彼氏もいて、それなりに幸せな恋愛をしているはずなのに、いつも心にポッカリと穴が空いている感覚がある。
LINEもすぐ返って来るし、デートも定期的にしているけれど、物足りなさや孤独感が消えない。
こんなとき「もしかして自分がワガママな性格なの?」と思うかもしれません。しかし、そうではありません。
あなたは「関係的欲求」が満たされにくい人なのです。
関係的欲求とは何か?
人は誰でも、他者との関係の中で「相手にこうしてほしい」「こういう自分でありたい」というニーズを持っています。
これを心理学で「関係的欲求(Relational needs)」といいます。関係的欲求を具体的に説明すると、次のようなものがあります。
- 安心・安全の欲求:自分らしくいられて、見捨てられる心配なく、安心できる関係でいたい。
- 価値・承認の欲求:自分の気持ちや考えを「大切なもの」として受け止めてほしい。
- 受け入れ・保護の欲求:安定して頼れる、強くて一貫性のある存在に支えられたい。
- 共感・共有の欲求:言葉にしなくても気持ちを分かってもらえる、同じ経験をして共感してほしい。
- 自己表現・自己定義の欲求:自分らしさを出しても否定されず、尊重してもらいたい。
- 影響力の欲求:自分の言葉や行動が相手にポジティブな影響を与えていると感じたい。
- 相手からのイニシアティブの欲求:自分から言わなくても、声をかけたり助けたりしてほしい。
- 愛情を与える欲求:自分からも愛情や思いやりを表現したい。それが相手に届いていてほしい。
これらは、特別な性格の人だけが持っているものではなく、誰でも持っている人間としての自然な欲求です。
意識しているかどうかに関係なく、この関係的欲求が満たされたとき、恋愛においても安心感や幸福感を得ることができるのです。
逆に言えば、こうした根源的な欲求が満たされなければ、その恋愛に違和感を覚えやすくなります。
また、満たされた環境にいても、それを認識する心のメカニズムが働いていなければ、満たされない感覚を持ってしまいます。
なぜ関係的欲求が満たされないのか?
関係的欲求が満たされない理由の一つとして、相手選びが良くないということです。あなたを軽んじる相手と付き合ってしまっているということです。
しかし、それ以上に重要な理由はあなた自身にあることが多いです。子供時代の経験や、愛着スタイルが影響しているのです。
子供時代のトラウマと成人後の愛着スタイルの影響
心理学者ゼイネップ・マッカリ博士らが、18歳から63歳までの364人の男女を対象に行った研究があります。
この研究では、子供時代のトラウマ体験(虐待やネグレクト)と、成人後の愛着のスタイル(人間関係の型)が、関係的欲求の満足度にどう関わるかを調べています。
その結果、情緒的ネグレクト(心のケアをしてもらえなかったこと)や、生活の基本的な世話をしてもらえなかったことが強く関係していることが分かりました。
子供時代にこうした経験を持つ人ほど、大人になってからも他人との関係の中で、関係的欲求が満たされにくい傾向にあったのです。
また、愛着スタイルについても、不安型(見捨てられることへの恐れが強い)と回避型(人との距離をとる傾向がある)の人ほど、関係的欲求が満たされにくいことも示されました。
つまり、自分では意識していなくても、幼少期に安心できる環境にいなかった場合や、成人後に不安定な愛着スタイルを持っている場合、人間関係や恋愛の中で「心が満たされない」と感じやすくなるということです
なぜ心が満たされなくなるのか?
なぜ、子供時代の経験と不安定な愛着スタイルが、心の満たされない感覚につながるのでしょうか?
まず、子供時代に気持ちに寄り添ってもらえなかったり、世話をしてもらえなかったりすると、「自分は大切にされないんだ」「分かってもらえないんだ」と感じるようになります。
このような経験が積み重なると、成人後も他者との関係に疑念や不安を持ちやすくなります。
「大切にされるべき存在ではない自分に優しくしてくれるわけない。何か裏がある」などと考えてしまい、心が開けなくなるのです。
また、自分を肯定できないことで、見捨てられるのではないか?という思いが強くなり、過度に依存したり、距離を置かなければコミュニケーションが取れない、不安定な愛着スタイルを持ってしまうのです。
こうした愛着スタイルは「本音を言ったら嫌われる」「近づきすぎると攻撃される」という思考を生み出しますから、本音での交流が出来ずに、友人関係でも恋愛関係でも心が満たされないと感じるのです。
心が満たされない人はどうすれば良いか?
恋愛において、心が満たされないという人はどうすれば良いのでしょうか?
次のことを意識してみてください。
1.自分の「関係的欲求」に気づくこと
まず、自分がどんな関係的欲求を持っているかに気づくことが大切です。
最初に関係的欲求の内容について説明しましたが、どれが強いかは人によって異なります。
「感情を分かってほしい」「ひとりにされるのが怖い」など、心の奥にある欲求に目を向けてください。これらは決してワガママではありません。人間の心理として自然なものです。
「こんなことを思ってはいけない」と抑え込まず、「自分はこう感じているんだ」と認めてみましょう。
2.関係の中で安全に表現する
自分の関係的欲求に気づいたら、それを少しずつ伝える練習をしてみましょう。
ただし、相手を責めたり、要求するような言い方にならないように注意してください。
たとえば、「どうしてもっとLINEしてくれないの?」ではなく、「あなたともっとつながりたいときがある」と気持ちをベースに伝えると、相手も受け取めやすくなります。(ただし相手も不安定な愛着を持っている場合には気持ちを伝えることが負担となりますから注意してください)
配慮しつつも素直に感情や欲求を伝え合えることができれば、お互いの安心感が深まり、満たされる感覚も強くなります。
3.過去の傷と向き合うプロセスが必要なことも
心の中に「愛されないかもしれない」「本音を言うと嫌われるかもしれない」といった強い不安がある人もいるでしょう。
こうしたケースでは、その原因が過去の経験にあることが多いです。子供時代の親子関係や、昔の恋愛での傷が、今の不安や防衛的な態度につながっているのです。
このような場合、根本的な部分での解決をするために、自分自身や信頼できる相手との対話などを通じて、過去の傷とゆっくり向き合っていくことが必要なこともあります。
恋愛で心が満たされるのは「自分を大切にする」と決めたとき
好きな人と一緒にいるだけでは、心が満たされないこともあります。
私たちには、「理解されたい」「受け入れられたい」といった、心の奥底から湧きあがるニーズ(関係的欲求)があるからです。
こうしたニーズは誰にでもある自然なものですが、これまでの人生の中で、大切に扱われてこなかったりすると、自分でもそれに気づけなくなります。
「こんなことを望んではいけない」と思って無意識に抑圧してしまうのです。しかし、これは不要な抑圧です。
あなたにも、「ありのままの自分で誰かと安心してつながっていい」「本音を出してもかまわない」という権利があります。
すぐに心を開くことは難しいかもしれません。無理に自分を変えようとしなくても大丈夫です。
まずは、「自分の気持ちを大切にしてみよう」「少しだけ本音に気づいてみよう」と思うところから始めてください。
恋愛で心が満たされるようになるのは、特別な人と出会ったときではなく、「自分自身を大切にしよう」と決めたときなのです。
参考文献:Mackali, Z., Gokdag, C. & Toksoy, S.E. The structural associations among childhood traumas, attachment dimensions, and relational needs.