彼氏がすぐキレたり、些細なことで機嫌が変わったりすると疲れるものですね。
「生まれつき性格の悪い人なんだな」と思ったりもするかもしれません。
しかし、必ずしも生まれ持った特質によってキレやすい性格になっているとは限りません。
育った家庭環境が恋愛における攻撃的な態度につながっているパターンも多いのです。
なぜなら家庭というのは「他者との交わり方の基礎」を学ぶ場所だからです。
そして、そこで無意識に学んだことは脳に深く刻まれ、大人になった後も強く影響し続けるのです。
恋愛でDVやモラハラの加害者になりやすい人の家庭環境
心理学者のシャリーニ・ムヌサミー博士らが、恋愛関係における攻撃的行動と家庭環境の関連について、世界中の研究を整理した論文を発表しています。
2010年から2021年までに発表された複数の実証研究を分析し、家庭環境が恋愛における暴力や怒りの表れ方にどのような影響を与えるのか調べたものです。
それによると、幼少期に家庭内暴力を目撃したり、親からの虐待を受けたりした人は、成長後の恋愛でDVやモラハラの加害者になりやすいことが分かりました。
また、厳格すぎたり、支配的すぎる養育スタイルで育てられた場合、他者をコントロールしようとしたり、感情的な反応が強まりやすいことも指摘されています。
さらに、愛着スタイル(親との心理的なつながりのパターン)にも注目すべき結果が見られました。
幼少期に親との関係が安定していなかった人は、恋愛関係で怒りを感じやすく、相手の行動を「攻撃」として受け取りやすいことも報告されています。
家庭環境が恋愛に悪影響を与える理由
なぜ家庭環境が成人後の恋愛における攻撃的な態度を形作るのでしょうか?
それは私たちが感情の扱い方や、他者との向き合い方を「家庭」という最初の社会環境の中で学ぶからです。
人間は生まれたときから怒りや悲しみといった感情を持っていますが、それをどのように表現するかは家庭内で観察しながら身につけていきます。
親同士が怒鳴り合ったり暴力をふるったりする家庭で育つと、子供はそれを「普通のやり方」として学習してしまうのです。
そしてそれを恋愛のパートナーに対してもやってしまうということです。
「怒られる前に支配しなければ」という感情
また、親の養育態度も大きな影響を与えます。
権威的で厳しい親のもとでは、「怒られる前に支配して優位に立たなければならない」という歪んだ感情が形成されることがあります。
こうした子供は、成長して恋愛関係を持つようになると、自分が傷つかないように先に相手を支配しようとしたり、相手をコントロールすることで安心感を得ようとするのです。
また、親が意見を押し付けるような家庭では、子供が自分の感情を整理する機会が少なく、感情のコントロールが未熟なまま成長してしまうことがあります。
こうした未熟な感情処理は、恋人との衝突時に「冷静に話す」よりも「感情をぶつける」行動につながりやすくなるのです。
不安が怒りとして表出される
幼少期に築かれる「愛着スタイル(親との心理的なつながりのパターン)」も重要です。
安定した愛着を形成できなかった人は、他者との関係に不安を感じやすく、相手のちょっとした言動を「拒絶」や「裏切り」と感じてしまう傾向があります。
その結果、相手を試すような言動や攻撃的な反応を取ることが多くなります。
これは「見捨てられたくない」という不安が、怒りという形で表に出てしまう心理反応です。
すぐキレる彼氏と向き合う際のポイント
彼氏がすぐキレてしまうと、「なんでこんなことで?」と感じてしまいます。
しかし、ここまで説明してきた背景を理解することで、「彼は怒りでしか自分の気持ちを伝えられないのかもしれない」と冷静に受け止められます。
理解とは「許す」ことではなく「現実を正確に捉える」ことです。
怒りの奥にある無意識の学習を意識することで、感情的に巻き込まれず落ち着いて対応できるようになります。
すぐキレる彼氏と向き合う際には以下の点に注意してください。
1. 感情を受け止めず、境界線を引く
彼氏が怒りを爆発させたとき、その感情をすべて受け止めようとする必要はありません。
相手の怒りは、あなたを攻撃するためのものではなく、多くの場合、彼自身の中にある不安や無力感の表れです。
あなたがそれを「自分の責任」と感じると、次第に心がすり減ってしまいます。
どんな理由があっても、暴言や威圧的な態度を受け入れる必要はありません。
「怒っているあなたを落ち着かせるのは私の役割ではない」「その言い方は受け入れられない」と心の中で線を引きましょう。
相手の感情に飲み込まれず、自分の立場を明確にすることで心理的な距離を保てます。
2. 冷静なタイミングで「行動」に焦点を当てて話す
相手が怒っている最中に注意したり説得したりしても、逆効果になることが多いです。
怒りがピークに達しているときは理性が働きにくく、どんな言葉も攻撃と受け取られてしまうからです。
重要なのは、感情が落ち着いたタイミングを見計らって、「行動」に焦点を当てて話すことです。
たとえば、「怒るのは仕方ないけれど、怒鳴られると怖い。もう少し落ち着いて話してほしい」と伝えることで、相手の人格を責めずに具体的な行動を指摘できます。
また、「私は冷静に話し合える関係を大切にしたい」と、自分の価値観を言葉にすることも効果的です。
3. 自分の安全と心理的距離を確保する
怒りが暴言や威圧、物にあたるなどの形で現れている場合は、理解よりもまず安全を最優先にしてください。
キレやすいのは彼の内面の問題であり、あなたがその矢面に立ち続ける必要はありません。
もし恐怖や不安を感じるなら、一時的に距離を置くことを検討すべきです。
そして信頼できる友人や家族に相談することで、客観的な視点を取り戻せます。
また、状況が深刻な場合には、自治体のDV相談窓口や専門機関を頼ることも大切です。
暴力的な家庭で育った女性は被害者になりやすい
キレやすい彼氏でも自分の怒りに気づき、変わりたいという意思を持っている場合は、変わることができるかもしりません。
自分の過去や内面に向き合ったり、アンガーマネジメント(怒りのコントロール方法を学ぶプログラム)などの、具体的な行動をしているのなら変わる可能性はあります。
しかし、本人の変わりたいという意志と行動が見えなければ同じことを繰り返すだけです。どこかで関係を損切りしたほうが良いでしょう。
正しく見極めるためにも、「彼が自分の問題を自覚して行動できる人かどうか」という視点を持ってください。
ちなみに今回の研究では、暴力的な家庭で育った人は加害者側だけではなく、被害者側にもなりやすいことが分かっています。特に女性は被害者になりやすいのです。
例えば父親に殴られても我慢している母親を見続けてきたせいで「攻撃されても耐えるのは普通のこと」という無意識の学習がなされてしまうことなどが要因です。
もしあなたが彼氏の攻撃的な態度を受け入れているのなら、自分自身の過去に原因があるのかもしれません。
参考文献:Munusamy S, Jeyagobi S, Mohamed IN, Murthy JK, Chong ST, Abdullah H, Kamaluddin MR. Underlying Familial Factors for Aggressive Behavior in Romantic Relationships: A Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2022 Apr 8;19(8):4485.