テスラやスペースXの社長であるイーロン・マスクの伝記を読みました。
映画『アイアンマン』の主人公トニー・スタークのモデルとも言われている人ですね。
最近ではtwitterを買収してXに名称変更したことでも騒がれました。
何の事前情報もなく読んだので、想像していた内容とはだいぶ異なりました。
もっとビジネスに寄ったものかと思っていたのですが、心のほうにフォーカスしていました。
特に父親との関係性が成人後のコミュニケーションに与える影響を知る良いケーススタディです。
自分が親との関係に悩んでいる人や、そういう人と付き合っている人は参考になる部分が多いのではないでしょうか。
父親とそっくりなイーロン・マスク
本書を読んで意外だったのが、イーロン・マスクという人物が繊細で傷つきやすく、精神的に不安定な人間ということです。
そして他者との対立をうまく解決する方法を知らないということです。
恋人や家族、社内の人間と対立したときに、罵倒したり締め出してしまい、向き合うことをしないのです。
そんなイーロン・マスクを見て周囲の人間は「父親とそっくりだ」と評価します。
彼の父親であるエロール・マスクも他者との対立をうまく処理することができない人間なのです。そして家族を傷つけ続けたのです。
イリノイ大学の研究でも、父親が建設的に対立を解消できないタイプである場合に、その子供が他者との関りで生じる社会的感情を扱うスキルに悪影響を及ぼすことが分かっていますが、イーロン・マスクは父親の対人能力の悪影響を大きく受けているといえるでしょう。
天才タイプの起業家なのに世間の評判を気にしてしまう
ニュースなどで表面的な情報だけを見ていると、イーロン・マスクは傍若無人で他人からの評価など気にしていないように見えます。
しかし、本書を読むと他人からの評判をとても気にすることが分かります。
私はコンサルティングの仕事もしていますので、起業家と会う機会もありますが、天才タイプで世の中の評判を気にする人は滅多にいません。
気にするとしたら、自分の評判が下がると会社の売上が落ちるという経営的な視点でのみです。
親密な相手との関係は気にしても、アカの他人からどう思われるかは全く気にしていない天才タイプの起業家のほうが多いです。
しかし、イーロン・マスクはアカの他人からの評判まで気にしているのです。
些細な批判であっても自己の存在を強く否定された感覚になるからでしょう。
これにも父親との関係が影響しているといえそうです。
イーロン・マスクは父親から罵倒され続けたことで、今も心のどこかで自己の存在価値に疑問を抱いているのかもしれません。
そのため些細な批判にも敏感に反応してしまうのです。
父親を見捨てることができない理由
イーロン・マスクの父親はアダルトチルドレンを生み出す親の典型のようなタイプです。
自分が家族に酷いことをしていた過去を認めようとしないのです。「子供達が勝手に言っている嘘」だと否定したりします。
また誇大妄想を抱くような節もあります。
そんな父親にも関わらず、イーロン・マスクは中々見捨てることができないのです。
仕送りしたり、家を用意したりするのです。
(さすがに連れ子との間に子供を作ったあたりからは距離を置こうとしますが…)
酷い父親を突き放すことが出来ないのは、父親からの「私が間違っていた、お前は価値のある人間だ」という言葉を求めているからではないかと思います。
もちろん本人はそのことに気がついてはいないでしょうが。
判断力のなかった子供時代に刷り込まれた「お前は無価値」という情報は、潜在意識に残り続けます。
そのため世界一のお金持ちになろうと、シリコンバレーの起業家からの尊敬を集めようと、一時的な満足感しか得られないのです。
父親に謝罪をさせるか、そもそも父親が間違っていたということを潜在意識のレベルで理解しない限りは、解決しない問題でしょう。
当然ですが全ての人間が父親の悪影響を受けるわけではありません。
本書には共にビジネスをしている弟のキンバル・マスクも登場しますが、彼ははそれほど影響を受けていないようにも見えます。描写が少ないので詳細は不明ですが。
しかし、一度受けた親からの悪影響はその後も長く本人を苦しめ続けるのです。
子供時代の刷り込みは社会的成功だけでは払拭できない
本書を読んで真っ先に浮かんだ感想は、「イーロン・マスクほどの成功者になっても子供時代の傷はこんなにも強く残るのか」でした。
スケールは全く異なりますが、当方に相談に来る女性の彼氏が起業家というケースもたまにあります。
彼らは心を開かない、すぐに劣等感を持ってしまう、という特徴を持っていることがあります。
その場合、やはり親との関係に何らかの原因がありそうなことは多いです。
そしてこれらの問題はどれだけ会社の売上が増えようと、年収が増えようと解決しないのです。
どれだけ成功しても心のどこかで「自分には価値がない」という恐れを感じているからです。
何千億円という売上高の会社を作ればそういった恐れを持つ人も解消できるのではないかと思うこともあったのですが、本書を読んでそんなことはないのだと思いました。
本書は社会的に成功しているのに自信が持てない人や、そういう人と付き合っている人にとって参考になる内容かと思います。
しかし、あくまで個人的な感想ですが、面白いかどうかでいうと、うーん…です。
上下巻で長いうえに、ニュースで既に知っていることも多く、下巻はほぼ惰性で読みました。でも役に立つ本ではありました。
参考文献
・『イーロン・マスク』(上下巻)ウォルター・アイザックソン著
・Gong Q, Kramer KZ, Tu KM. Fathers’ marital conflict and children’s socioemotional skills: A moderated-mediation model of conflict resolution and parenting.