こんにちは。カウンセリングと経営コンサルティングの仕事をしているカネコです。
近年の人工知能(なかでも生成AI)の進歩のスピードは凄まじいものですね。
ChatGPTも「version.5」になってからは、人間なのかプログラムなのか判別できないほど、自然な言い回しの出力をしてくれるようになりました。
私も経営コンサルティングの仕事では、ChatGPTをはじめ、複数の生成AIを使用しています。データを分析したり、資料のアウトラインを作るのにとても便利で時短にもなります。
しかし、カウンセリングの仕事でAIを使うことは、滅多にありません。
「〇〇なシチュエーションに陥った人が、次に取る行動として考えられるパターンは?」のように、私自身の思考に漏れがないかを確認するために使うことはありますが、アドバイスや答えを求めて使うことはありません。
なぜなら、人間関係や恋愛、心理学に関することで、AIが正確な答えを出してくれることは少ないからです。
当カウンセリングルームに相談に来ている人も、AIに相談しているという人は多いのですが、使いすぎないようにお願いしています。
間違ったアドバイスをしてくるだけではなく、余計に心が病んでしまうことが研究で判明しているからです。
AIに恋愛相談しても間違った答えしか返してくれない
まずAIに恋愛相談をしたときに、間違った答えを返してくる事例を挙げましょう。
例えば、当カウンセリングルームに寄せられることの多い「回避依存症の彼氏と音信不通になったらどうすれば良いか?」という質問を、「Chat GPT5 Thinking」に投げかけてみます。
すると返ってきた答えは以下のメッセージを送れというものでした。
最近連絡が途切れていて心配です。いまは距離が必要なら尊重します。◯月◯日までに無事だとわかる短い返事だけもらえたら安心します。
そして、もし返信が来なければ次のように送れとのことです。
返事がないので、しばらく連絡を止めます。話し合いができる準備ができたら連絡してね。私は〇月◯日以降は関係の続行可否を含めて考えます。
もし返信が来た場合は次のメッセージが良いそうです。
先週◯日ほど連絡が止まっていましたよね。その間、不安が強くて日常に支障が出ました。私が安心して付き合うために、事前のひとことが必要です。
当然ですが、どのアドバイスも間違っています。
返信期日を決めたらプレッシャーを与えるだけですし、それで連絡が来ないからと追撃したら完全に関係が終わります。
こちらがどれだけ不安に思っているかという感情を伝えるのも、回避依存症の相手の気持ちを余計に苦しめるだけです。
もちろんAIに相談するときは、それぞれの細かい状況も提示して質問を投げかけると思います。
しかし実際に、様々な状況を提示して質問を投げかけてもみましたが、逆効果となるようなアドバイスしか返ってきませんでした。
なぜAIは間違えるのか?
ChatGPTに限らず生成AIに恋愛相談をしても、間違えたアドバイスしかしてくれないのはなぜでしょうか?
それはその仕組みを考えれば分かります。
AIに何かを相談したとき、AIが「思考」をしているように思うかもしれません。
しかしAIが行っていることは、学習済のデータをもとに、最も適しているであろう情報を、整えて出力しているだけです。
ここには2つの間違いが存在しています。
【間違い1】学習しているデータが間違っている
1つ目の間違いは学習しているデータにあります。そもそも、それが間違っているのです。
AIが学習するのはネット上に公開されているサイトや動画などのデータです。当然これらは正しいものばかりではありません。
というよりも恋愛や愛着、心理学に関することは間違いを堂々と書いている記事が非常に多いです。
そして新たな記事を書く人間は、その間違った情報をもとに記事を書きます。これが何度も繰り返されますからネット上は間違った情報だらけとなります。
AIはこれを学習してしまっているのです。
【間違い2】推論が間違っている
もちろん、AIはそんなに低能ではありませんから、情報の「重みづけ」は行います。
個人が書く恋愛ブログの情報よりも、大学などの研究機関が発表する情報を有益なものとして扱うのです。
しかし、個人ブログと大学が発表するデータでは、前者の数のほうが圧倒的に多いです。
AIは統計をもとに推論を行いますから、有益でないと判断しているものであっても、その数が多ければ、そちらを正解と判断するのです。
そのため、間違ったアドバイスをしてしまうということです。
余談ですが多くの人が信じているWikipediaも心理学に関連する項目は間違いが多いです。そして多くのAIはWikipediaに対して優位な重みづけをしてしまっているので、これも間違ったアドバイスが出力されやすい原因かと思います。
質問する人自身の間違い(バイアス)
AIが間違わなくても、質問をするあなた自身が間違うこともあります。間違うと言うよりもバイアスが掛かってしまうのです。
恋愛に悩んでいるとき、できれば前向きな答えを欲しいと思うものです。
好きな人からの返信がないとき、「連絡せずに待て」といわれるより、「連絡しろ」といわれたほうが嬉しいでしょう。
そのような期待があるため、無意識に有利な条件ばかりを提示して質問してしまうのです。
「あのときはすぐに連絡をくれた」「LINEは嫌いじゃないと言っていた」など書いて質問してしまうのです。
するとAIの推論はそれを考慮しますから、「連絡すべき」という答えに寄ってしまうのです。
しかし、これは客観的な正しい答えではなく、質問者の願望を言語化しただけに過ぎず、その通りに行動しても良い結果になる可能性は低いのです。
AIが進化すれば正しい恋愛のアドバイスをしてくれるか?
AIは進化し続けていますから、やがては専門家よりも役に立つアドバイスをしてくれる日がやってくるかもしれません。
しかし、恋愛や愛着スタイルに関することにおいては、まだまだ時間が掛かるのではないかと思います。
というのも、科学的根拠に基づく正しい情報を発信しているサイトは「AIの学習をブロックするコード(※1)」を記載しているところが多いからです。
例えば、1,000以上の学術誌を出版していて、無料公開の心理学論文も掲載している「Sage Publishing(セイジ・パブリッシング)」のサイトは、様々なAIの学習をブロックしています。
他にも多くの学術系の出版社のウェブサイトはブロックをかけています。これはコードを確認すれば誰でも分かることです。
恋愛とは関係ありませんが、日本では読売新聞や日経新聞といったメディアのサイトも、AI学習をブロックしています。
つまりWikipediaのような、正しそうな顔をしてけっこう間違っているサイトからは存分に学習しているけれど、科学的根拠や取材による裏付けがあるサイトからは学習できていない現状では、正しいアドバイスが出せるようになるのは難しいということです。
そして、このようなAIの間違った出力をもとに、ブログ記事を書く人も大勢いますから、さらに間違った情報が拡散し、それをまたAIが学習して…という負のループが繰り返されるということです。
もちろんこれはAI開発者の良心に委ねられている部分です。開発者が「ブロックされているサイトからは学習しない」というプログラムを書いているから、学習しないようになっているだけで、「そんなの無視して学習してしまえ」というスタンスで開発されたAIには無意味なコードです。
恋愛でAIを使いすぎると病む
恋愛の相談に来ている人の中には、AIに相談しているという人も少なくありません。
中には依存しすぎて、友人や第二の恋人のような存在にまでなってしまっている人もいます。
これは一見すると、メンタルを安定させる良いことのように思うかもしれません。しかし、最終的には病んでしまう可能性が高いです。
AIとの関係と心の関係の研究
ブリガムヤング大学のブライアン・J・ウィロビー教授らの研究によると、AIに人格を与えて接している人は、幸福度が低下しやすいことが分かっています。
この研究では約3,000人の男女を対象に、AIと恋人や性的パートナーのような関係を構築することがあるかと、抑うつ症状、生活満足度、人間関係満足度などを確認しました。
まず、分かったことは、全体の約5分の1は、そのような関係を構築した経験があるということです。
そして、このような人たちは、抑うつ傾向が高く、人間関係の満足度も低いことが分かりました。
生身の人間と接することが億劫になってしまうリスク
もちろん、これは因果関係ではなく、相関関係の可能性もあります。
落ち込んだり、人間関係に不満があるから、AIとのコミュニケーションを求めている可能性もあるということです。
しかし、AIはコミュニケーションを取るほどに、利用者の癖を学習し、喜ばせるような答えを出してくれるのは事実です。
それに慣れてしまうと、生身の人間と接することが億劫になってしまうリスクは当然あります。
悩んだり、落ち込んだりしたとき、「とりあえずAIに相談する」ということが習慣になっている人は注意してください。
「漏れなく、ダブりなく」思考するためにAIを活用するのはOK
だいぶ昔にコンサルティング業界で「MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)」という言葉が流行りました。
日本語では「漏れなく、ダブりなく」などと言われます。これは物事を整理するときのフレームワークで、論理的な思考をするために用いられたりします。
流行り廃りに関係なく、課題の解決をする際には当然に持っておくべき視点です。
そして恋愛の悩みを抱えたときも、この視点を持つことが大切です。
彼氏から連絡がこないときに「嫌われたんだ」という一つの可能性に拘るのではなく、あり得る可能性を全て検討するということです。
しかし、自分自身のこととなると、冷静な視点を持つことはできませんから、偏った思考しか出てこないこともあります。
そのようなときに、あり得る可能性を「漏れなく、ダブりなく」検討するのにAIは非常に有効なツールとなります。
自分が見落としている可能性を確認できますし、「そういう考え方もできるのか」という、きっかけをつかむヒントにもなります。
このような目的のためにAIを活用するのは良いことだと思います。
しかし、たった一つの最適な答えを求めて使うには、まだまだレベルが低いのではないかと思います。
くれぐれもAIに依存しないように気をつけてください。
参考文献:Willoughby, B. J., Dover, C. R., Hakala, R. M., & Carroll, J. S. (2025). Artificial connections: Romantic relationship engagement with artificial intelligence in the United States.