秀になった気分になってしまうのです。
そして上から目線で周囲の人や自分の勤めている会社を批判します。有名人、たとえばアップル創業者のスティーブ・ジョブズの名言などを引用するようになったりもします。
自己肯定感の低い女性はそれを見て「この人は何でも知っている優秀な人なんだわ」と勘違いしてしまうのです。
そして将来は大物になるに違いないと思い込み、SNSの職業欄が「起業準備中」となっている無職男性を何年も養い続けることになるのです。
残念ながらその職業欄が「社長」に変わることはありません。あったとしても返すアテのない借金もセットになっていることでしょう。
「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」
中島敦の『山月記』という短編をご存じでしょうか?教科書で読んだことのある人もいるかもしれません。
李徴(りちょう)という役人が仕事を辞めて詩人になることを志すのですが挫折し、再び役人として働くことになるものの、かつて馬鹿にしていた同僚たちが出世していてそれに耐えられなくなり、最後は虎になってしまうという話です。(虎になるというのは人間の尊厳を失ったことの暗喩ですが)
李徴は自分がなぜ詩人として成功出来なかったかということを反省しながら友人に話すのですがそこで「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」という言葉を使います。
つまり人から批判されて傷つくことを恐れていたため他人の意見を聞く謙虚さを持ち合わせていなかったということです。
自分の力量の評価を誤り、他人の意見に耳を傾ける謙虚さを持ち合わせない李徴の行動や思考というのはナルシスト型の回避依存症のそれとほぼ一緒です。
李徴の場合は自分の行いを反省することができましたがナルシストというのはなかなか自分の誤りに気づきにくいものです。
落ちるところまで落ちても自分は才能があるのだと思い込んでいるような人が多いのです。
最終的には周りの人がどんどん離れていくのですがそれでも恋愛依存症者は見捨てることなく側にいようとします。
なぜなら「彼は才能がある人」という魔法が解けないからです。