結婚生活において、夫婦の関係が安定するかどうかは単に愛情の有無だけで決まるものではありません。
お互いの価値観や生活習慣、コミュニケーションの取り方など、さまざまな要因が関係の質に影響を与えます。
その中でも、愛着スタイルは夫婦の相互作用に大きな影響を及ぼす重要な心理的要素です。
特に不安型と回避型という二つの愛着スタイルを持つ夫婦は関係がうまくいきにくいとされています。
不安型の人はパートナーとの親密さを強く求める一方で、回避型の人は一定の距離を保とうとするため、お互いの行動が相手にとってストレスになりやすいのです。
その結果、夫婦間で頻繁に誤解や衝突が生じ、「関係乱流」と呼ばれる不安定な状態に陥ることがあります。
「関係乱流理論」とは
心理学で「関係乱流理論(※1)」という、夫婦関係の不安定さを説明するための理論があります。
乱流とは不規則な流れのことですが、夫婦における関係乱流とは、アンバランスで混乱した状態ということです。具体的には以下のような状況が含まれます。
- 感情の起伏が激しくなり、些細なことで喧嘩が増える
- コミュニケーションがうまく取れず、誤解やすれ違いが頻発する
- 相手の気持ちや結婚生活の将来に対する疑念が生じる
- パートナーの行動がストレスになる
このような状態が続くと、夫婦関係がさらに悪化し、心理的な負担が増大する可能性があります。
※1 関係乱流理論:英語で「Relational Turbulence Theory」といいます。「Turbulence」は日本語で「乱気流」という意味ですが、「感情の動揺や混乱」の意味もあります。該当する日本語がないので勝手に訳しました。
不安型と回避型の間では「関係乱流」を引き起こす要因が生じやすい
この関係乱流理論によれば、「関係の不確実性」と「パートナーの干渉」が夫婦の心理的な混乱を引き起こし、最終的に関係全体を上記のような「関係乱流」に導くとされています。
- 関係の不確実性:配偶者との関係がどのようなものなのか、自分自身や相手の気持ちに確信が持てない状態
- パートナーの干渉:相手が日常の行動や意思決定に介入し、自分の生活リズムを乱すこと
不安型と回避型の愛着スタイルを持つ夫婦はこの2つの要因が生じやすい傾向にあります。
なぜなら、不安型の人は愛情を求めすぎることで過剰に干渉し、回避型の人は親密さを避けることでパートナーに強い不確実性を感じさせるからです。
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愛着スタイルと関係乱流の相関
愛着スタイルと関係乱流について調べたウエストバージニア大学のアラン・グッドボーイ教授らの研究があります。
この研究では503名の既婚者(平均年齢44歳、平均結婚期間17年)を対象に、関係の不確実性やパートナーからの干渉、負の感情、関係の脅威などをどれくらい感じているかを測定しました。
その結果、不安型の愛着スタイルを持つ人は関係の不確実性を感じやすいことが分かりました。
パートナーの行動を実際以上にネガティブに解釈し、「自分は愛されていない」「関係が壊れるかもしれない」と思いやすい傾向が強かったのです。
それに対し、回避型の愛着スタイルを持つ人はパートナーからの干渉を避けたがることが分かりました。
不安型と回避型の視点
今回の研究から、不安型と回避型の夫婦は「関係の不確実性」と「パートナーの干渉」が相互に作用し、悪循環に陥る可能性が高いことが分かります。
具体的にどのようなプロセスで関係乱流が生じるのか、それぞれの視点から解説します。
1. 不安型の配偶者の視点
- 関係の不確実性の増大:「本当に愛されているのか?」「見捨てられるのではないか?」と疑念を抱く
- 干渉の増加:愛情の要求や試し行動をする。望むほどの愛情表現が得られないと、さらに不安が強まる
- 否定的な認知バイアスの発生:相手の些細な言動を否定的に解釈するようになる(例:返信が遅いだけで「私のことをどうでもいいと思ってる」と解釈)
- 関係乱流が発生:攻撃的・感情的になり衝突が増え、さらに関係が不安定になる
2. 回避型の配偶者の視点
- 関係の不確実性の増大:「この関係は自分にとって本当に必要なのか?」と考えるようになる
- 干渉への抵抗を開始:パートナーが感情をぶつけてくることにストレスを感じ距離を置こうとする
- 否定的な感情の増加:「この関係は息苦しい」と感じ、冷たく振る舞うことが多くなる
- 関係乱流が発生:パートナーとのコミュニケーションが減り、より一層関係が不安定になる
3. 恐れ・回避型の配偶者の視点
このように、不安型の「もっと近づきたい」という行動が、回避型の「距離を取りたい」という欲求を刺激し、結果として関係が乱流状態に陥るのです。
今回の研究では愛着不安と愛着回避の両方が高い「恐れ回避型」の愛着スタイルを持つ人は関係の不確実性と、パートナーからの干渉の両方を最も強く感じていることが分かっています。
親しくなることへの恐怖と見捨てられ不安の両方が顕在化しているということです。
そのため、上記の不安型と回避型のプロセスを一人の中で混乱しながら回してしまうリスクが最も高いタイプともいえます。
関係乱流を防ぐためのアプローチ
関係乱流を防ぐためには不安型と回避型の夫婦がお互いの特性を理解し、それに応じた対応を取ることが重要です。
円満な関係を築くには以下のようなアプローチが効果的です。
不安型が気をつけること
不安型の人はパートナーからの愛情を確認しようとするあまり、過度に依存してしまう傾向があります。
それを避けるためには愛されている証拠を外部に求めるのではなく、自分自身の価値を認めることが大切です。
パートナーの態度や行動だけで自分の価値を測るのではなく、趣味や仕事、友人関係など他の要素からも自己肯定感を高めることが役立ちます。
また、不安を感じたときにすぐ感情的に反応するのではなく、一度深呼吸をして落ち着き、冷静に相手の言葉を受け止める習慣をつけることが望ましいです。
これにより、誤解や衝突を防ぐことができます。
回避型が気をつけること
回避型の人は感情表現が苦手なことが多く、愛情を伝えることをあまり重要視しない傾向があります。
しかし、不安型の配偶者は愛情の言葉や態度を求めるため、意識的に「愛している」「大切に思っている」といった言葉を伝える努力が必要です。
普段あまり言葉で表現しない場合でも、短いメッセージを送る、軽いスキンシップを取るなど、小さな行動で愛情を示すことができます。
また、不安型の配偶者が頻繁に愛情を求めてくると、負担を感じて距離を取りたくなることがありますが、「相手が不安を感じるのは自分のことを大切に思っているからだ」と理解することで、過度に拒絶するのを避けられます。
相手の気持ちを無視するのではなく、今日は少し疲れているけどちゃんと大切に思っているよ、という態度を示すことで、安心感を与えることができます。
夫婦関係全体の改善策
夫婦関係全体を改善するためには相手の行動を単なる性格の問題として片付けるのではなく、それぞれの愛着スタイルによるものだと理解することが効果的です。
例えば、不安型の人が頻繁に連絡を取ろうとするのは「生まれつき依存的な性格だから」ではなく、「安心感を求めているからだ」と考えることで、イライラせずに対応できるようになります。
また、二人の間で共通のルールを作ることも、関係の安定に役立ちます。
例えば、「週に一度、お互いの気持ちを正直に話す時間を設ける」など、負担にならない範囲でコミュニケーションの時間を確保すると、日々の誤解やすれ違いを減らすことができます。
こうした小さな習慣を積み重ねることで、夫婦関係はより安定し、お互いにとって居心地の良いものになっていくでしょう。
参考文献:Goodboy, A. K., Bolkan, S., & Shin, M. (2022). Relational turbulence processes among avoidant and anxious spouses.