田舎の人と都会の人はどちらが優しいのか?ということを調べた面白い実験があります。
道にわざと未投函の手紙を落とし、それが戻ってくる数を調べたのです。今回はその実験を紹介したいと思います。
田舎の人はのんびりして温かそうだけど、都会の人は個人主義で冷たそうというイメージを持っている人が多いかもしれません。
自然に囲まれた場所で過ごしているほうが穏やかな性格になりそうなイメージがあります。
しかし最近ネットなどでは都会から地方へ移住した住民が地元民から酷い扱いを受けたなどという話も取り上げられます。
そういったエピソードを知ると田舎者のほうが陰湿で性格が悪いのではないか?と考える人もいるでしょう。
実際のところはどうなのでしょうか?
都会は1回きりのゲーム、田舎は複数回のゲーム
行動経済学でも田舎の人のほうが他人に優しいとか親切であるという理由を説明するモデルがありますので先にそれを説明します。
1回きりのゲームなのか、複数回のゲームなのか?というものです。
親切にしておかないと復讐される
ゲームの主催者がAさんに1万円を渡し「これをBさんと分けてください、分ける比率はAさんが決めて良いですよ。均等に5,000円ずつでも良いですし、自分が9,000円でBさんが1,000円でも良いですよ」と説明します。
このときにAさんとBさんがもう二度と会うことがないと分かっていると、Aさんは自分のほうを多くする可能性が高いことが複数の実験から分かっています。
しかし「このゲームは2回以上行います、何回続くかは内緒です。次のゲームでお金の配分を決めるのはBさんです」と言われたらAさんが均等に分ける可能性が高まります。
そうしないと2回目以降の配分でBさんに復讐される可能性があるからです。
都会では他人に親切にするメリットがない
1回きりのゲームは都会に住むのと同じことです。マンションの隣の部屋の人が次回も近所に住む可能性は非常に低いですから、親切にするメリットがありません。
複数回のゲームは田舎に住むのと同じです。近所の人とこれから先も付き合っていく可能性が高いですから親切にするメリットがあります。
田舎の人は近所の人に親切にしているため、それが標準モードになり優しくなります。
ちなみに街中で絡んでくるアカの他人にはめちゃくちゃ強気に出られるのに明日も会う可能性のある人には強く出られないという人がいますが、そういう人もこのモデルで説明したのと同じことなのです。
わざと手紙を落とす実験
実際に田舎の人のほうが親切なのか?ということを調べる実験があります。
ロストレター(失われた手紙)法という実験です。
どういう実験かというと通行人に拾ってらうために手紙を道端などにわざと落としておくのです。
そこには宛名が書かれていて切手も貼られています。それがどれくらい戻ってくるか?ということを調べるのです。
例えば田舎と都会に100通ずつの手紙を落として、そのうち何割が戻ってくるのか?ということです。
たくさん戻ってくる場所のほうが親切な人が多いということになります。
この実験をこれまで複数の研究者が行っていますが結果はバラバラです。
田舎のほうがたくさん戻ってきたという結果もあれば、都会のほうがたくさん戻ってきたという結果もありますし、違いはなかったという結果もあります。
親切かどうかは田舎者か都会者かの違いではなかった
西オーストラリア大学が同じ実験をしました。
その結果、都会で落とした手紙のほうが多く戻ってきましたが、統計的な有意差があるとはいえないくらいの差でした。
つまり、もう1回同じ実験をしたら今度は田舎のほうが多く戻ってくる可能性もあるというくらいの差だったのです。
「社会経済的な地位(Socioeconomic Status)」が高い人は親切
しかし、これを別の切り口で見た場合に差を出せる基準がありました。
何かといったら「社会経済的な地位(Socioeconomic Status)」です。
要するに収入や地位、学歴です。
そういったものが高い人が住んでいる地域は田舎か都会かに関係なく手紙が戻ってくる確率が高かったのです。
つまり親切かどうかは田舎者か都会者かの違いではなく、社会経済的な地位の問題だったということです。
「情けは人のためならず」と考えられない
なぜこのような結果になるのでしょうか?
それは社会経済的な地位が低い人は自分のことで精一杯なため、他人を思いやる余裕がないからではないかと考えられます。
他の実験でも社会経済的な地位が低い人は報酬を得られるまでに時間のかかるものには投資をしないということも分かっています。
1年後に貰える2万円よりも、今貰える1万円を選ぶということです。(これが社会経済的な地位が低いままの理由でもありますが…)
他人に親切にするのもこれと同じです。親切にしたからといってすぐに親切が返ってくるわけではありません。
「情けは人のためならず」という考えになり難いのです。
高級住宅街の車は横断歩道で止まる
社会経済的な地位が高い人のほうが親切だということは身近なところでも体験します。
たとえば住宅街を歩いてるとき横断歩道に差し掛かったとします。
そういうときはやはり社会経済的な地位が高い人が住んでいるとされる高級住宅街は田舎か都会かに限らずきちんと止まる車が多いです。
田舎生まれ、田舎育ち、近所の奴はだいたい親戚
Iターンで田舎に住みたいという人も増えています。
そういう人は自然が豊であるということだけで場所を選ぶのではなく、そこに住んでいる人たちの社会経済的な地位もしっかりと調べたほうが良いと思います。
別の実験ですが落とした手紙の宛名に評判の悪い人の名前が書いてあった場合、田舎のほうが戻ってくる確率が低いということも分かっています。
これは何を意味するかというと「コミュニティで嫌われている人間はイジメても良い」という考え方は田舎のほうが強いということです。
田舎生まれ、田舎育ち、近所の奴はだいたい親戚のような住民が多い場所に住むときは注意してください。
参考文献:Cyril C. Grueter, Grace Westlake & David Coall. Urban Civility: City Dwellers Are Not Less Prososcial Than Their Rural Counterparts. Evolutionary Psychological Science volume 6. (2020).