自分の意見がない人は「評価欲求」が低いのです

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芸能人の不倫についてまるで自分ごとのように意見を熱く語る人もいれば、身近な人の言動に対してさえ何も意見を持たない人もいます。

こうした違いは「評価欲求」の強さによって説明することができます。

評価欲求とは何か

評価欲求(Need to Evaluate)とは、身の回りの出来事や対象に対して「良い・悪い」「好き・嫌い」といった評価を行いたがる傾向のことです。

評価欲求が強い人は、政治や社会問題、日常的な出来事、さらには無関係な事柄に対しても自発的に意見を持つ傾向があります。

ニュースを見ればすぐに「これは素晴らしい」「これは問題だ」と感じ、友人との会話やSNSでその意見を共有したくなるのです。

これに対し、評価欲求が弱い人は身近な出来事に対しても特に意見を持たず、その状態に心地悪さを感じることもありません。

政治や社会問題について意見を述べることにも価値を見出しません。

自分の意見があるかないかは気質による

評価欲求を提唱したオハイオ州立大学のブレア・ジャービス博士とリチャード・ペティ博士の研究によれば、この特性は一時的な気分によるものではなく、個人の気質に根ざしていることが分かっています。

まず、評価欲求が強い人は次のような気質を持っています。

  • 自分に直接関係ない事柄でも意見や態度を明確にしないと落ち着かない
  • 人や出来事に対して自然と好き嫌いがはっきりする
  • 物事を深く考えるのが好き

これに対して、評価欲求が弱い人は次のような気質を持っています。

  • 特に意見を持たなくても気にならない
  • 態度を決めずに放置しても平気でいられる
  • できる限り中立的でいようとする

研究によれば、これらの違いが社会・政治的問題に対してどれだけ多くの意見を持つかや、芸術作品や日常の出来事に対してどれだけ頻繁に評価を下すかに関係することが分かっています。

評価欲求の強弱を決める要因

評価欲求の強弱は様々な要因が複雑に絡まって決まります。なかでも育った環境と、感情反応の強さが大きな影響を与えるとされます。

【要因1】育った環境

子供の頃から「あなたはどう思う?」「どっちが好き?」と聞かれ、意見表明を促される機会の多い家庭で育った人は、意見を持つことが当たり前の行動として学習されます。

学校教育でもディスカッションや意見交換が盛んな環境では、意見を持つことが当然とされ評価欲求が高まりやすくなります。

逆に、意見を言うと否定されたり怒られる家庭や、対立を避ける文化で育った人は意見を持つことに不安を感じ、評価欲求が低くなります。

【要因2】感情反応の強さ

ポジティブな刺激にもネガティブな刺激にも敏感で、強い情動が発生しやすい人がます。

こうした感情的な人は無意識であれ、その感覚を整理したり言語化することに心地よさを感じます。

これが繰り返されることで「意見を持つことは快感」と学習していくため、評価欲求が強くなっていきます。

一方で、感情的でない人は同じような心地良さを感じにくいため、自分の意見を持つことへの動機が生まれないのです。

自分の意見がない人が変わる方法

評価欲求の強さは気質的なものではありますが、変わらないものではありません。

では自分の意見がない人はどうすれば良いのでしょうか?

1. 評価スキーマを活性化する

評価欲求が弱い人は、日常的に「好き・嫌い」「良い・悪い」といった価値基準で整理するための心の枠組み(=評価スキーマ)が活性化していません。そのため、まずは意識的に活性化する必要があります。

たとえば、映画を観たり新しい料理を食べたりしたときに、どんなところが良かったのか、どんな点が不満だったのかを言語化するのです。

また、何かを選ぶ場面で「どっちでもいい」と流さず、自分なりの好みをはっきりさせるように意識すると、意見を持つ習慣が身についていきます。

2. 視点や論点が提示されている情報に触れる

自分の意見を持つためには、まず情報を受け取り、それを自分の中で整理し、意味を見出す流れが必要です。

その訓練のためには、社説や論評、深掘りしたYouTube動画など、単なる事実ではなく視点や論点が提示されている情報に触れると良いでしょう。それによって意見を形成する流れが理解しやすくなります。

さらに、自分の意見を決めたら「なぜそう思うのか」を理由とともに書き出す習慣をつけると、思考が深まります。

3. 自分の意見を持つメリットを体験する

意見を持つことには、いくつかの心理的な利点があります。

まず、自分の立場を明確にしておくと、選択や意思決定が楽になり迷う時間が減ります。また、自分がどんな人間で、何を大事にしているかが見えやすくなり自己理解も深まります。

こうしたメリットを実感するために、たとえば買い物や趣味の選択をするときに、あらかじめ自分の優先順位や価値基準を決めてから選ぶようにしてみます。

これを繰り返すことで意見を持つことへの動機付けが高まります。

4. 負担の少ない方法からはじめる

最後に大切なのは、意見を持つことがストレスやプレッシャーにならないようにすることです。

いきなり政治的なテーマや重い問題について意見を持とうとすると、評価欲求が低い人は抵抗を感じやすいです。

そこで、まずは音楽や食べ物、映画といった軽い話題から始めるのが良いでしょう。

最初は「どちらでもない」と感じることがあっても問題ありません。無理に答えを出さなくても大丈夫です。

少しずつ自分の意見を表明して、それが周囲との会話を盛り上げたり、より良い選択につながったりする体験を積むことで、意見の形成が前向きなものとして定着していくのです。

自分の意見がないのは悪いことではない

ここまで色々と説明してきたのですが、私の個人的な「意見」としては、自分の意見がないというのは決して悪いことではないと思います。

職場の会議中や友達と映画の感想を話しているときに何も発言しないのはまずいですが…

生活に支障をきたしていないのなら、あらゆる出来事に意見を持つ必要はないでしょう。少なくとも無駄に意見を表明する必要はありません。

SNSの普及によって、ニュースを見て感じたことをすぐに投稿する人が増え、評価欲求が強い人が可視化されやすくなりました。

そういったものを見ていると、意見を持っていないことが劣っていることのように思えてしまうかもしれません。

しかし、報酬が得られるわけでもなければ、宣伝になるわけでもない場所で表明された意見に価値があることなど滅多にありません。

それでも積極的に意見を発信している人というのは「私の意見には価値がある」と自分を過大評価をしているということです。

そうした尊大さを持っていないぶん、意見を持っていない人のほうがまともとさえいえます。

評価欲求を無理に強めなくとも、求められたときに何か言える程度の準備だけしておくくらいが丁度良いのです。

自分の意見が自然と湧いてこない人のほうが、冷静かつ客観的に物事を捉えやすいので、価値のある意見が生まれやすいともいえます。

参考文献:Jarvis, W. B. G., & Petty, R. E. (1996). The need to evaluate. Journal of Personality and Social Psychology, 70(1), 172–194.