毒親育ちの人はハイスペック(ハイスペ)なキャリアの人が意外に多いです。
相談に来ている人を見ても、医師や弁護士、外銀に勤めている人などが少なくありません。
そして大学も偏差値の高いところを出ていたりします。
日本の全人口に対するハイスペの割合よりも、当方に毒親育ちや恋愛依存の相談に来ている人のハイスペの割合のほうが高いと思います。
高所得者層の方がカウンセリングのような形のないものに価値を見出しやすいからということもあるのでしょうが…。
それ以前に、毒親育ちはハイスペになりやすい傾向を持つ人がいるのではないかと思います。
その理由の一つが「勉強依存症」です。
毒親の影響で勉強依存症となり、良い大学に入り、そのまま社会的地位の高い職業に就いたということです。
勉強依存症(スタディホリズム)とは
勉強依存症(※1)とは勉強に過剰に取り組んだり執着する状態のことです。
といっても正式な病名ではなく、2017年にフィレンツェ大学のユラ・ロスカルゾとマルコ・ジャンニーニによって提唱された概念です。
将来的に病名としてICD(国際疾病分類)などに掲載される可能性はありますが、現段階では障害なのか嗜癖なのかも定まっていない、あくまでも一部の研究者が提唱した概念です。
しかし、仮に病気として認定されなかったとしても、過去の研究結果などから仕事中毒と同じように、勉強に対して脅迫的に取り組んでしまう傾向のある人間がいることは分かっています。
イタリアの学生を対象とした調査では全体の10%~15%が該当するという結果もあります。
【※1】英語では「スタディホリズム(Studyholism)」といいます。ネットと心理学辞典を検索してみたのですがまだ日本語にはなっていないようです。なので勝手に「勉強依存症」と訳しました。正式に病名とされたらICD日本語版等で「学習依存症」や「勉強中毒」となる可能性もあります。
主な特徴
勉強依存症は単なる「勉強熱心」とは異なり、勉強すること自体が目的となり、その強迫的な行動が日常生活に悪影響を与えます。
具体的に以下のような特徴があります。
- 強迫観念:勉強のことを常に考えてしまい、不安や恐怖を感じる状態。「勉強が足りていない」「十分に準備できていない」という感覚が頭から離れず、気持ちが落ち着かない。
- 強迫行為:必要以上に長時間勉強を続けてしまう、あるいは同じ内容を何度も確認する。
- 社会的障害:勉強に過度に集中するあまり、家族や友人との交流が減り孤立。健康や生活リズムの乱れを引き起こすことも。
勉強依存症の原因
完璧主義や過度な心配性が勉強依存症のリスクを高めるとされています。
完璧主義の人は常に高い成果を求めて自分に厳しくなりやすく、失敗を恐れるあまり勉強を過剰に行ってしまことがあるのです。
また、不安傾向が強い人は勉強が不安を軽減する手段となり、結果として強迫的な学習行動に発展することがあります。
家庭や学校の環境も重要な要因です。
例えば、親が学業的な成功に強くこだわっていると、子供は「勉強で結果を出さなければ愛されない」と感じ、過剰な努力を続けることがあります。
また、学校でのスパルタ教育によって、学生が自分の限界を超える努力をしようとすることもあります。
毒親育ちが勉強依存症につながる
毒親育ちであることも勉強依存症の原因となっている可能性があります。
毒親は一貫性のない態度で接するため、子供は「いつか捨てられるのでは?」という不安を抱くことがあります。
また条件つきの愛情(親の期待に応えたら愛する)しか与えないことが多く、子供は「認められなければ生きていけない」という恐怖を持つこともあります。
こうした不安や恐怖、つまり発達心理学でいうところの愛着不安が「勉強で結果を出して認めてもらわなければ」という脅迫観念につながるのです。
さきほどのユラ・ロスカルゾとマルコ・ジャンニーニが1,000人以上の男女(平均年齢23.48歳)を対象に行った調査でも、愛着不安と勉強依存症には相関があることが分かっています。
つまり、幼少期に形成された、「結果を出し続けて認めてもらわなければ生きていけない」という脅迫観念が、成人後も勉強や仕事に向き続けているということです。
これが毒親育ちがハイスペになるメカニズムと言えるでしょう。
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ハイスペでも自己肯定感が低い毒親育ち
相談に来ている人の中には非常にハイスペックな学歴とキャリアを持っているにも関わらず、自己肯定感が異常に低い人も少なくありません。
これは過去にどんなに頑張っても親に褒められなかったことで、「もっと上を目指さなければならない」「自分の成功は偶然だ」といった思考パターンが根付いてしまっていることが原因です。
それにより、他者からどれだけ高く評価されても、自分自身を認めることができなくなっているのです。
このような毒親育ちの人が自己肯定感を高めるためには過去の経験を客観的に振り返り、内在化した否定的な思考パターンに気づくことが重要です。
自分の価値を毒親の亡霊からの評価に依存させる必要はありません。
ありのままの自分を認める練習をすることで、少しずつ自己肯定感を取り戻すことができます。
<参考文献>
・Loscalzo Y, Giannini M. (2018). Problematic overstudying: Studyholism or study addiction?
・Loscalzo Y, Giannini M. (2024). Studyholism and Attachment Style: A Study among Italian University Students.