ウェンディ症候群(ウェンディ・ジレンマ)とは?自分を犠牲にして他人の世話を焼き過ぎる人

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ダメな恋愛にのめり込んでいる人の中には「ウェンディ症候群」を抱えている人もいます。

ウェンディ症候群とは正式な病名ではなく、自分を犠牲にしてでも他人の世話を過剰に焼いてしまう心理パターンのことです。「ウェンディ・ジレンマ」といわれることもあります。

これは心理学者ダン・カイリーが1984年に提唱したもので、語源は『ピーターパン』に登場するキャラクターのウェンディです。

ウェンディは、ピーターパンやその仲間たちの「お母さん役」を引き受け、彼らの世話や責任を一手に引き受ける存在です。

ウェンディ症候群の特徴

ウェンディ症候群の人には以下の特徴があります。

  1. 過剰な自己犠牲:自分の時間やエネルギーを他人のために使い、自分のニーズを後回しにします。家族やパートナー、友人などの「お世話係」として行動することが多いです。
  2. 相手への依存:他人に必要とされることに強い喜びを感じ、それが自身の存在意義と考えます。そのため、他人からの「ありがとう」や感謝の言葉がなければ不安になることもあります。
  3. 過剰な責任感:家庭や職場でのあらゆる問題を自分の責任と感じ、自分一人で解決しようとします。相手が自分でできることまで代わりにやってしまうことも多いです。
  4. 見返りを求めない:他人のために尽くしても「報われたい」という気持ちを表に出すことは少なく、「役に立ててよかった」と満足しがちです。ただし、内心では疲労やストレスを感じることがあります。

このように、ウェンディ症候群を持つ女性は、パートナーや子ども、職場での同僚などに対して過剰な献身を見せる傾向があります。

恋愛における典型的な特徴としては、パートナーとの依存的な関係性や、過剰な自己犠牲が挙げられます。

例えば、パートナーの不誠実な行動や非協力的な態度を容認し続ける一方で、離れることへの恐怖から関係を維持しようとするのです。

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ウェンディ症候群が生まれる背景

ウェンディ症候群の背景には、幼少期の家庭環境や社会的な価値観が影響していることが多いです。

幼少期に「いい子でいなさい」「人に迷惑をかけてはダメ」といったメッセージを繰り返し受けると、他人を優先する行動が習慣化されやすくなります。

また、「親代わり」の役割を経験した場合、幼少期から自分のニーズを抑えて他者を優先する価値観が形成されることがあります。

例えば、親が病弱で家事や弟妹の世話を担わされたり、家族内の問題解決を子どもの立場で負担していたケースが挙げられます。

さらに、女性に「母性的であること」や「他人を優先すること」を求める社会的な期待や価値観もウェンディ症候群の形成に寄与します。

特に女性が「家族を支える存在」とされる文化の影響を強く受けていると、感情を抑えて家族やパートナーに尽くすことが美徳という価値観を強く持つことになります。

ウェンディ症候群と愛着スタイル・自己分化の関係

家族カウンセリング等の専門家であるメリエム・ヴラル・バティック博士の調査によると、ウェンディ症候群と愛着スタイルには一定の相関があることが分かっています。

この調査には18~65歳の女性521名が参加しており、ウェンディ症候群と愛着スタイルに関する調査票に回答しています。

1.アンビバレント型の愛着スタイルを持つ

それらの回答を分析したところ、ウェンディ症候群とアンビバレント型の愛着スタイルには相関があることが分かりました。

アンビバレント型の愛着スタイルとは、他者と親密な関係を築きたいという強い欲求がありながら、常に不安を抱えている状態を指すものです。

このスタイルを持つ人は見捨てられることや拒絶されることへの恐れが強いです。他者からの愛情や関心が一貫していると確信できないため、相手の行動に過敏に反応することも多いです。

また、相手の行動を過剰に読み取ることで不安が増幅する傾向もあります。パートナーや親しい人に対して過剰に依存し、愛情を確かめようとする行動を取る一方で、相手がその期待に応えられないときには怒りや絶望を感じます。

恋愛依存症の人とほとんど同じ状態といえるでしょう。

2.自己分化の度合いが低い

ウェンディ症候群の女性は自己分化の度合いが低いことも判明しています。

自己分化(Differentiation of Self)とは、家族療法の創始者であるマレー・ボウウェンの家族システム理論における基本概念の一つであり、他者から独立しつつも、健全なつながりを維持できる能力のことです。

分かりやすくいうなら、強い絆を結びつつも依存しない関係を築く能力です。

自己分化の度合いが低い人は、自分と他者との心理的な境界が曖昧で、他者の感情に同調しすぎたり、過度に依存し振り回されやすい傾向があります。

ウェンディ症候群とシンデレラ症候群の関係

実は今回の調査はウェンディ症候群だけではなく「シンデレラ症候群(シンデレラ・コンプレックス)」についての分析も行っています。

シンデレラ症候群とは自立することに対する恐れを持ち、他者の助けに依存する傾向のことです。恋愛においては「いつか白馬に乗った王子様が迎えに来て幸せにしてくれる」という感覚を持っています。

シンデレラ症候群もまた、自己分化の度合いの低さと、回避型の愛着スタイルとの相関がありました。

そして、ウェンディ症候群との相関もありました。

世話をしたがるウェンディ症候群と、助けてもらいたいシンデレラ症候群は、全く別物のように見えますが、どちらの背景にも伝統的なジェンダーロールが深く関与していることが、相関を生み出していると思われます。

幼少期から性別に応じた役割を学ばされることで、「他者の世話をすること」「依存的であること」が女性らしさとして内面化されてしまうことが、これらの症候群の発生を助長しているのです。

ウェンディ症候群から脱却する方法

ウェンディ症候群から脱却する第一歩は自分がどのような価値観や行動パターンに囚われているのかを認識することです。

ウェンディ症候群を持つ人は、しばしば自分を犠牲にして他者を優先し、それが当たり前のように感じています。ですから、まずは自分の行動や感情を振り返り、自己認識を深めることが重要です。

また、家庭内での役割分担やパートナーとの関係における不均衡がウェンディ症候群からの脱却を難しくしていることもあります。

特に、家事や育児、感情的なサポートを過剰に担い、負担が偏ってしまっていることが問題です。

この不均衡を解消するためには、関係の見直しと責任分担の再構築が不可欠です。家事や育児、経済的負担を公平に分担することが、ウェンディ症候群から脱却するための鍵となります。

さらに、パートナーシップにおいては、健康的なコミュニケーションを取ることが大切です。

自分の気持ちや希望を相手に伝えるとともに、相手の立場や感情も尊重し、共感し合うことでバランスの取れた協力的な関係を築くことが可能になります。

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参考文献:Vural Batik M. (2024). Predictors of Cinderella Syndrome and Wendy Syndrome in women: Attachment styles and differentiation of self.