見捨てられ不安が強い人は、恋人からいつか振られるのではないかという恐怖を持っています。
そして、そのような恐怖を和らげるために、愛情を確認したり、わざと困らせるようなことをする「試し行動」をしたりします。
つまり、常に「愛されている」という実感を求めるのです。
とはいえ、そんな見捨てられ不安を抱える人が、自分から離れることもあります。矛盾する行為に見えますが珍しいことではありません。
今回は、見捨てられ不安の人が自分から離れる理由と、それでも復縁をしたがる心理メカニズムについて説明します。
見捨てられ不安の人が自分から離れる理由
見捨てられ不安を持つ人が自分から離れる理由は大きく二つあります。
一つは先ほどもいった試し行動の一貫です。そしてもう一つは予防的な自己防衛の手段としてです。
【理由1】試し行動の一貫として離れる
見捨てられ不安の人は、自分が愛されているのか常に疑いを持っています。
そして、それを確かめるために、恋人にわざと暴言を吐いたり、困らせたりします。
それでも相手が自分を大切にしてくれれば、一時的な安心を得ることができます。
イライラしてしまったときなどは試し行動がエスカレートし、何日間も無視したり、別れ話をしてしまうこともあります。
イライラしているときは興奮しているので「私は本当に別れたいと思っているのだ」と自分でも信じています。
しかし、その根底には「それでも追いかけてきてほしい」という本音が隠れていることが多いです。つまり行き過ぎた試し行動なのです。
【理由2】予防的な自己防衛のために離れる
見捨てられ不安を抱えた人が自分から離れるもう一つの理由は、予防的な自己防衛です。
分かりやすくいうなら「振られる前に振ってしまおう」という心理から来る行動です。
見捨てられ不安を持つ人にとって、恋人から別れを告げられることは、生きていけなくなるほどの恐怖です。
特に、そのタイミングが急だったときのショックは計り知れません。
そのようなショックを受けるくらいなら、自分のタイミングで離れてしまった方が、心の準備もできるのでまだマシであると判断するのです。
相談を受けていると、こちらのパターンも非常に多いことが分かります。
「いつか振られるのではないか?」という不安を常に抱えた状態では、冷静な判断力も失われがちですから、こうした選択をしてしまいがちなのです。
見捨てられ不安の人は復縁願望が強くなる
どのような理由で別れたにせよ「これで良かったんだ」と、自分で納得できる見捨てられ不安の人は少ないです。
離れてからしばらく経つと「やっぱり別れなければ良かった」と思ったり、復縁した気持ちが強くなりすぎて暴走してしまうことがあります。
ここには寂しさや未練といった感情の他に、もっと根深い問題が関係しています。
それは「自己概念の明確性」が低いことです。
「自己概念の明確性」とは
自己概念の明確性とは、自分自身に対する信念やイメージにどれだけ確信を持てているか、そしてその感覚がどれだけ一貫しているかを示す心理学的な概念です。
簡単に言うと、「私はどんな人間か」という自己理解が明確かということです。
心理学者ジェニファー・キャンベル博士によって、自己概念の明確性は次のように体系化されています。
- 自分に関する信念がはっきりしている(曖昧ではない)
- その信念が矛盾せず一貫している
- 時間が経っても安定している
- それに対して確信が持てている
たとえば、自己概念の明確性が高い人は「私は社交的で、新しい人と出会うのが好きだ」といった自己認識を一貫して持ち、それが状況や時間に左右されにくいということです
逆に、自己概念の明確性が低い人は、「自分が社交的なのか内向的なのかよくわからない」「人によって態度や考え方が変わってしまう」といった混乱を感じやすくなります。
自己概念の明確性が低い人ほど復縁したがる
知っている人も多いかもしれませんが、見捨てられ不安が強いのはなぜかというと、不安定な愛着スタイルを持っているからです。
そしてこの不安定な愛着を持つ人ほど、自己概念の明確性が低く、別れた後も復縁したがるということが、フロリダ・アトランティック大学のモーガン・コープ博士らの研究によって判明しています。
この研究では約400人の男女を対象に、愛着スタイルと自己概念の明確性を確認しました。
それから、別れた恋人と復縁したい気持ちの強さも確認しました。
これらのデータを分析したところ、不安定な愛着スタイルを持つ人ほど、復縁したい欲求が強いことが分かりました。
さらに詳しく分析したところ、不安定な愛着スタイルが自己概念の明確性を低下させ、それが復縁したい欲求につながることも分かったのです。
復縁願望が強くなる心理メカニズム
なぜ自己概念の明確性が低い人ほど、復縁願望が強くなるのでしょうか?
まず、人間というのは恋愛関係を通じて自分を理解するところがあります。例えば「私は愛する人のためにこういう行動をするのだ、こういう感情を持つ人間なのだ」といったことです。
そのため、別れによって相手がいなくなると、自分の一部が失われたように感じます。
特に自己概念の明確性が低い人は「自分が何者か?」という確信が曖昧なため、こうした状況に陥りがちなのです。
ただでさえ低い自己概念の明確性が、別れによってさらに低下すると、その喪失感や不安を埋めようとします。
そして、それを手っ取り早く解消できそうに思えるのが、失った相手との関係を取り戻すことなのです。
「元の関係に戻れば、自分を再び取り戻せるかもしれない」という心理的な動機が働くわけです。
これが自己概念の明確性が低い人(=愛着が不安定で見捨てられ不安が強い人)ほど、別れた後も復縁を望む理由です。
見捨てられ不安の人が復縁するとどうなるか?
不安定な愛着スタイルを持ち、見捨てられ不安が強い人が自分から離れた後に、うまく復縁できた場合にどうなるでしょうか?
残念ながらその後の関係がうまくいくというケースは少ないです。
また同じような見捨てられ不安に悩まされ、恋人に当たったり、二度目の別れを切り出したりすることが多いです。
なぜなら、復縁によって「やっぱり彼は私は見捨てない人なんだわ」と思い、愛着が安定するということはないからです。何十回も繰り返せばもしかしたらそうなることもあるかもしれませんが…
本人の愛着スタイルが安定し、見捨てられ不安が解消されない限りは同じことの繰り返しなのです。
ですからあなたが見捨てられ不安に悩まされているなら自分自身が変わる必要があります。そして、それを助ける一つの視点として「自己概念の明確性」を意識すると良いかもしれません。
また、恋人の見捨てられ不安が強く自分から離れていってしまったというパターンにおいては、「本人も自分のことを理解できていない状態なのだ」と考えることで、相手の一貫性のない言動にも納得しやすくなるかと思います。
参考文献:Cope, M. A., & Mattingly, B. A. (2020). Putting me back together by getting back together: Post-dissolution self-concept confusion predicts rekindling desire among anxiously attached individuals. Journal of Social and Personal Relationships, 38(1), 384-392.